希少な花「キシツツジ」の不思議 西日本に自生、花びら模様、毛深い葉【地球派宣言】

日本百景にも選ばれる広島県の景勝地、三段峡。
ここで見られる希少な花が「キシツツジ」です。

川岸に咲くキシツツジ(三段峡) (C)HOME

直径は約5㎝、雄しべが10本あるのが特徴で、その名の通り川岸などによく見られます。
花を咲かせるのは4月下旬から5月下旬まで。ちょうど今が見頃です。

三段峡の自然を守る活動を行っている本宮 炎さんが、キシツツジについて教えてくれました。

雄しべは上向き (C)HOME

よく見ると、上側の花びらの一部に濃い色の斑点があります。
これは虫に入る場所を知らせているのだそうです。
雄しべが上を向いているので、虫が上側に来ると、ちょうどお尻に花粉が付く構造になっています。

色の違いで虫を誘う (C)HOME

また、川の水に流されにくいよう、細く、毛でおおわれた葉を持つなど、河川環境に適応した生態をもつキシツツジですが、実は自生しているのは西日本の一部の地域に限られます。

キシツツジを20年以上研究している国際農林水産業研究センターの近藤俊明さんによると、「キシツツジは大きく2つの遺伝子グループに分かれる」とのこと。

一つは本州における岡山県の旭川より西側の河川と、九州の山国川に分布するグループ、もう一つは四国の河川にだけ分布するグループで、それぞれの地域で独立的に広がっていったようです。

キシツツジの2つの遺伝子分布 (C)HOME

そして、このキシツツジの遺伝子研究が地質学の分野にも大きな影響を与えました。

今から約1万年前、本州、九州、四国は陸続きで、そこには「紀淡川」と「豊予川」と呼ばれる2つの大きな川があったと言われてきました。
その川の形とキシツツジの遺伝子の関係がそっくりだったため、このキシツツジの分布がその川の存在を証明することに繋がったそうです。

約1万年前の様子 (C)HOME

近年、森林伐採や環境汚染などで、日本の植物の4分の1が、絶滅の危機にさらされていると言われています。
そしてキシツツジも広島県の準絶滅危惧種に指定されています。

貴重な植物が絶滅の危機に (C)HOME

前述の本宮さんは語ります。
「僕たちは三段峡を野外博物館と見立てて活動しています。観光地として景色を見てもらうことに加えて、自然の多様性や美しさ、貴重さを伝えていきたい」

身近な自然に目を向けて、いろいろな発見をしていきたいですね。

広島ホームテレビ『5up!
地球派宣言コーナー(2021年5月12日放送)

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