急ぎ足の梅雨入り

 「五月(さつき)晴れ」はもともと、梅雨の晴れ間を言う。旧暦の5月は梅雨どきだった。今では新暦5月の青空を指すことも多く、辞書には「梅雨の間の一時的な晴天」と「5月のよく晴れた天気」と、二つの意味が並んでいる▲では「五月雨(さみだれ)」はどうかと言えば、昔も今も梅雨に降り続く雨のことで、旧暦5月が季節の言葉に残っている。妙なもので、梅雨は「じっとり」という感じだが、五月雨ならば「しっとり」と、いくらか語感が変わってくる▲平年より20日早く、統計を取り始めてから2番目に早いという。九州北部がきのう梅雨入りした。今はまだ5月半ばで、今年の五月雨は新暦がそのまま当てはまる▲このところ天気が崩れがちで、本格的な梅雨入り前の雨模様、つまり「走り梅雨」の時節だと、この欄に書こうとした矢先、梅雨は急ぎ足でやってきた▲季節の移ろいが気ぜわしい。思えば今年は桜もこれまでで最も早く、3月半ばに開花した。この春、花々の多くが早めに咲いたらしいが、空でもまた、季節は前倒しされている▲とすれば、この梅雨は早めに明けるのか、それとも長く居座るのか。早く去ればそのぶん、あの暑い夏が早く巡ってくるし、去らなければそのぶん、豪雨の心配が長引く。来るのが早すぎた五月雨は、しっとりとした趣きからいささか遠い。(徹)


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