心に異変、支え必要 第6部 いま、コロナ禍で (1)子どもたち

色鉛筆や卓球台などたくさんの遊び道具が用意された「西真岡ドリームスクール」。専門職が見守る中、子どもたちは自由に過ごす=3月23日、真岡市高勢町3丁目

 短い夏休みが明けてからだった。県内の高校2年生川原海翔(かわはらかいと)さん(16)=仮名=は「言葉で表せない」ような強烈なしんどさを覚えるようになった。

 1カ月の間に、調子が良い時と深い絶望感に襲われる時、無性にいらいらする時が次々に訪れる。腹痛が頻繁に襲い、大きなため息を繰り返した。

 昨年12月、かかりつけの西真岡こどもクリニックで相談し、血液検査を受けたが異常はなかった。

 疲労感の原因に心当たりはあった。新型コロナウイルスを巡る政府の対応や有識者の発言、政治家の不祥事、それらを報じるマスコミ-。「テレビを見ていると、自分ならこうするのにとか、国会議員も疲れてるんだろうなとか、考えがどんどん湧いて来ちゃって」

 連日の報道から目が離せず、街頭インタビューに応じる通行人のマスクの付け方まで気に障った。「大衆が感染対策できていないじゃないか」。ストレスはさらに募ったが、時間を経て自分なりの答えを導いた。

 「自分の発信で世の中が変わるわけじゃないし、余計に疲れるだけ。今できる感染予防をするしかない」。気持ちに折り合いを付けてメディアから少し離れると、自然と症状が治まった。

 コロナの感染拡大で昨春、約3カ月間の臨時休校措置が取られ、子どもたちを取り巻く環境は大きく変わった。国立成育医療研究センターが昨年11~12月に行ったアンケートでは、15~30%の子どもに中等度以上のうつ症状があることが明らかになった。子どもたちが抱えるストレスは看過できない問題だ。

 西真岡こどもクリニックが運営する不登校の子どもらの居場所「西真岡ドリームスクール」。そこを利用する子どもが増えたのも川原さんが不調を訴えた時期と重なる。夏休みごろまで10人未満だったドリームスクール登録者は10月下旬から増え始め、年明けには22人になった。

 「勉強が分からなくなった」「先生の声の大きさが気になる」など、訴えはさまざまだ。支援に当たる柳沢邦夫(やなぎさわくにお)さん(62)は「コロナ禍で学校生活がどんどん変わり、子どもたちにとっては毎日が非日常。感染が拡大し始めたころは我慢していた課題や不安があふれ出たのだろう」と説く。

 ストレスは、世界保健機関(WHO)が掲げる健康の社会的決定要因(SDH)の一つでもある。新たなドリームスクール参加者の中には活動中に過呼吸を起こすなど深刻なケースもあり、医師や心理士を呼んで対処する。「そういう対応ができることが、まさにここでやる意義」。柳沢さんは医療機関による居場所づくりの重要性を改めて感じている。

 コロナ下で、クリニックの取り組みは着実に進んだ。緊張感の強さから会話が難しい患者向けに専用スマートフォンを導入し、チャット機能で心理士らと関係を築いてドリームスクールに参加する子が何人もいる。3月から始まったドライブスルー外来には、不安感が強い子を医療につなぐ狙いもある。

 保護者の負担を減らすため送迎も検討しているが、取り組みはあくまでも手弁当。理事長で医師の仲島大輔(なかじまだいすけ)さん(50)はクラウドファンディング(CF)で資金集めに挑もうとしている。

 「うちだけのCFでなく、みんなで学校を支援しようというモデルになれたら。一例を作り、全国に伝えて連携できれば相乗効果がある」。そう信じて、歩みを進める。

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 新型コロナの影響で人とのつながりが脅かされ、経済的な打撃も著しい。変容が求められる社会でSDHの現状を追った。

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