再起した「お慶さん」

 “名誉回復”と言えよう。長崎市は3月末、幕末維新期に活躍した長崎の女性貿易商人、大浦慶の業績を記す説明板の内容を改訂した▲慶の説明板は居宅跡(油屋町)清水寺山門(鍛冶屋町)墓所(高平町)の3カ所に立つ。「晩年は不遇」としていた部分は「負債を返済したのち、実業家として再起」などと改まった▲慶は幕末に茶貿易で富を築き、坂本龍馬ら志士を援助したとされる。だが明治初め、商売に絡む詐欺事件に巻き込まれ多額の借金を背負い、失意のうちに亡くなったと言われてきた▲慶の再起に光を当てたのは神奈川県鎌倉市の作家、田川永吉さん(84)だ。首都圏の図書館などで慶の新資料を次々に発掘。2010年に出版した「女丈夫(じょじょうふ) 大浦慶伝」で、晩年の慶が東京に活躍の舞台を移し、横浜製鉄所の経営に参画したり、国の蒸気船の払い下げを受けたりしていたと紹介した▲この「新事実」が説明板改訂につながった。昨年の手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した高浜寛(かん)さんの「ニュクスの角灯(らんたん)」は明治長崎が舞台。主要人物として活躍する慶は田川さんの研究成果も踏まえ描かれている。「没落」のイメージは今後変わるだろう▲見事再起した慶に、負債は商売で取り返してみせる、という商人魂を見る。「お慶さん」は不屈の人だった。(潤)

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