最速123キロ“日本一の女子中学生”から3年 夢が現実となった甲子園への思い

女子野球の強豪・神戸弘陵で投打の要を務める島野愛友利【写真:喜岡桜】

神戸弘陵のエースで副主将の島野愛友利、中学時代は最速123キロをマーク

全国高等学校女子硬式野球選手権大会の決勝戦が甲子園で開催されることが4月28日に発表された。同大会は今年で25回目を数え、男子と同じく高校野球生活の集大成をかけて戦う最後の夏の大会。今大会注目選手の一人である神戸弘陵のエースで副主将の島野愛友利に甲子園に対する想いを聞いた。

島野は中学時代、最速123キロの直球を武器に大阪の強豪・大淀ボーイズに所属し、エースとしてジャイアンツカップ(全日本中学野球選手権大会)の優勝に導いた実力派右腕。同チームには今春の選抜大会に出場した鳥取城北の岸野桂大と松田龍太や、準優勝旗を手にした明豊のエース・京本眞が同級生として名を連ねていた。“女子・島野”が男子選手とのレギュラー争いの末にエースナンバーを勝ち取り、胴上げ投手となったことで一躍話題になった。

「あの頃は周りに恵まれていました。打たせると野手がしっかりと捕ってくれて、助けられていました」

そう振り返る右腕は今年高校3年生になった。今もピッチング指導を大淀ボーイズの指導陣に仰ぐことがあり、中学時代のチームメートとも連絡を取り合う。男子の選抜大会へ出場した同級生へ「頑張ってな」と連絡すると「そっちも頑張れよ」と返事がきた。元チームメートの活躍に鼓舞され、“ジャイアンツカップ優勝投手”の枕詞も、その名に恥じない投手であり続けるための支えとなっている。

「女子野球の全国大会を優勝する高校であっても、絶対に男子中学生の日本一のチームには勝てないと思います。大淀ボーイズにいた頃は、ボーイズやシニアなど、どんな強豪チームと対戦しても勝てる自信がありました」

第2回選抜大会準決勝のマウンドに立つ島野愛友利【写真:喜岡桜】

憧れるのさえ恐れ多かった舞台、兄妹3人で甲子園出場へ

難敵ひしめき合う中学野球で全国制覇を成したエースのプライドを胸に、女子高校野球界でも最も注目される投手として活躍を続けている。

島野が現在在籍する神戸弘陵女子野球部は、創部3年目の2016年に初の全国制覇を達成し、春の選抜大会で2回、夏の選手権大会で1回優勝旗を持ち帰った全国屈指の強豪校。3月に埼玉県加須市で開催された女子の選抜大会では、島野は3番打者・エースとして出場。惜しくも準決勝で敗れ大会3連覇を逃した。その悔しさをバネに夏は5年ぶり2度目の日本一奪還を狙っている。

夏の決勝へ進出すれば生まれて初めて甲子園の土を踏む。島野の兄2人は、大阪桐蔭と履正社のメンバーとして聖地でプレーしている。一番上の兄・凌多が出場した際は応援に行けたが、二番目の兄・圭太のときは都合が合わなかった。兄妹3人全員が甲子園に出場できるチャンスを、両親は大変喜んだという。

「甲子園は憧れではなく、すごいなあという感じ。甲子園は厳しい練習を乗り越えて、人に感動を与えられるプレーができる人が立つ場所。男子は憧れて目指すだけの練習量だけど、女子はそうじゃない。女子が甲子園に憧れるなんて恐れ多い」

ボーイズ時代の同級生が甲子園で躍動することに対し羨ましさはなく、女子が甲子園に立てないことは島野の中では「当たり前」だった。今夏、決勝戦を甲子園で開催することを知り「男子に匹敵する感動を与えられるプレーをしなくてはならない」と、気が引き締まったという。

昨年のラッキートーナメントでは最優秀投手を受賞【写真:喜岡桜】

初の男女率いた甲子園出場監督となるか、ラッキートーナメント、選手権大会優勝へ

同チームを率いる石原康司監督は、約30年にわたり同校男子野球部を指導。男子監督として春2回、甲子園へ導いた。2014年にNPB最多勝利・最高勝率のタイトルを獲得した中日の山井大介投手を含むプロ野球選手8人を輩出している名将だ。

「女の子も甲子園で野球ができることに喜びでいっぱい。島野が入学するときに『甲子園でできたらいいな』と声をかけたが、島野が3年生になって実現するとは。巡り合わせだと感じた」と嬉しさを滲ませた。石原監督にとっても1999年選抜出場以来、22年ぶりの甲子園での采配が実現するかもしれない。

5月末から開催予定の第10回関西女子硬式野球選手権ラッキートーナメント大会も神戸弘陵は2連覇がかかっている。初戦は選抜で敗れた宿敵・履正社。「選抜はチームの力を発揮できないまま負けて悔しい思いをした。この悔しさを絶対に無駄にはしない」。大好きな野球にかけて1年時から背番号「89」を背負う投打の要・島野の活躍に注目だ。(喜岡桜 / Sakura Kioka)

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