鍵は地域巡る支援の輪 第7部 支え合う未来へ (6)まちづくり(下)

車に乗り込む山村さん(左)。外出支援は生活に欠かせない=4月12日、三重県名張市内

 淡いブルーの軽乗用車が、地域の貴重な足になる。三重県名張市の外出支援活動。地域の有償ボランティアがハンドルを握り、市内を駆け巡る。

 利用者の1人、山村康永(やまむらやすえ)さん(85)は「本当に助かっています」と感謝する。通院や買い物で月4~5回ほど使っている。

 運転免許は夫婦で返納した。子どもも遠く離れて住む。気軽に使える移動手段は、生活になくてはならないインフラとなっている。

 運営するのは、市内10カ所にある地域支え合い事業の一つ、「隠(なばり)おたがいさん」。名張市の中心市街地として古くから栄えた名張地区で活動する。

 地区の住民がボランティアに登録し、同じ地域の人を助ける。移動支援のほか、草刈りや家の掃除など依頼はさまざま。2人のコーディネーターが内容や地域を基に、支援する人を割り当てる。

 利用する人もボランティアも、ほとんどが高齢者。代表の福山悦子(ふくやまえつこ)さん(78)は「社会参加して対価をもらうことで、ボランティアは自分の存在を感じられる」と考える。

 依頼の受け手が、お願いする側に回ることもある。福山さんもその1人だ。自宅での力仕事はボランティアを頼む。夫は既に亡くなり、子どもたちも独り立ちした。「こんな支援があったらいいのに」という福山さんの思いが、活動のきっかけにもなっている。

 「おたがいさんが心のよりどころ。自分の居場所になっている」。役割の存在がボランティアの原動力になり、地域そのものも支えている。

 名張市内では、おたがいさんのように住民が自らの地域について考え、行動する取り組みが盛んだ。行政の後押しもある。

 市は2003年度、使い道が自由の資金交付制度を始めた。市内を小学校区単位の15地域に分け、それぞれの地域に住民でつくる「地域づくり組織」を設置。総額1億円ほどの予算を、地域の人口や面積などに応じて分割し、組織に交付する。

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 名張地区の地域づくり組織では、地元の大型商業施設での健康サロンや防災訓練、子どもの居場所づくりなどに取り組んできた。おたがいさんとも連携する。

 会長の田畑純也(たばたじゅんや)さん(69)は「事業にみんなが賛同してくれるまでのプロセスは難しい。でも、今までになかった発想で新しいものがつくれる」と話す。

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 ボランティアは利用者に専門的な支援が必要だと気付いたら、看護師や介護職が常駐する「まちの保健室」につなぐ。地域づくり組織と保健室でイベントを開き、そこから生活課題が見つかることもある。

 地域の気づきの力を高めようと、名張市は新たに「リンクワーカー養成研修」を始めた。困難を抱えた人の背景にあるものに思いを寄せ、必要な支援を考える。1月に三重県の委託を受けてオンラインで研修を開き、県内15市町の介護・福祉関係者が参加した。

 市民と専門職がそれぞれの立場でできることをやり、時にはつながる。地域を巡る支援の輪が、孤立を防ぎ、年齢や障害の有無に関係なく誰もが暮らしやすいまちをつくっていく。

(第7部終わり。この連載は健康と社会的処方取材班が担当しました)

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