日本とフランス、浮世絵と印象派…その数奇な繋がりに俳優・片桐仁も驚愕

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組では、多摩美術大学卒業で芸術家としても活躍する片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉えて、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。4月24日(土)の放送では、「ポーラ美術館」に伺いました。

◆ルノワールの名作に見る印象派の革命とは?

片桐が「立派な山のなかに、すごく近代的な美術館」と語る今回の舞台は、神奈川県・箱根町にあるポーラ美術館。2002年に開館した同館には、ポーラ創業家2代目の鈴木常司さんのコレクション約1万点が収蔵され、なかでも19世紀後半にフランスで台頭した印象派の作品数は日本最大級を誇ります。

館内を案内してくれるのは、学芸員の山塙菜未さん。印象派は光を重んじていたことから、ポーラ美術館の展示室も照明にこだわり、7月のパリの夕暮れをイメージし設定されています。

印象派の巨匠といえば、クロード・モネやオーギュスト・ルノワール。彼らは日本でも人気を博していますが、若かりし頃はコンクールで落選続きの落ちこぼれでした。しかし、そこから独自の世界観を打ち立て大成功。ここには、そんなルノワールの代表作「レースの帽子の少女」(1891年)が展示され、一眼見た片桐は「やっぱりこのルノワールのふわっとしたタッチですよね」と感動。

さらには、「勢いがあって、服のタッチが荒々しい」と率直な感想を述べると、山塙さんは「印象派の画家はあえて筆跡を残し描いていた」と解説。これこそ印象派による革命の1つで、当時フランス美術界で絶大な権力を持っていた「王立絵画彫刻アカデミー」では写実性の高い作品が評価され、その筆使いはとてもなめらか。しかし、それとは対照的に印象派の画家は荒々しいタッチで描くことで絵に躍動感を生み出そうとしたと言います。

さらに、陰の部分などに原色がカンバス上に置かれており、それもまた印象派の革命の1つ。これは「筆触分割」と言い、鑑賞者の目のなかで色が混ざり、より明るく、華やかな印象を与えます。

「レースの帽子の少女」の隣には、女性が家で過ごす際に花の髪かざりをつける風習を描いた「髪かざり」(1888年)が。そこにもまた印象派の特徴があり、それは人々の日常を描いたこと。その背景には、王族や貴族のものだった芸術を広く民衆へと開放したいという思いがあったそうです。

◆巨匠モネに大きな影響を与えた日本の浮世絵

続いては、クロード・モネの「花咲く堤、アルジャントゥイユ」(1877年)。モネといえば、自然を描く画家という印象がある一方で、近代化していく街の様子なども数多く描いており、片桐は「今はこういう世の中、そのときの状況を絵に描いていたんですね」と思いを馳せます。

この絵にはもう1つ印象派が残した革命の痕跡があり、それは「屋外写生」で、モネはその季節、その時間、その天候の下で受けた光の印象を描きたかったそう。ルノワールとモネはたびたび一緒に写生旅行をしたのだとか。その後、2人や同世代の芸術家が集い「印象派展」を開催。瑞々しさに満ちた作品は人々の心を捉え、評判になっていきます。

次に片桐が目にしたのは、「出ました、これですよ……」と思わず気持ちが溢れたモネの代名詞的作品「睡蓮の池」(1899年)。モネは生涯、池に浮かぶ睡蓮を主題とした作品を描き、現在約200点が残されています。この一連の「睡蓮」の舞台となった池は、日差しや天候によって変わる印象を思う存分描くためにモネがわざわざ作ったとか。

そして、そこには日本画によく見られる太鼓橋があります。これは彼の日本趣味で、数多く所蔵していた浮世絵から着想したもの。歌川広重の「江戸名所百景 亀戸天神境内」(1856年)などに、その影響の跡が見てとれます。

さらに、片桐が「なんですか、この変な構図は……面白い!」と思わずうなったのは、「ヴァランジュヴィルの風景」(1882年)。この構図の着想も浮世絵からと言われており、まさに葛飾北斎の「富嶽三十六景 東海道程ヶ谷」(1830~1832年頃)がそう。

モネと浮世絵の出会いのきっかけは、日本が初めて参加した国際博覧会「パリ万博」で、それを聞いた片桐は「極東から持ってきたものがあまりにも独自性、ガラパゴス化していたからビックリしたのかな」と推察。モネの新しい表現を導く大きなヒントが遠く離れた日本の美術にあったことは確かだそうです。

◆さまざまな繋がりと日仏の芸術家の共鳴に拍手

「同じ構図に見える絵ですが、これは別の人?」と片桐が話すは、隣合わせに展示された2枚の裸婦画。黒田清輝の「野辺」(1907年)と、ラファエル・コランの「眠り」(1892年)です。

コランの作品を見て片桐は、「ルノワールじゃないけど緻密、だけど影とかは美しい」と意外そうな顔をしていましたが、それも当然。コランはアカデミズム側の画家でありながら印象派に影響を受け、双方を折中した外光派。黒田清輝や岡田三郎助といった日本の近代洋画の礎を築いてきた作家たちは、そんなコランの指導を受けており、日本の西洋画は印象派の流れを汲みながら始まったと言えます。

もはや印象派は芸術界を動かす大きな存在となり、日本にも大きな影響を与えましたが、その一方で浮世絵に感銘を受けており、まるで螺旋のように刺激を受けあっていました。そんな大きな流れをさまざまな名作を通して垣間見た片桐は、「当時の日本とフランスの国を超えた繋がり、浮世絵と印象派の繋がりなど、いろいろない繋がりが見えた」と大満足。フランスと日本の芸術家たちの共鳴に盛大な拍手を贈っていました。

◆「片桐仁のもう1枚」はワシリー・カンディンスキーの「支え無し」

また、この日から「片桐仁のもう1枚」と題した新コーナーがスタート。ここでは、この日のストーリーに入らなかったものから片桐がどうしても紹介したい作品をチョイス。

今回はロシア出身の画家、ワシリー・カンディンスキーの「支え無し」です。「印象派を見てきた並びでカンディンスキーを見るのは新鮮」と新たな発見に喜び、さらには「時代としてはそんなに変わらず、お互い影響を受けていることをここに来ると感じることができる」、「カンディンスキーの印象がちょっと変わったという意味であえて選んでみた」とその理由を語っていました。

そして、最後は片桐が大好きなミュージアムショップへ。「グッズの充実度がすごい!」と目を輝かせ、セザンヌ「ラム酒の瓶のある静物」の絵画マスクやゴッホの作品をモチーフにしたトートバックにストール、そしてポーラ美術館のオリジナルグッズ「睡蓮」の傘などを嬉々として物色。最終的には、トートバックとマスクと九谷のお皿、総額1万2,200円分をお買い上げ。「結構いっちゃった……おかしいな」と苦笑いを浮かべるも、大満足の様子でした。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週土曜 11:30~11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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