有害鳥獣駆除それぞれの現場 「命を頂く」真剣な解体【ルポ・上】

シカの解体作業を見学する関係者ら=佐世保市、あかがしの家

 農作物を食い荒らし、山の環境にも影響を与えるというイノシシやシカ。有害鳥獣と呼ばれるこれらの動物を取り巻く現状はどうなっているのか。長崎県佐世保市内で有害鳥獣の命と向き合う人たち、駆除を請け負う猟友会の人たち、ジビエとしての活用を模索する人たち。それぞれの現場を訪ねた。
 3月4日朝。有害鳥獣の取材で知り合った男性から「シカを解体する」と連絡が入った。場所は佐世保市世知原町にある、地域おこしの拠点施設「あかがしの家」。シカの解体。少し不安もあったが、立ち会える機会はめったにない。さっそく同施設に向かった。
 あかがしの家では、地元猟友会員が捕獲したイノシシやシカの活用を探る取り組みを行っている。施設に着き庭に向かうと、捕獲したシカの周りを、施設代表の岩下直人さん(62)ら数人が囲っていた。「今ちょうどしめました」。そのうちの一人、江迎猟友会小佐々支部の大越浩介さん(33)が声を掛けてきた。
 小佐々、鹿町の地域おこし協力隊員でもある大越さんは、農作物被害と猟友会の人手不足の話を聞き、昨年2月から兼業猟師になった。「命を奪うことへの後ろめたさがある。だから有効活用できて初めて納得できる」と、捕獲した有害鳥獣を提供している。

 この日は、同施設メンバーの知人の中学生と県立大佐世保校4年の平林梨沙さん(22)も見学に来ていた。「さあ始めようか」。メンバーの一人が器用にナイフを肛門から入れていく。首付近まで開くと、木づちを使って骨を割り、体内から静かに上がる湯気の中、内臓を取り出す。辺りには獣特有の生臭ささが漂った。
 岩下さんは「通常は捨てられる心臓や肝臓も、鮮度と上手な料理法があれば使える」と受け取った内臓をボウルに移す。内臓を取り出し終わるとシカをつるし、今度は皮をきれいに剥いでいった。
 岩下さんはジビエの解体、販売や飲食店での提供経路の開拓も考えているが、簡単ではない。解体施設の整備など「法律の手続き的ハードルが高い」と話す。

 あかがしの家は岩下さんら有志が、2017年に前の所有者から引き継いだ。施設の修復作業や自然散策などのワークショップとともに取り組んでいるのが、有害鳥獣の利用。猟友会員から提供を受けた野生のイノシシなどの解体方法をメンバーが「やりながら学び」、おいしい食べ方や皮などの利用方法を研究している。解体に立ち会った関係者には、作業の見学によって「命を頂く」重みを学んでもらう。
 この日解体したシカは、ロースは食用に、それ以外は干し肉にしてペットフードにしたそうだ。真剣に解体の様子を見ていた平林さんは、「本来野生で生きていられたはずの動物が有害鳥獣だからと人間の手で命の終止符を打たれている。そんな彼らの命を肯定するためにも、食として利用することがせめてもの報い」と話した。

大越さんが山中にかけた罠にかかったシカ=佐世保市内(大越さん提供)

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