42歳独身フリーランス「実家に居づらいのでひとり暮らしを始めたい」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、42歳、自営業の女性。現在実家暮らしの相談者。40歳を過ぎて居心地が悪くなり、ひとり暮らしを始めたいと考えているそうです。ただ、不安定なフリーランスのため、老後資金のことも考えると、現実的なのでしょうか? FPの黒田尚子氏がお答えします。

「結婚するまでは家にいればいい」と言われてずっと実家暮らしですが、40歳をすぎていよいよ居心地が悪くなり、実家を離れてひとり暮らしをしようと考えています。

ただ不安定な収入でひとり暮らしを始めた場合、老後資金が確保できるか心配です。フリーランスなのでひとり暮らしする場合は仕事用の部屋が欲しくて、2DK以上で考えていて家賃(共益費、管理費込み)で7万円台を想定しています。今まである程度の貯金はできていますが、ひとり暮らしを始めたら貯金ができなさそうです。収入は手取りで月10〜40万円と不安定で、ゼロになる可能性もなくはありません。もっと小さな部屋で我慢すべきか、ひとり暮らし自体を断念しないといけないのか教えていただきたいです。

収入は月3万円程度のパートを含みますが、ひとり暮らしで引っ越すとパートが続けられないのでその分減収になります。今は実家にお金を入れていないので、ひとり暮らしをしても実家への仕送りは不要と思われます。

【相談者プロフィール】

・女性、42歳、自営業、独身

・同居家族について:母…70代専業主婦、健康。弟…会社員(40代独身、年収400万程度)

・住居の形態:親の家で同居

・毎月の世帯の手取り金額:20万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:0円

・食費:2万円

・水道光熱費:0円

・教育費:0円

・保険料:1万円

・通信費:1万円

・車両費:0円

・お小遣い:5万円

・その他:2万円

・毎月の世帯の支出の目安:10万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:6万円

・現在の貯蓄総額:1,000万円

・現在の投資総額: iDeCo…1年半前から月2万円で積み立てていて、現在40万円程度(投資額30万円)

・退職金なし

・老後資金:国民年金(満額支払っています)

・現在の負債総額:0円


黒田:確かに、「どうせ結婚したら実家を出ていくんだし……」と実家暮らしを続けていて、未婚のまま現在に至るという方は少なくないと思います。経済的自立と精神的自立は両輪(セット)ですので、社会人として自立したいのであれば、ひとり暮らしをお勧めします。ただし、40代ともなれば、老後のことも気にかかる年代ですし、親も70〜80代で、もうそろそろ介護や病気なども考えておいた方が安心です。経済的なことを考慮すると、老後資金の準備を優先させたいのであれば、このまま実家暮らしを続けた方が断然有利でしょう。

ひとり暮らしを始める場合、まずは、どれだけ費用がかかる?

実家から出て、ひとり暮らしを始めるとなれば、毎月の家賃や共益費だけでなく、契約時に敷金、礼金、仲介手数料などが必要です。これらは、地域や物件によって変わってきますが、おもに次の図表のようなものが挙げられます【図表1参照】。

あわせて、ご相談者のご希望の物件(仕事用の部屋が欲しいため2DK以上で家賃《共益費、管理費込み》7万円台)でかかる費用を試算してみると、初期費用だけでざっと約68万円以上!

初期費用を抑える選択肢は?

ただ、物件の中には、敷金・礼金不要のものもありますし、不動産仲介業者を通さずに、大家さんに直接交渉すれば、仲介手数料もゼロになります。また、都市再生機構が管理している公的なUR賃貸住宅であれば、保証人、礼金、仲介手数料、更新料はかかりません。一般的な民間の賃貸住宅に比べて初期費用を抑えることができるでしょう。

しかし、UR賃貸住宅は、都心近郊にあることが多く、駅から遠かったり、敷地や部屋の面積が広めに作られているので、同じ部屋数の民間の賃貸住宅よりも家賃がやや高めだったりします。また、保証人が不要の代わりに、入居者本人への収入要件など審査は厳しめ。単身で申し込む場合、家賃6万2,500円以上 20万円未満であれば、基準月収額は25万円(固定額)となっています(基準に満たない場合、家賃等の一時払い制度や貯蓄基準制度の利用も可)。

収入に関しては、基本的に、入居審査を受ける場合、源泉徴収票や確定申告書の写しなどの収入証明書の提出が必須です。家賃を滞納することなく、支払い能力があるかどうかをチェックされるわけですが、やはり、収入が不安定な自営業・自由業は不利になりがちです。

毎月の生活費で支出はどれくらい増える?

さらに、入居時の初期費用だけでなく、これから生活していくための費用もかかります。

実家暮らしと比べて、ひとり暮らしになると、家賃などの住居費や食費、水道光熱費がかかってきますし、通信費や日用雑貨も増える傾向があります。総務省の家計調査単身世帯(平均年齢59.0歳)の消費支出は、平均月額16万3,781円で、このうち、食料4万4,263円、水道光熱費1万1,652円となっています(※)。

これを参考に、ひとり暮らしをスタートさせた場合の支出を試算してみました【図表2】。

この結果、実家暮らしである現在の支出11万円に対して、ひとり暮らしになると22万円と倍増します。それに対して、毎月の収入20万円が、ひとり暮らしになった場合、パート代3万円の減少で17万円になりますので、このままでは、毎月5万円、年額60万円もの赤字が出てしまう計算です。

現在の貯蓄1,000万円を取り崩していくと、約17年(1,000万円÷60万円=16.666年)で底をつきます。それでもご相談者は59歳。年金受給開始の65歳まで、まだ6年も待たねばなりません。

※総務省「家計調査/家計収支編 単身世帯 年報(2019年)」
http://www.stat.go.jp/data/kakei/2019np/gaikyo/pdf/gk02.pdf

老後資金はどれだけ必要?

さらに65歳までに必要な老後資金から逆算して考えてみましょう。

ご相談者は自営業ですから、65歳から老齢基礎年金のみ受給すると仮定します。2021年度の老齢基礎年金の年金額は満額で、月額6万5,075円です。

前掲の総務省の家計調査によると、高齢単身無職世帯(60歳以上の単身無職世帯)の消費支出は13万9,739円で、差し引き約7.5万円です。2019年の簡易生命表では、65歳時点の平均余命は女性24.63年となっていますので、65歳時点で不足する金額は7.5万円×12ヵ月×24.63年=約2,217万円。まさに「老後資金2,000万円不足」というわけです。

ご相談者には、現時点で1,000万円の預貯金(iDeCo分除く)がありますから、これを差し引いて、今から23年間で1,217万円を貯める必要があり、金利等を考慮せずに年間約53万円。月額4.4万円の積み立てをしていくと目標に到達します。

実家暮らしの場合は、このままであれば実現可能ですが、ひとり暮らしになると、もっと収入を増やさなければ、老後資金の準備どころか生活が立ち行かなくなってしまいます。

家族が助け合って暮らしていくことが経済的かつ身体的な安定につながる

結論として、実家暮らしの居心地の悪さよりも、老後資金を貯める方の優先順位が高いのであれば、ここは割り切って、このまま実家暮らしを継続させた方が良いと思います。とりわけ、ご相談者が収入の不安定な自営業者であるという点も加味した上です。

経済的には、ひとり暮らしというのは割高ですし、ちょっと風邪を引いたり体調が悪くなったりした時に、誰も面倒や世話をしてくれる家族が身近にいないのは心細いものです。それは、お母さまも一緒ではないでしょうか? 今は健康でも、70代なら10年後は80代。ご相談者は50代になります。がんや脳血管疾患、心疾患、認知症、介護など、疾病リスクが高まる時期ですので、万が一何かあった場合に備えて、家族で助け合って暮らしていくことが、身体的かつ経済的な安定につながるはずです。

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