競馬ファンも唸る「ウマ娘」、ゲーム収益にとどまらない爆発的ヒットの理由

サイバーエージェント(4751)は4月28日に1~3月期の決算を発表し、前年同期比で売上高が+26.6%、営業利益が2.1倍と非常に好調な業績が示されました。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>


インパクト大のゲーム事業営業利益

セグメント別ではメディア事業、広告事業も好調だったものの、けん引役は営業利益が122.3%増となったゲーム事業でした。

そのゲーム事業で大ヒットとなっているのがスマートフォンゲームである「ウマ娘 プリティーダービー(以下、「ウマ娘」)」です。同作は2021年2月24日の配信開始からわずか5日で100万ダウンロードを突破、4月27日には600万ダウンロードを達成しています。

競馬ファンも唸らせる仕上がり

「ウマ娘」は実在の競走馬の名前を冠した美少女キャラクターを育成し、プレイヤーであるトレーナーとの絆を深めながらレースでの勝利を目指すゲームです。

同作の構想自体は2016年から始まり、同年には2004年に高知競馬で100連敗して社会現象にもなったハルウララをモチーフにした最初のコミックが発行されたものの、その後は2018年にテレビアニメ1期目を放送するにとどまり、同年には予定されていたゲームリリースを延期しています。「実在の競走馬を美少女に擬人化する」という過程で、馬主との交渉や権利関係の整理など、非常に難しい折衝を強いられたと想像されます。

そうした困難を乗り越え、2021年にはトウカイテイオーの物語をモチーフとしたアニメ2期目を放送するとともに、待望のゲームリリースにこぎつけました。筆者も実際に同ゲームを長時間プレイし、アニメも全話鑑賞しています(特に2期目のエピソード7以降は毎話涙無くして見られませんでした)。

ゲームとして完成度が高い他にも、名門令嬢のメジロマックイーン、自由奔放で問題児なゴールドシップ、高いプライドを持ちながら偉大な母からプレッシャーを受けるキングヘイローなど、実際の競争馬の特徴や出自、性格を踏まえたキャラクター設定がされている点も大きな魅力と言えるでしょう。

「ウマ娘」プレイイメージ(提供:Cygames)

また、レースの着順はもちろん、当時の実況の文言、さらには1992年天皇賞(春)における「地の果てまで走りそう」、「あっちが地の果てならこっちは天まで昇りますよ」という岡部幸雄騎手と武豊騎手のやり取りすらキャラクターのセリフで再現されています。

「実際の競走馬の物語をモチーフとし、事実に基づいた表現を心がけたフィクション」と謳われている言葉通り、新規層だけでなく既存の競馬ファンも唸らせる仕上がりとなっています。

リアル世界の競馬も盛り上がりを見せている

「ウマ娘」だけでなく昨今はリアル世界の競馬も盛り上がりを見せています。

昨年はコントレイルが皐月賞、ダービー、菊花賞の牡馬三冠を、デアリングタクトが桜花賞、オークス、秋華賞の牝馬三冠をそれぞれ無敗で制し、ジャパンカップでは日本で初めて芝GⅠを9勝した女傑アーモンドアイがその両馬を退け、人数制限にもかかわらず客席から万雷の拍手が送られるという歴史的なレースが見られました。

またつい先日にも、加齢により毛が灰色から白に変化する一般的な白馬と異なり、幼少期から毛が白いという非常に珍しいソダシが「白毛馬」として世界初のGⅠを制覇するとともに、桜花賞も1分31秒1という圧巻のレコードタイムで優勝しています。

筆者は幼少期からの競馬ファンですが、今の競馬はオグリキャップ、トウカイテイオー、ナリタブライアンなどのスターホースがあり得ないような奇跡を毎年のように引き起こした1990年代前半に次ぐくらいの盛り上がりを見せていると思っています。こうした競馬界の盛り上がりも「ウマ娘」のヒットに一役買っていると思われます。

「ウマ娘」とリアル世界の競馬の相乗効果に期待

国内でのヒットを受けて、今後「ウマ娘」は海外展開、アニメ3期目(個人的にはオグリキャップの物語を待ち望んでいます)を含めたゲーム外のメディアミックスをさらに強化していくものと思われます。また、「ウマ娘」から入ったゲーム・アニメファンがリアル世界の競馬を始めることで、両者の相乗効果も期待できます。

新型コロナウイルス対応として競馬は長く無観客開催が続いていましたが、令和2年度のJRA(日本中央競馬会)の売得金は前年比+3.5%の2兆9,800億円と好調でした。地方競馬ではさらにこの傾向が顕著で、NAR(地方競馬全国協会)によると令和2年度の売得金は前年比+30.1%と大幅に増加しました。

地方自治体によるインターネットでの中継や馬券購入システムの構築が奏功した格好ですが、厳しい地方財政の立て直しや地方創生の一助となるためにも、今後も「ウマ娘」と競馬界にさらなる期待がかかります。「ウマ娘」と競馬界が盛り上がりを見せれば、中央競馬が1998年度に達成した過去最高の売得金4兆円も見えてくるでしょう。

なお、1998年は「ウマ娘」の主人公としても活躍しているスペシャルウィークがリアル世界で天才・武豊騎手に初のダービー勝利をもたらした年でもあります。

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