NASA火星ヘリ5回目の飛行で新たな離発着地点へ移動、前回飛行時の飛行音も公開

【▲ 片道飛行を終えて新たな離発着地点に降り立った火星ヘリコプター「Ingenuity」(左)。火星探査車「Perseverance」のズーム対応カメラ「Mastcam-Z」にて撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)は現地時間5月7日、火星ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」が5回目の飛行に成功したことを発表しました。今回Ingenuityは離れた場所に設定された新しい離発着地点への片道飛行を行っており、ミッションは新たな段階へと進みつつあります。

今回の飛行は日本時間5月8日4時26分に始まりました。過去4回の飛行で離発着を行った「ライト兄弟飛行場」を離陸したIngenuityは、南へ129m離れた場所に新たに設定された離発着地点へと飛行。新しい離発着地点の上空に到着したIngenuityは、これまでで最も高い高度10mまで上昇し、周辺のカラー画像を撮影した後に着陸しています。飛行時間は合計108秒間でした。

【▲ 初の片道飛行となった5回目の飛行を行う火星ヘリコプター「Ingenuity」。 火星探査車「Perseverance」のナビゲーション用カメラ「Navcam」にて撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

2021年2月に火星のジェゼロ・クレーターへ着陸した探査車「Perseverance(パーセベランス、パーサヴィアランス)」に搭載されて火星に到着したIngenuityのミッションは、飛ぶことそのものが目的だった飛行技術の実証段階から、火星探査における航空機の可能性を探る運用技術の実証段階へと進みます。JPLによると、Perseveranceが到達できないエリアを空中から観測したり、ナビゲーション用のモノクロカメラを使ったステレオ画像を取得したりといった、Ingenuityによる「偵察飛行」が計画されています。

ただ、Ingenuityの運用には通信の中継役となるPerseveranceが欠かせません。今後のIngenuityは、Perseveranceと歩調を合わせて片道飛行を繰り返しつつ、本来の探査活動に影響しない範囲での実証飛行が計画・実施されていくことになります。

■4回目の飛行時に録音されたIngenuityの飛行音付き動画も公開

また、4月30日に実施されたIngenuityによる4回目の飛行時にPerseveranceが録音した、Ingenuityの飛行音を含む動画がJPLから公開されています。
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▲Perseveranceが撮影・録音したIngenuityによる4回目の飛行時の様子▲
(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/MSSS/LANL/CNES/CNRS/ISAE-SUPAERO)

こちらが公開されている動画です(テキストは英語)。再生を始めると0:05からマイクが捉えた風の音が聞こえ始めますが、注意深く耳を澄ませていると、画面右側に見えるIngenuityが離陸する0:20あたりから「ブーン」というくぐもった音が聞こえ始めます。これは飛行中に毎分2537回という高速でローターを回転させるIngenuityの飛行音が、Perseveranceのマストに設置されている観測装置「SuperCam」のマイクによって捉えられたものです。

飛行音はIngenuityが画面左側へと飛び去っていった後も聞こえ続けており、合計266mの往復飛行を終えて戻ってきたIngenuityが着陸した後の2:20頃まで続きます。JPLによると、火星の薄い大気が音の伝搬を減衰させることから、Ingenuityから80m離れた場所に停車していたPerseveranceのマイクが飛行音を捉えることができるかどうかは確かではなかったとのことです。

関連:ミッションは新たな段階へ! NASA火星ヘリ4回目は266mを飛んで記録更新

Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL (1) / NASA/JPL (2)
文/松村武宏

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