<社説>沖縄・奄美世界遺産に 最高水準の保全目指そう

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際自然保護連合(IUCN)は「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」(鹿児島、沖縄)を世界自然遺産に登録するよう勧告した。 希少な固有種が生息する琉球弧の生物多様性の保全の必要性が認められたことを歓迎する。世界遺産登録の本決定に向け大きな一歩であり、世界最高レベルの保全管理を目指してほしい。

 対象になる沖縄島北部近隣に米軍北部訓練場が広がる。名護市辺野古の海域を埋め立て新たな基地建設が進められている。基地は最大の自然環境かく乱要因である。登録をきっかけに北部訓練場の全面返還と、新基地建設の中止を強く求める。

 遺産登録へ日本政府が推薦した区域は大部分が森林だ。かつて大陸とつながっていたが海面上昇で島となり、イリオモテヤマネコ、ヤンバルクイナ、アマミノクロウサギなど多くの固有種がそれぞれの島で独自の進化を遂げた。

 2018年に政府が推薦した区域は飛び地状だったため、IUCNは生態系の連続性を維持するため地域を再考するよう求め、延期を勧告した。政府は米軍北部訓練場の返還地、西表島では河川の流域などを区域に追加して推薦書を再提出した。

 この間、県希少野生動植物保護条例の施行、西表島で入島上限人数目標の設定、やんばる3村は認証ガイド導入、奄美大島のマングース駆除などの取り組みが評価されたのだろう。

 IUCN勧告は今後に向けて(1)特に西表島で観光客数の上限設定か減少措置(2)希少種の交通事故死減のための交通管理(3)河川再生戦略(4)緩衝地帯の森林伐採の適切な管理―を指摘している。指摘事項を着実に実現してほしい。

 専門家が指摘するように今後の課題として、世界遺産地域を陸域だけでなく海域に拡大し、奄美・琉球諸島の豊かな海の生物多様性を次世代に伝える取り組みが必要だ。

 一方、16年の北部訓練場の過半の返還に伴い、ヘリコプター発着帯(ヘリパッド)が残りの訓練場内に新設された。ヘリパッド運用開始以降、米軍は昼夜を問わず訓練を繰り返し、騒音や振動を引き起こしている。北部訓練場の運用が周辺環境に与える影響について玉城デニー知事は「遺産登録に影響が生じることはない」との見解を示した。認識が甘くないか。登録は保全のスタートにすぎない。

 辺野古新基地が建設されれば、北部訓練場や伊江島補助飛行場など、米軍機による米軍施設間の往来が増え環境への影響が懸念される。

 北部訓練場の返還地から放射性物質や薬きょうなど廃棄物が見つかり、過去には米退役軍人省が枯れ葉剤使用を認定している。世界遺産登録地域の最大の環境保全策は、登録地域と隣り合わせの米軍施設の全面返還である。

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