交流育む仕掛け続々 第7部 支え合う未来へ (1)「健幸」のまち

多くの参加者が集まった「ヘルシーポールウオーキング教室」。足利市は人とのつながりに重点を置いた健康政策を進める=4月19日、同市五十部町

 色とりどりのウオーキング用ポールがれんが色のコースに弾む。

 足利市の五十部(よべ)運動公園で週2回行われる「ヘルシーポールウオーキング教室」。背筋をしゃんと伸ばして歩く約30人の高齢者の中に、特別な思いでグリップを握る参加者がいた。

 同市八幡町3丁目、大貫久美子(おおぬきくみこ)さん(75)は昨夏、公園に隣接する病院で夫をみとった。大貫さんが毎日公園に来て泣いていることを知った知人が誘ってくれたのが、この教室だった。

 運動を続け、椅子から楽に立ち上がれるようになった。他の参加者と話すと、同じ悲しみを経験していたことが分かり、心が癒やされた。「一人になると寂しいけど、教室に来れば楽しい。健康づくりを続けて旅行に行く目標ができました」

 足利市は脳血管疾患による死亡率が全国の約2倍と高い。「高血圧ゼロのまちづくり」の一環としてポールウオーキングの普及に取り組んでおり、本年度は「社会的運動処方」として、こうした地域資源に市民をつなぐ事業を始める予定だ。

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 取り組みのヒントは全国100超の自治体が加盟するスマートウエルネスシティ(SWC)首長研究会にあった。「健幸(けんこう)」をコンセプトにしたまちづくりは研究会の主要なテーマ。筑波大大学院教授で健康政策が専門の久野譜也(くのしんや)さん(58)が提唱し、本県からは足利市と大田原市が参画する。

 久野さんは山口県宇部市などで始めた医療機関との連携による運動療法のほかに「医療に行く前にその人に合う場を助言するコンシェルジュのような人を地域に配置すべきではないか」と提案する。そのモデルとして挙げるのが2009年の研究会発足時から共に活動してきた新潟県見附市にある「健康の駅」だ。

 健康の駅は08年、健康体験や情報発信の拠点として同市立病院内に開設された。保健師ら専門職が常駐して医療や子育て、仕事などあらゆる悩みを聞き、必要に応じて市の担当課や社会福祉協議会につなぐ。

 スタッフで元看護師の波多野礼子(はたのれいこ)さん(68)は「話し相手を求めて来る方もいる。何でも相談していい場として、健康全体を診ていけるのが理想」と話す。

 市内はコミュニティーバスが公共施設や医療機関がある3地区を結ぶ。見附市は温浴施設や広大な庭園などの集客施設を各地区に整備し、人との交流や歩く歩数が自然に増える仕掛けを次々に打ち出してきた。

 同市企画調整課の夫馬英之(ふまひでゆき)さん(46)は「一つ一つは目新しい取り組みではないが『健幸』の旗印の下、全庁体制でまちづくりをしている。そこが評価されている」と胸を張る。

 市の最上位計画にSWCの推進を盛り込み、介護認定率の抑制などに成果を上げてきた。特に後期高齢者1人当たりの年間医療費は全国より約20万円低い。

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 足利市健康増進課の小林靖(こばやしせい)さん(54)は思いを語る。「運動をきっかけに人や社会とつながれれば孤立を防げる。地域コミュニティーで誰も取り残さない」

 健康政策をめぐる課題は山積する。一つ一つ解決にこぎ着けるためにも、あらゆる仕掛けで無関心層を巻き込んでいく決意は固い。

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 人と人とのつながりをつくる「社会的処方」の推進は、まちづくりにもなる。より健康に暮らせる地域を目指す先進的な取り組みを取材した。

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