コロナ禍で介護施設の面会制限、ホントに必要? 専門家「過剰反応」との指摘も

タブレット端末に映る長男の一さんと話す益子兼次さん(手前)=3月10日、群馬県渋川市の特別養護老人ホーム「永光荘」

  新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの介護施設が入所者と家族らの面会を制限している。3回目の緊急事態宣言が12日から東京、大阪、福岡など計6都府県に拡大され、直に会えない状態は長期化。感染がそれほど広がっていない地域で制限している施設もあり、職員からは「マスク着用などを徹底すれば問題ないと思うが、世間やメディアからの批判が怖い」との本音も。短時間の面会で感染するリスクはどれほどあるのか。専門家の意見は―。課題を探った。(共同通信=市川亨)

 ▽会わせてやりたい

 「ちゃんとご飯食べてる?」「食べてるよ」

 3月上旬、群馬県渋川市の特別養護老人ホーム(特養)「永光荘」。入所者の益子兼次さん(90)がタブレット端末に映る長男、一さん(44)の問い掛けに答えた。「会えるようになったら、すぐに会いたい。おやじと話したいことがいっぱいある」。一さんはそう切望する。

 同ホームはコロナの感染が広がり始めた昨年2月、面会を中止。同6月からはマスク着用などの感染防止策を取った上で短時間の対面にしたが、県の基準で禁止になったため、みとり期の入所者を除いて12月から原則オンライン面会のみとした。

 だが、村上忠明施設長(60)は「認知症の人の場合、テレビだと思ってしまうのか、家族が映っていても認識できないことも多い」と話す。家族のほうも高齢だと、スマートフォンやパソコンでオンライン面会の設定が分からないというケースがある。

 コロナ禍前は1カ月に30~40人の家族が訪れていたが、「直接会えないんだったら、いいです」という声が多く、オンライン面会は月に10件程度にとどまる。

 「実際に会って触れ合ったり顔を寄せ合ったりすると、入所者の気持ちは全然違う。会わせてやりたい」と介護職員。村上施設長は「県の基準は厳し過ぎると思うが、対面に戻して、万が一クラスター(感染者集団)が起きたら、メディアにたたかれる」と悩ましげだ。

 ▽苦渋の選択

 せめて直接、顔を見てもらおうとガラス越し面会にしたのは、千葉県船橋市の特養「三山園」。

 「コロナがなくなったら、みんなで会いに来るからね」。3月上旬、同市内に住む千葉節子さん(80)は建物の中にいる夫の敏夫さん(84)に、テラスからガラス越しに手を振った。声が聞こえるようホームのPHSを使う。「ガラス越しでも、実際に顔を見ると安心する」と節子さん。コロナ禍前は予約なしで居室まで自由に会いに行けた。「本当は手をつないだりできるといいんだけど…」と漏らした。

特別養護老人ホーム「三山園」に入所する夫の千葉敏夫さん(右)とPHSを使ってガラス越しに話す妻の節子さん

 ホームがガラス越しの面会に切り替えたのは、コロナの感染が広がり始めた昨年3月。1回目の緊急事態宣言が同5月に解除された後は、手指消毒やマスク着用などの感染防止策を取った上で面会室での対面にしたが、今年1月の2回目の宣言発令で再びガラス越しに戻した。

 渡辺純子園長(54)は「申し訳ないが、万が一のことを考えると、こうせざるを得ない。入所者の生活の質と感染防止をてんびんにかけて、これが最善の方法だろうと考えた」と苦しい胸の内を明かす。

 ▽心身に悪影響

 厚生労働省は介護施設での対面による面会を禁止しているわけではない。昨年4月には原則、面会を制限するよう求める通知を自治体に出したが、同10月に緩和。「第4波」による今年4月25日の緊急事態宣言を受けて出した通知でも「地域の発生状況等を踏まえ、緊急やむを得ない場合を除き制限する等の対応を検討すること」としつつ、「面会の実施にあたっては感染防止対策を徹底すること」と対面も容認している。

 背景には、面会制限が入所者に与える

3回目の緊急事態宣言を受け、4月下旬に厚生労働省が自治体に出した通知

悪影響がある。広島大などが高齢者向けの医療・介護施設を対象に昨年6月に実施した調査では、回答した945カ所の98・5%が面会を制限。4割近くの施設は、刺激が少なくなったことで認知症の人に心身の機能低下などの影響が見られたと答えた。

 北海道医療大の塚本容子教授(感染看護学)は「手指消毒や換気、双方の適切なマスク着用などの対策を徹底すれば、対面でも感染リスクはかなり低く、多少であれば体に触れても問題ない」と指摘。「感染が広がっている地域ではやむを得ない面もあるが、そうでない地域で面会を制限するのは明らかに過剰反応だ」との見解を示す。

 その上で「特に認知症のある人にとっては、心を許せる人との対話は生活の質を保つ上でとても大事。その機会を奪ってはいけない。なぜ直に会えないのか理解できない人もいるので、ガラス越しやパーティション越しだと、『目の前にいるのに冷たいな』と思ってしまう可能性もある。面会制限はデメリットの方が大きい」と話している。

 ▽取材を終えて

 画面やガラス越しに手が届きそうな互いの顔。耳が遠い入所者に家族の声を代わりに伝える職員。面会制限の現場は、顔を見ることができたうれしさの一方、切なさとジレンマに包まれていた。

 私の80代の父も山梨県内の介護施設に入所中だ。今年3月、家族と面会に行ったが、やはり対面は禁止で正面入り口のガラス扉越しの面会となった。

 耳が遠くなった父に聞こえるよう大声で話し掛ける。父は涙ぐんでいた。対面で会えたとしてもうれしくて泣くのだろうけれど、私自身も切なくなった。

山梨県内の介護施設に入所する記者の父(右)とガラス越しに面会する家族ら=3月

 施設の入り口には赤い大きな字で「面会制限中」と書いた紙が張られていた。何だか「来ないでください」と言われているようだ。でも、介護施設で面会からクラスターが発生した例は少なくとも聞いたことがない。逆に、面会を制限していてもクラスターが起きた例はある。

 「感染を起こしたら犯罪者扱い」(ある特養施設長)のような報道をしたり、過剰な対策を求めたりする私たちメディアにも問題があるだろう。いろんなことが絡み合って、この状況が生まれている。

© 一般社団法人共同通信社