2020年「全国新設法人動向」調査

 2020年(1-12月)に新しく設立された法人(以下、新設法人)は13万1,238社(前年比0.1%減、前年13万1,398社)で、2018年以来、2年ぶりに前年を下回った。業種別では、2019年より宿泊業が32.2%減(1,175社→796社)、飲食業が12.7%減(7,997社→6,981社)で、この2業種で1,395社減少した。コロナ禍での移動制限、三密回避が企業業績に大きな影響を与えているが、新設法人の動向にも影響したようだ。
 2020年の新設法人の商号で最も多かったのは、「LINK」の51社(前年30社)で、「結びつき」や「絆」を重視している。一方、2019年に最多だった「令和」は9社(同55社)へ激減した。改元は法人名にも大きなインパクトを与えたが、時間の経過とともに減少している。

  • ※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(対象400万社)から、2020年(1-12月)に全国で新しく設立された全法人を抽出、分析した。

2020年の新設法人は前年比0.1%減、2年ぶりに減少

 2020年の新設法人は、13万1,238社(前年13万1,398社)だった。2018年はリーマン・ショック直後の2009年以来、9年ぶりに減少。2019年は増加に転じたが、2020年は再び減少した。
 2020年の休廃業・解散は4万9,698社(前年比14.6%増)、倒産は7,773社(同7.2%減)だった。コロナ禍で休廃業・解散による企業の市場からの退出が増加し、新設法人数も減少した。経済の活性化には企業の「新陳代謝」が不可欠だが、「代謝」が先行する事態に陥っている。

新設法人

新設法人の商号、「令和」が激減

 2020年の新設法人で最も多かった商号は、「LINK」の51社(前年30社)だった。「結びつき」や「連結」、「絆」などを意味しているとみられる。2位は46社で「アシスト」(同45社)、3位は「NEXT」の44社(同32社)、4位は「トラスト」(同40社)と「エイト」(同25社)でそれぞれ36社、6位は「ONE」の35社(同26社)の順。前向きで未来志向、親和性、独自性を重んじる商号が並ぶ。
 一方、2019年に最も多かった「令和」は9社(前年55社)にとどまった。2019年5月の改元に伴い数多く設立されたが、年が変わって一服した。「REIWA」も3社(同26社)に激減し、元号を冠する「令和企業」は改元イヤーほどの熱は落ち着いたようだ。

新設法人

産業別、情報通信業が増加率トップ

 産業別では、10産業のうち、6産業が前年より増加、4産業が減少した。  増加率トップは、情報通信業の7.6%増(1万2,223社→1万3,154社)だった。金融機関や大手企業でIT投資が続くほか、中小企業でも生産性向上への投資を見越した動きやコロナ禍で加速したリモートワーク需要も背中を押したとみられる。
 また、コロナ禍でネット通販が活発で市場が拡大した運輸業は3.3%増(2,510社→2,593社)だった。
 一方、前年に増加率トップ(5.7%増)だった建設業は0.6%減(1万1,414社→1万1,341社)と減少に転じた。コロナ禍で資材流通の混乱や感染防止による現場進行の遅れもあったが、民需停滞の影響なども反映した可能性がある。
 また、サービス業他は2.6%減(5万7,607社→5万6,052社)だった。設立数は5万社を超え、他を大きく引き離してトップで、新設法人の42.7%を占めるが、コロナ禍が直撃した業種だけに今後の動向が注目される。

新設法人

業種別、宿泊業が32.2%減

 産業を細分化した業種の増減を分析した。2020年の設立数が100社以上で、最も減少率が大きかったのは宿泊業の32.2%減(1,175社→796社)だった。また、繊維・衣服・身の回り品小売業は17.7%減(727社中→598社)、飲食業は12.7%減(7,997社→6,981社)で、コロナ禍が直撃した業種の減少率が大きい。
 一方、増加率が最も大きかったのは、各種商品小売業の38.8%増(733社→1,018社)だった。コロナ禍で激変した消費行動に商機を見出し、新たな商流をキャッチアップしようとする動きが広がっているようだ。

法人格別、特定非営利活動(NPO)法人と医療法人が大幅減

 法人格別の社数は、株式会社が8万6,620社(前年比2.6%減)で、全体の66.0%を占めた。
 増加が続く合同会社は、3万3,287社(前年比10.1%増、構成比25.3%)で、初めて3万3,000社を超えた。新設法人の4社に1社を占めるまでに増えた合同会社は、設立コストが安く、株主総会も不要など、経営の自由度が高く、メリットが浸透してきたようだ。
 一方、特定非営利活動(NPO)法人は1,342社(前年比15.0%減、構成比1.0%)、医療法人は1,161社(同13.8%減、同0.8%)と大幅に減少した。

 2020年の全国の新設法人は13万1,238社(前年比0.1%減)で、2年ぶりに前年を下回った。
 新設法人はコロナ禍の影響を色濃く反映し、サービス業他は5万6,052社(前年比2.6%減)に減少した。三密回避や外出自粛、移動制限の影響が大きく、宿泊業は796社(同32.2%減)、飲食業は6,981社(同12.7%減)と減少幅が大きかった。政府は、2030年に訪日外国人を6,000万人とする目標を掲げるが、コロナ禍で様相が一変した。
 法人格別では、特定非営利活動(NPO)法人が1,342社(前年比15.0%減)、医療法人が1,161社(同13.8%減)と大幅に減少した。NPO法人の新設数減少は、社会的弱者支援の網の目が粗くなる恐れがある。また、医療法人の減少は、感染防止での受診控えが広がり、医療機関の収支が悪化するなかで注目される。
 2020年の休廃業・解散は4万9,698社(前年比14.6%増)、倒産は7,773社(同7.2%減)で、6万社近くが1年間で市場から退出した。2020年の企業支援策は、コロナ禍で給付・貸付・リスケ(返済猶予)の「一律救済」で、市場からの退出数は当初予想より大幅に抑制された。ただ、既存企業への支援が優先された格好で、法人設立の後押しに向けた更なる取り組みも必要だ。
 ポストコロナに向け、リスケ継続や事業再構築支援など既存企業への支援は拡充されつつある。しかし、市場拡大や経済の活性化には「新たな力」も欠かせない。コロナ禍で業種間の新設動向には濃淡があり、こうした業種への底上げにも考慮した対応策が求められる。

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