大学が抱えている資金問題を救う?寄付を集めにくい日本で個人ができる「医療支援寄付信託」を始めたワケ

4月12日、三井住友信託銀行は医療支援をテーマとした大学を対象に個人寄付ができる「医療支援寄付信託」の取り扱いをスタートしたと発表しました。個人による長期的な寄付によって社会課題を解決することが目的とのこと。特に寄付文化が醸成されているアメリカでは個人寄付による資金調達も珍しいことではありませんが、日本では大学に対する個人寄付は多くはありません。

なぜこのタイミングでこうした医療支援寄付信託をスタートさせたのか、また大学が抱えている資金調達の課題や今後の見通しなどについて同社の個人企画部商品企画チーム長の関口恵児さんに詳しいお話を聞きました。


なぜ大学を支援する医療支援寄付信託を始めたのか

――今回の「医療支援寄付信託」を始められた経緯を教えてください。

関口: これまで弊社では、東日本大震災の復興等を目的とした「社会貢献寄付信託」を、昨年5月にはワクチン開発を進める大学に寄付ができる「新型コロナワクチン・治療薬開発寄付口座」を開設しています。このような社会課題に対する商品は提供してきましたが、いずれも一過性で線ではなく点で活動している感覚も拭えませんでした。

また、大きな危機やイベントによってしか寄付への関心が高まらないことへの課題も感じており、日本全体の継続的な寄付文化の醸成を目的としたというのがそもそもの背景です。

――なぜ大学を対象としたのでしょうか。

関口: まずは昨年から始まった「新型コロナワクチン・治療薬開発寄付口座」によって一定の関係性ができ、大学側としっかりコミュニケーションが取れる状況にあることです。また、今回の対象大学はほとんどが国立大学ですが、国立大学は国からの補助金を大学の運営の一部に活用していますが、以前と比べても削減されています。大学側も自分たちで運営費を調達していかなければいけない状況があるので、皆様からの寄付を募ることができればと考えました。

枠組みとしては寄付者の皆様から寄付先の大学の選定と信託の申し込みをしていただきます。寄付金を預かった当社は大学側へ寄付金を送金し、大学側はそれを研究等に活用。大学側は寄付者の皆様に活動を報告し、皆様はそうしたフィードバックを受けて毎年寄付先を変更することが可能です。なお、たとえば100万円を寄付したい場合には、初年度から5分割して年20万円ずつ5回に分けて大学に寄付する流れとなります。

最低寄付金額10万円を5分割して5年間にわたって寄付

――5分割にした理由は?

関口: 大学側としては単発で大きなお金が入ってくるよりも、継続的に運営する上で数年先の予算の見通しを立てたいという本音があります。また、当社が事前にお客様を対象に取ったアンケートでは、単発的な寄付よりも継続的な寄付意向があることが把握できたこともあり、こうした5分割としました。

――最低寄付金額が10万円とのことですが、この金額にした理由はなんでしょう。

関口: 大学からもあまり少額ですと、運営費の見通しが難しいという声が寄せられました。また、前回の「新型コロナワクチン・治療薬開発寄付口座」では最低寄付金額が1万円でしたが、約1,800件の寄付が集まりました。総額は2020年8月時点で2.6億円だったので、単純計算ですが1人平均が約14万円になります。この金額も今回の最低金額を定めるにあたり参考としています。

――今回の寄付については、寄付金控除の対象となるのでしょうか。

関口: はい。寄付金控除のお知らせがレポートと一緒に大学側から届くので、適切に確定申告していただければと思います。なお、当社に100万円を預けたらその年に100万円の寄付金控除を受けられるのではなく、5年間に分けて毎年20万円の寄付金控除が受けられることになります。

日本の大学が寄付を集めにくい現状

――日本でもアメリカのように、そもそも各大学が寄付を募っているそうですね。そうであるにも関わらず、寄付が集まりにくいのはどういった課題があるからなのでしょうか。

関口: 寄付文化が身近ではないということに加えて、寄付を集める範囲も卒業生に限るなど、自分たちでリーチできる範囲が限られてしまうケースが多いようです。また、人件費や事務コストも決して安くないので、少額寄付を受け付けたくてもコストを考えるとあきらめざるを得ません。また医療分野で個人がなにか寄付をしたいと考えたとき、大学や病院の研究テーマなどを調べるのは非常に困難なので、比較検討が難しい現状があると思います。

――たしかに、何か社会に役立ちたいと医療分野に関する寄付をしたくても、何から調べたらいいのかがそもそもわからないですよね。

関口: さきほどの少し触れたアンケートからは、特定の大学よりも特定の研究テーマに対して寄付をしたいと考えている方が多かったです。そもそも卒業生の方であれば、出身大学に寄付したい思いがあるかと思いますが、自身と関係のない大学にはなかなか寄付をしようとは思いませんよね。今回の「医療支援寄付信託」では大学側が研究テーマを明確に提示することでお客様は寄付テーマを選定します。大学がどのような研究をしているのかという現状が多くの方に周知することで、大学が社会的課題の解決に重要な役割を担っていることを知ってもらえる機会にもなると思っています。

大学と寄付者それぞれの思いを繋げていくために

――途中で寄付先の大学を変更できる仕組みにしたのはなぜでしょうか。

関口: 大切なお金を寄付していただいているので、大学側にも継続的な支援を続けたいと思わせるよう頑張ってほしいという思いがあります。研究内容やフィードバックによっては「別の大学に変えよう」となるのは当然。また、情報を強化することで今まで大学の研究に関心を持っていなかった人たちも呼び起こしたい。ただ寄付者の皆様と大学側の間に入るだけではなく、双方の思いを繋げていくためにこうした仕組みにしました。寄付者の皆様も見返りを求めているわけではないと思いますが、情報提供がないと継続した寄付は難しくなるはず。今後は、フィードバックを文書だけでなく動画も使うなどして寄付が研究や社会に役立てられている実感を促す仕組みにしたいです。

――今後の展望を教えてください。

関口: 今回は医療支援に絞りましたが、寄付者の皆様は世の中の状況に応じて寄付したいテーマが変わってくると思います。新しい関心事が出てくれば、大学やそれ以外のものと連携してテーマを拡張したいですね。また、信託は柔軟な仕組みを持っているので、株式や不動産など金銭以外を預ける方法の寄付があってもいいのではないかと思っています。テーマや対象資産を広げることでさまざまなニーズに対応でき、本当の意味で息の長い取り組として社会課題の解決に向かえると考えています。

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