佐々木朗希、さあ1軍デビュー! 兼ね備えた“3大要素”…群を抜く2軍の投球データ

ロッテ・佐々木朗希【写真:荒川祐史】

ストレートの割合が69.7%と全投球の7割近くを占める

ロッテの佐々木朗希投手が、16日に本拠地・ZOZOマリンスタジアムで行われる西武戦でついに1軍デビューを果たす。昨季は1、2軍ともに公式戦での登板がなく、その投球がベールに包まれていたが、今季は2軍で順調に登板を重ねた。ここまではイースタン・リーグでは20イニングを投げて防御率0.45と圧倒的な成績を残してきた。

ここまでの投球はデータ分析の観点からはどのように評価できるだろうか。球種別データなども用いて分析を行っていく。

はじめに佐々木朗の球種割合から見ていきたい。佐々木朗は今季2軍で投球全体の69.7%、ほぼ7割でストレートを投じている。このように極端に速球の割合が高い投手は救援投手では珍しくないが、先発投手では非常に稀だ。

2020年シーズンに1軍で規定投球回に到達した投手で最もストレートの割合が高かった中日の大野雄大投手でさえ、51.0%だった。いかに佐々木朗がストレートを多く投げる投手であるかが分かるだろう。

ストレートの次に多いのは22.1%のフォーク

その平均球速は151.0キロ。今季1軍の規定投球回到達投手でストレート平均球速が150キロを超えているのはオリックスの山本由伸だけ(5月12日現在)。計測機器の違いによる差もあるため、どちらが速いとまでは言えないが、佐々木朗がNPBで最高レベルのスピードを持った先発投手であるのは間違いないように思える。

○佐々木朗希2軍での球種データ
球種 / 割合 / 球速
ストレート / 69.7% / 151.0キロ
フォーク / 22.1% / 141.5キロ
スライダー / 8.1% / 138.8キロ

変化球は2種類、フォークとスライダーを投げているよう。ストレートが多いため、それほど割合は大きくないが、フォークが22.1%と8.2%のスライダーよりも数多く投じている。基本的にはストレートとフォークの2球種を中心とした投球を行なっているようだ。そのフォークも141.5キロとかなりスピードのあるボールである。

次に投球がどのような結果を生んでいるかを見ていきたい。

速球派投手の中には制球力が欠けるために、プロレベルとなると与四球を連発してしまう投手も多い。ただ2軍での投球を見る限り、佐々木朗にこの心配はいらなさそうだ。打者に四球を与える割合はイースタン平均で12.0%であるのに対して、佐々木朗はわずか6.6%。速球派投手でありながら四球はかなり少ない。

ゾーン内確率52.4%と高い制球力も長所

こうした四球の少なさはまず佐々木朗の制球の良さに起因している。投球がゾーン内に投げこまれる割合(Zone%)はイースタン平均43.2%に対して、佐々木朗は52.4%。これは20イニング以上に投げたファーム46投手のうち3番目に高い値となっている。

かなり高い確率でゾーン内にボールを投げ込めている。速球が注目されやすい投手だが、実は制球力も長所と言えるかもしれない。ただ、スライダーに関しては27.3%とゾーン内に投げ込めていない。球種割合としても8.8%と小さかったスライダーだが、それはそもそも佐々木朗がこの球種を操りきれていないからなのかもしれない。

○佐々木朗希の2軍投球データ
球種 / Zone% / O-Swing%
全投球 / 52.4% / 35.7%
ストレート / 57.7% / 32.9%
フォーク / 43.3% / 50.0%
スライダー / 27.3% / 25.0%
イースタン平均 / 43.2% / 26.1%
(※データは5月12日現在)

さらに佐々木朗の投球はゾーン内に投げ込めなかった場合でも十分な効果を発揮している。ボール球は一般的にはスイングされにくいが、振らせることができた場合、打者はベストなスイングをできない。そしてボールカウントの増加を防ぐこともできるため、投手にとって極めてメリットが大きい。

この能力を測るボール球スイング率(O-Swing%)はイースタン平均で26.1%。佐々木朗はというと35.7%。イースタン平均に比べて10%近くボール球をスイングさせることに成功している。これは右腕の投球の威力を物語る数字といえる。そもそもストライクゾーンに投げ込む確率が高く、さらにゾーンから外れてもスイングを誘発する。これによって佐々木朗は与四球を極めて少なく抑えることに成功している。

空振りをとる割合はファーム46投手の中で断トツ

与四球以外の面はどうだろうか。奪三振に注目してみよう。ここまでファームにおける佐々木朗の打者あたりの奪三振割合は25.0%。イースタン平均は18.3%であるため、与四球割合に続き、こちらも平均より遥かに優れた数字を残している。

佐々木朗の三振の多さは、その空振り奪取能力によるものだ。投球全体のうち空振りをとる割合を表す空振り率はイースタン平均の9.4%に対して15.5%。これはファームで20イニング以上を投げた投手46名の中で断トツの数字だ。特にフォークは30.0%と空振り奪取のメインウェポンとなっているようだ。カウント球で使うことが多いストレートでさえ、イースタンの全投球平均以上の値を記録している。

○佐々木朗希2軍での空振りに関するデータ
球種 / 空振り率 / Z-Contact%
全投球 / 15.5% / 80.6%
ストレート / 10.6% / 80.9%
フォーク / 30.0% / 81.8%
スライダー / 13.6% / 80.0%
イースタン平均 / 9.4% / 87.4%
(※データは5月12日現在)

特筆すべきはゾーン内に投球した投球の威力である。ゾーン内の投球は打者が狙いを定めており、バットも届きやすいため、空振りを奪うのは難しい。ゾーン内の投球をスイングした場合、イースタンの打者は87.4%の割合でバットにコンタクトする。

だが、佐々木朗のゾーン内投球コンタクト率(Z-Contact%)を見てみると80.6%。これは20イニング以上を投げたイースタン46投手の中で2番目に優れた数字だ。先ほど、佐々木朗がゾーン内にボールを多く投げ込んでいるデータを紹介した。打者はゾーン内に多く投げ込むこと、そしてストレートの割合が高いことも把握しているはず。その中で佐々木朗はゾーン内で空振りを多く奪っているのだ。

打球がゴロになる割合もイースタン平均より高い

これだけで十分すぎるが、さらにもう1つ大きな武器を持っている。いくら空振りを奪うことが多い投手でも、当然バットに当てられることもある。そのときに打球がどういった性質になりやすいかは投手よって大きく変わってくる。データ分析の世界では、打球が発生した場合、ゴロになりやすい投手ほど失点を防ぎやすいと考えられる。一塁線や三塁線を抜けない限りゴロは長打にならず、失点のリスクが小さいためだ。

打球がフィールドに飛んだとき(ファウルは除くが、邪飛は含む)、ゴロになる割合はイースタン平均で48.4%。一方で佐々木朗は58.8%と、平均よりも10%近くも高い確率でゴロを奪っている。こちらは20イニング以上に投げた46投手のうち6番目に優れた数字だ。打球が発生した場合でも長打のリスクを抑えることができる投手といえる。

○佐々木朗希2軍でのゴロ割合
球種 / ゴロ割合
全投球 / 58.8%
ストレート / 50.0%
フォーク / 78.6%
スライダー / 100.0%
イースタン平均 / 48.2%
(※データは5月12日現在。スライダーの打球発生は2球のみ)

無駄な走者を出さず(与四球)、バットに当てさせないことで打球を発生させない(奪三振)。そしてバットに当たった場合でもその多くはゴロになる。この3つの要素はデータ分析の視点で投手が失点を防ぐにあたり重要な三大要素とされている。一般的にいずれかの能力に長けている投手はいても、3つすべてに秀でた投手は少ない。ファームのレベルではあるものの、佐々木朗はその三大要素すべてにおいて図抜けた成績を残している。1軍での活躍もかなり期待できる内容と言っていいだろう。

ロッテ・佐々木朗希のファームでの投球マップ【画像提供:DELTA】

打者の左右に関わらず外角低めにボールを集められるのも特徴

最後に佐々木朗が具体的にどういったコースにどういった球種を投げ込んでいるかを確認しておきたい。

投球マップを見ると、左右の打者どちらに対しても外角にボールを集めている様子がわかる。特に対右打者では、ストレートを外角低めにかなり集中させているようだ。投球マップから制球力の良さが伝わってくる。

また、近年はMLBを中心に高めに速球を投げ込む配球が増加している。力のあるストレートをもつ佐々木朗がそうした配球をとってもおかしくないが、ここまではあくまで低め中心の投球となっている。高めに抜けるボールも非常に少ない。また決め球となるフォークもそのほとんどが低めに制球されている。

ただ、スライダーについてはかなり散らばっている様子がわかる。右打者の外角低めに引っ掛けるようなボール球が多いようだ。現状はカウント球として使うのは難しいだろうか。あくまで見せ球の領域にある球種と言える。

総じて分かるのはただ速い球を投げる素材型というだけではない、投手としての能力の高さである。三振を奪うだけでなく、与四球を抑えながらゴロを獲得できている点は特筆すべきところだ。ファームとはいえ、実戦で投げ始めたばかりの投手がこれほどのパフォーマンスを見せるのは驚異的である。

スライダーだけではなく、他ににもまだ投手として課題は今後出てくるだろう。ここからさらに完成度が上がってくるのであれば、どれほどの投手になるのだろうか。いよいよ初登板を迎えるが、データから見れば、これが経験を積ませるための登板とは言えない。1軍で同様の投球ができるようなら、戦力としてチームを勝利に導く投球が十分期待できるのではないだろうか。(DELTA)

DELTA
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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