世界の暗い場所44カ所で太陽極小期の夜空の自然な明るさを測定 最も暗かった場所は?

【▲ 画像の上半分は、2020年2月に撮影されたカナリア諸島ラ・パルマ島にあるロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台。下半分は、2016年4月に南米チリのラ・シヤ天文台から撮影された南半球の空を捉えています。天の川が上下の星空を一周する構成になっていて、上半分では、金星が黄道光の中で輝いています。(Credit:PetrHorálek、Juan Carlos Casado)】

夜空の自然な明るさを測定する、最初の完全な基準となる方法を開発するために、世界のさまざまな暗い場所44カ所(天文台や自然保護区など)で、低価格の光度計を使って収集されたデータを分析した研究結果が発表されました。

光度計のデータによると、調査対象となった44の場所のうちカナリア諸島ラ・パルマ島にあるロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台(Roque de los Muchachos Observatory)が最も暗い場所であることがわかりました。ナミビア、オーストラリア、メキシコ、アルゼンチン、米国などから集めたデータによると、その暗さは自然の暗さに非常に近く、人工的な光は空の背景の2%にしかなりませんでした。

夜空は完全な暗闇ではなく、遠く離れた場所であっても、地球上や地球外の自然由来の光や、人間が作り出した人工的な照明によって、空には輝きがあります。

月や天の川、黄道光などの主要な光源は容易に認識できますが、最も暗い夜に空の明るさを支配する光があります。これは大気の上層部で生成され、その強さは時期や地理的な場所、「太陽周期」(solar cycle)などの複雑な要因に左右されます。

太陽活動の周期的な変化を「太陽周期」と呼び、約11年の周期で増減します。太陽表面に黒点が現れ、フレアなどの磁気的な活動が活発になる時期を「太陽極大期」と呼び、これらの現象が大幅に減少した時期を「太陽極小期」と呼びます。。太陽極大期には、太陽からの放射量が増えて、地球の大気中の分子に影響を与え、夜空の明るさが増します

2018年には第24活動周期の太陽極小期に入り、それ以来、世界中に設置された一連の光度計が1100万回の測定値を収集しました。

近日中に「The Astronomical Journal」誌に掲載される論文では、場所や季節、夜の時間帯、太陽活動に関係なく、空の明るさに短期間の変動(数十分から数時間のオーダー)があることを系統的に観測し、それが中間圏の上層部で発生した事象、つまり「大気光」(airglow)に関連していることを初めて示したと、カナリア天体物理学研究所(Instituto de Astrofísica de Canarias:IAC)の研究員で、論文の筆頭著者であるMiguel R. Alarcón氏は説明しています。

【▲ カナリア諸島テネリフェ島にあるテイデ天文台から捉えられた垂直方向のパノラマ。雪を頂いたテイデ火山を中心に明るい黄道光があり、画像の上部には、かすかな対日照も見えています。(Credit:Juan Carlos Casado)】

「今回の研究により、低価格の光度計でも、ネットワークでつなぐことで高い感度を得られることが実証されました」とIACの天文学者で論文の共著者であるMiquel Serra-Ricart氏は述べています。さらに「データを最終的に解析した結果、夜空にかすかな光を放つ対日照が黄道付近に見えることがわかりました。光度計のネットワークにより、カナリア諸島の天文台が第一級の天文台であることがあらためて示されました」と付け加えています。

【▲ 対日照は太陽とは反対方向に見える淡い光の帯であり、光による汚染が非常に低いレベルの暗い場所で見ることができます。この画像は、2021年3月11日にカナリア諸島テネリフェ島のテイデ天文台から撮影されました。(Credit:Juan Carlos Casado)】

夜間の人工光(artificial light at night:ALAN)が、大気の成分(ガス分子、エアロゾル、雲など)によって散乱されることで生じるグローは、人工スカイグローとして知られています。推定では、地球の表面の10%以上がALANの影響を受けています。大気のスカイグローを含めると、この数値は23%に増加することが示唆されています。

世界の人口の約80%が光害(ひかりがい)のある場所に住んでおり、その約3分の1は天の川を見ることができません。自然の闇を鑑賞し、観察し、測定できる場所は世界にほとんどないのが現状です。

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Image Credit:PetrHorálek、Juan Carlos Casado
Source:Instituto de Astrofísica de Canarias:IACCornell University
文/吉田哲郎

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