【 4 】 魚包む古新聞 「気になる記事は読みますね」 漁師 中山隼人さん(19)の場合

「若者の新聞離れ」が言われて久しい。興味の多様化や情報機器の発達、ライフスタイルの変容で、マスメディアに求められる形や内容も様変わりした。これまで長崎新聞は、若者たちの声や要望をどれだけ聞いてきただろうか。「シンブンってものが、ありまして」―。記者が県内のさまざまな若者たちを訪ね、新聞との接点を探った。

 
午前3時半、島にはまだ新聞が届いていない。五島市の漁師、中山隼人(19)が目覚める時間だ。狙うはノドグロ。夜明けとともに、仕掛けを揚げる。

春先のある朝、仕掛けを繕う隼人を訪ねた。

 

漁を終え、LINEニュースで「寝落ち」


中学を出ると、憧れた祖父や伯父と同じ漁師の道に迷わず進んだ。それから4年。孫の成長を見届けた祖父は船を下り、隼人は伯父と2人で海に繰り出す。

「休みは…しけた時くらいっすね」。28日連続で働いたこともある。捕れる量は日々変わり、決まった給料があるわけでもない。

でもこの仕事に不満はない。むしろ「楽しい」との思いは強まるばかり。赤い魚体がゆらりと海面に浮かび上がる瞬間が、好きだ。

漁の後も、翌朝に備えて絡んだ仕掛けを解き、針に餌を掛ける。全て終わるのは午後2時近い。その後は「友だちの話についていける程度」に、スマートフォンで無料のLINE(ライン)ニュースを眺めて寝落ち。ドライブやカラオケに誘われれば行く。

当然、ゆっくりと新聞を広げる―なんて日常はない。

 

「全く読まないわけじゃない」


「でも」。気を使ってくれたのか、隼人は「全く読まないわけじゃない」と言う。それは、古新聞を作業場に敷いたり魚を包んだりするとき。

「漁師の話とかコロナとか。気になる記事があると、つい読みますね。本当ですよ」

うれしさの半面、彼のような若者が「気になる」テーマを探る手段を、記者が持っていないことにも気付く。

取材当時、会社の同僚とある構想を練っていた。ラインなどのSNS(会員制交流サイト)で読者から取材依頼や情報などを募り、それを基に記者が取材する企画。隼人に中身を打ち明けた。

「いいですね。小さな子の意見も聞いて、みんなが読める新聞がいい」とほほ笑む隼人。ふと思い付いたように言った。「それ、漁師でもいいんですか」

もちろん。この長崎に生きる、あなたたちの声を聞いていきます。

 

=文中敬称略=

記者:三代直矢(29歳)

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