悲劇を乗り越えた男がリバプールの危機を救う GKアリソンが史上初の劇的ゴール

アリソン(中)は劇的弾を天国の父に捧げた(ロイター)

サッカーの神様は時折、とんでもないドラマを演出する。スペインでは16日(日本時間17日)の1部リーグでヘタフェのMF久保建英(19)が今季初ゴールでチームを残留に導くというシーンがあったが、イングランド・プレミアリーグでも信じられないような劇的弾が生まれていた。

同日のリバプール―ウェストブロミッジ戦は1―1のまま後半アディショナルタイムに突入。昨季リーグ王者で2季前の欧州チャンピオンズリーグ(CL)覇者のリバプールはここで勝ち点を落とせば、来季の欧州CL出場圏内の4位確保が困難になるという絶体絶命のピンチに立たされた。

だがその窮地を救ったのはブラジル代表GKアリソン(28)だった。アディショナルタイム5分、MFトレント・アレクサンダーアーノルド(22)の左CKに反応し、高い打点のヘディングシュート。これがゴール右隅に吸い込まれ、チームは2―1で劇的な勝利を手にした。守護神のキャリア初ゴールのおかげで、5位のリバプールは4位チェルシーと勝ち点1差。3位レスターとの勝ち点差も3に詰めた。

2018年7月にイタリア1部ローマから、当時のGK移籍金最高額となる6680万ポンド(約98億円)でリバプールに加入。最初のシーズンで欧州CL制覇にも貢献し、昨季はケガもありながらチームの30年ぶりのリーグ優勝の立役者となった。

そんな守護神が悲劇に見舞われたのは今年2月。父のホセ・アゴスティーニョ・ベッカーさんが、自身の敷地内にあるダムで亡くなっているのを発見された。57歳だった。コロナ禍でブラジルへの移動が認められず、父の最期も見ることができなかった。

悲しみに暮れる中でもリバプールでのプレーに集中したアリソン。それだけに、奇跡的なゴールを決めた直後は天に向かって両手人差し指を立てて涙を流した。

「私と家族にとって、この2か月はいろいろなことが起こった。だから(ゴールの直後は)感情的になってしまった。父に私の姿を見てほしかった。きっと天国で神様と一緒に喜んでいると思う」

日本では2014年11月のJ1昇格プレーオフ準決勝の磐田戦で山形のGK山岸範宏(当時36)がやはり試合終了間際に劇的なヘディング弾を決めて〝山の神〟と称されたが、イングランド・プレミアリーグの歴史でGKがヘディングシュートを決めたのは史上初。リバプールにとってもクラブ史上初めてGKによる得点となった。

ただ、これで喜んでばかりもいられない。リーグ戦は残り2試合。そこでレスターかチェルシーを勝ち点で上回って初めて〝劇的弾〟に価値が生まれる。悲劇を乗り越えた守護神はリバプールに希望をもたらすことができるか。

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