松田聖子「シルエット」2つの表情をもったチャーミングなアルバム 1981年 5月21日 松田聖子のアルバム「Silhouette ~シルエット~」がリリースされた日

ジャケットでフィーチャーされた2人の松田聖子

ジャケットが物語る通り、このアルバムには2人の松田聖子がいた。

It was 40 years ago today.

40年前の1981年5月21日、松田聖子の3枚めのアルバム『Silhouette ~シルエット~』がリリースされた。前作『North Wind』から半年強振りで、5月にアルバムが出るのはこれが初めてだった。

ジャケットは髪型から見て、前月21日にリリースされたシングル「夏の扉」と同じ日に撮影されたようだ。アルバムのタイトルを表現するように2人の聖子がフィーチャーされているが、奇しくもこのアルバムの二面性を上手く捉えたジャケットにもなった。

アルバムタイトル曲に準ずる「白い貝のブローチ」作詞は松本隆

『Silhouette ~シルエット~』での一番大きな変化は、やはり作者である。1980年の『SQUALL』と『North Wind』は全曲三浦徳子作詞、1曲を除き全て小田裕一郎作曲であったが、このアルバムにも収められた1981年のシングル「チェリーブラッサム」と「夏の扉」の作曲者、財津和夫がアルバムの10曲中5曲を、残りの5曲を小田が作曲した。

そして作詞も三浦が小田の5曲と財津のシングル曲2曲の計7曲を書き、財津が自らの曲2曲で作詞も手がけた。そして財津の残り1曲「白い貝のブローチ」を作詞したのが松本隆。これが松田聖子の楽曲初登板であった。

 少しだけサンセット
 離れるシルエット
 暮れなずむ愛は
 さよなら

過去2作にはアルバムタイトル曲があったが、このアルバムには無い。しかしこの曲の歌詞に “シルエット” が出てくる。言わばアルバムタイトル曲に準ずるのがこの曲なのだ。これ以降の松本隆と松田聖子の歴史を考えても、この曲が重要であることは確かだろう。しかし当時高1の僕にとってこの曲はアルバムでのベストトラックではなかった。

因みに、後に石井明美の「CHA-CHA-CHA」や近藤真彦の「愚か者」をアレンジする戸塚修が、アルバムで唯一この曲の編曲を手がけている。

アルバムのA面3曲めに収録される意味、財津和夫作詞「Sailing」

財津和夫と小田裕一郎が曲を半々に分け合ったこのアルバムは、正にニューミュージックと歌謡ポップスがオーヴァーラップした1枚となった。このアルバムは2つの表情があったのである。

シングル2曲を除いた財津のベストトラックはA面3曲めの「Sailing」であった。タイトルは恐らくクリストファー・クロスの1980年全米No.1ヒットの同名曲が意識されていたのではないか。

 もう何も要らない
 私の過去もあなたの過去も
 さようなら私の悲しみ

財津の歌詞は結構武骨でロックすら感じさせる。大村雅朗の凛としたアレンジといいAORの彩りがあり、それまでの松田聖子には無い曲調だったが、高1の僕にもついて行けるかっこよさだった。

間奏で印象的なギターソロを聴かせるのは矢島賢。山口百恵の「プレイバックPart2」や近藤真彦の「ハイティーン・ブギ」でも弾いていて、長渕剛も一目置いていたギタリストであり、2015年にこの世を去っている。

松田聖子のアルバムのA面3曲めは、それまでの2枚はアルバムのタイトルトラックだった。そしてこれ以降も「一千一秒物語」「ひまわりの丘」「未来の花嫁」といった名曲の定位置となる。「Sailing」も自信作だったのであろう。

B面1曲めの「あ・な・たの手紙」も財津の作詞・作曲。編曲は1980年の松田聖子を大村雅朗と共に支えた信田かずおが手がけていて、財津と信田の唯一の組み合わせとなった。

小田裕一郎作曲、大村雅朗のアレンジが冴える「花びら」

 ひと夏の出来事じゃ
 終わらない予感なの
 20才前はじめての
 渦巻く心に風の花びら…

小田裕一郎作曲のベストソング、というか高1の僕にとってのアルバムのベストトラックが、B面4曲めの三浦徳子作詞「花びら」であった。この曲は正に1980年の松田聖子アイドル歌謡ポップスの系譜。大村雅朗のアレンジは特に劇的な間奏で冴えわたる。ストリングスに矢島賢のギターソロが絡み実にかっこいい。アウトロのストリングスも跳ねていて軽妙だ(因みに松田聖子の2005年のアルバム『fairy』に同名異曲があるのでくれぐれもお間違え無きよう)。

同じく大村がアレンジしたB面2曲めの「Je t’aime」は、聖子の全力のロックンロールでは恐らく最後の曲。この間奏でも矢島のギターソロはうなりまくる。アルバムでの次の曲「夏の扉」の今剛のギターソロに勝るとも劣らない名演だ。聖子の張り上げたヴォーカルも決して負けてはいない。

松田聖子、歌謡ポップス時代最後の1枚にしてチャーミングなアルバム

A面1曲め、信田かずおがアレンジしたオールディーズ風のナンバー「~オレンジの香り~ Summer Beach」を松本明子が『スター誕生!』で歌ったことにも触れておいた方がいいだろう。小田裕一郎はまだまだその力を存分に発揮していた。

しかし小田と三浦徳子と、もう1曲アルバム最後の小田作曲の「愛の神話」を担当し計3曲を編曲した信田は、このアルバムを最後に松田聖子の楽曲制作から離れる。そして財津と小田の曲をそれぞれ3曲ずつアレンジした大村雅朗も、次作『風立ちぬ』ではアルバム曲のアレンジから一旦離れるのだ。

1981年の松田聖子は非情なまでに急速に変化を続けていた。1980年の2作に比べると『Silhouette ~シルエット~』は、作者がクロスオーヴァーしていることもあり、統一感に欠けるのは否めない。しかしながらこのアルバムにはシングル曲2曲を始めとしたキラーチューンが何曲も収められている。歌謡ポップス時代最後の1枚と位置付けられるが、コンセプチュアルで尚且つキュートなジャケットとも相まって、何ともチャーミングなアルバムだと僕は思う。

寺尾聡の大ヒットアルバム『リフレクションズ』に阻まれオリコン2位止まりだったというのも、かえって愛嬌があるかもしれない。

… この原稿を書き上げた直後、日本を代表するトランぺッター、数原晋さんの訃報に接した。「Je t’aime」でトランペットを吹いていた数原さんは、A面4曲めの小田作曲、大村編曲の「ナイーブ ~傷つきやすい午後~」と「愛の神話」でもフリューゲル・ホーンを吹いている。

そして1980年の松田聖子の2枚のアルバムでも、「SQUALL」「ロックンロール・デイドリーム」「白い恋人」「North Wind」といった曲で演奏していた。松田聖子初期のロックンロールに欠かせない人物と言っても過言ではないだろう。謹んで哀悼の意を表します。

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カタリベ: 宮木宣嗣

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