「秘密主義国家」北朝鮮で深刻化する機密情報ダダ漏れの実態

北朝鮮には、「学習提綱」なるものがある。各地域や職場で頻繁に開催される思想教育を目的とした政治講演会や学習会のレジュメだ。その内容は機密情報扱いにされている。

当局は講演会や学習会の内容を一般住民、労働党員、幹部など対象に合わせて変え、提供する情報のレベルを調節している。しかし情報の要旨が記された学習提綱が漏洩すれば、そんな努力も水の泡だ。それだけではない。

例えば、北朝鮮は中国との関係を「血で固めた友誼」と表現し、最も重要な国として持ち上げているが、国内では中国を褒め称えたり、こき下ろしたり、情勢に応じて国民向けの教育の内容を変えている。ところが、学習提綱が海外に流出すれば、そんな二枚舌ぶりが中国に筒抜けになってしまう。

北朝鮮当局は情報の海外流出に敏感になるあまり、政治講演会や学習会の内容をノートに取ることを禁止したことすらあるが、結局はウヤムヤとなり、その後も内部資料の流出はかなり頻繁に起きている。

当局が機密情報の管理に苦心する一方で、情報を受け取る側は、まともに管理を行なっていない実態が明らかになったと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の幹部がRFAに語ったのは、清津(チョンジン)鉄道工場の初級党(朝鮮労働党の末端組織)における機密文書管理のお粗末な実態だ。

上層部から下された党の内部文書、機密文書などは初級党のの副書記が行うのが規則として定められているが、この副書記は仕事が忙しいからと、配布された内部文書と「各級党安全委員会事業要綱」などの機密文書の台帳への登録を、一般労働者に肩代わりさせていた。そこから機密文書が外部に漏洩してしまったのだ。

この副書記は昨年9月、一般労働者に書庫の鍵を渡して、誰でも入れるようにしたことが問題となり、警告の処分を受けていた。また、今年に入ってからも区域の党委員会の総務部(文書管理を行う部署)から複数回にわたり、文書の保管と取り扱い規則を守れとの指摘を受けていた。

報告を受けた中央は、文書の取り扱いを疎かにして機密を流出させたとして、工場の党書記と副書記を解任したうえで、他の幹部に対して機密文書の取り扱いを徹底的に行うように指示を下した。さらに、些細な文書でも漏洩事故が起きれば、地位を問わず厳罰に処すと警告した。

平安北道(ピョンアンブクト)の幹部は、定州(チョンジュ)市の便宜管理所の初級党の書記が、普段から生活面で世話になっている一般労働者に、機密文書7件を密かに手渡したが、これが外部に流出する事件へと発展した。書記は解任の処分を受け、安全部(警察署)で機密漏洩の経緯について取り調べを受けた。

カネにもならない党生活(党員としての義務)に熱心に取り組み、貧困に喘ぐ党員は、周りの助けでどうにか生活を成り立たせているというが、解任された初級党の書記もそんな人だったのだろう。

道内では、今年に入ってから文書の管理不備により、「党事業指導要綱」などの重要文書が紛失、流出する事件が数十件も発生している。当局は捜索に乗り出したが、未だに文書は発見されていない。

機密漏洩のあまりの多さに業を煮やした中央は、幹部に対して保安教育を行うと同時に、問題発生時に厳罰に処す方針を改めて示し、幹部の間には緊張が走っている。

一方、両江道の幹部は先月、大鳳(テボン)鉱山と121号木材加工輸出事業所が、機密文書の管理実態に関する調査をまともに行わず、紛失していたことにすら気づいていない状態だったことが、3月に道内のすべての機関を対象に行われた中央の検閲(監査)により明らかになった。

ここでも講演資料、学習提綱などの秘密文書の管理を幹部が直接行わず、他の人に任せたことで紛失、流出する事件が今年に入って数十件に達している。

当局は2018年、機密情報が含まれているとして電話帳を海外に売ろうとしたという理由だけで6人を逮捕、処刑した。情報管理のあまりもの杜撰さを考えると、今後も機密情報の海外流出は止まりそうにない。

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