つじつま合わせ

 劇作家の寺山修司が散文のような、詩のような一編を残している。〈肖像画に/まちがって髭(ひげ)を描(か)いてしまったので/ほんとに/髭を生やすことにした〉〈門番を/まちがって雇ってしまったので/ほんとに/門を作ることにした〉▲生やしたひげや門は、つじつま合わせの産物だろう。これに倣えば、高齢者向けのコロナワクチン接種はこうなるだろうか。〈7月末までと言ってしまったので/1日100万回打つことにした〉▲4月下旬、菅義偉首相は「7月末をめどに高齢者接種を終えたい」と表明した。海外から手に入る見通しが立ったので大丈夫、と▲続いて今月7日には「1日100万回が目標」と明言する。全国で1日に接種できる数を足し算したら100万回になる、というまともな理屈…ではない▲対象の高齢者は3600万人、2回打てば7200万回分が必要になる。7月末までほぼ80日で、1日に100万回打てば8千万回。よし、これならクリア…。100万回は「7月末」の期限から逆算した皮算用、つじつま合わせで、「至難の業」とする周りの反対を首相が押し切ったという▲功を焦る首相に振り回されるのは、自治体であり国民だろう。一部では予約を巡り混乱している。ひげを生やすように、門を作るように、たやすくいくわけがない。(徹)

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