世界初の水素エンジンでの24時間レースへ。「多くの方の力を結集してのレース」とモリゾウ

 5月22日、15時にスタートが切られるスーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook第3戦『NAPAC富士SUPER TEC 24時間レース』。このレースには、ST-QクラスからORC ROOKIE Corolla H2 conceptが参戦するが、レースに先立ちTOYOTA GAZOO RacingとROOKIE Racingが富士スピードウェイで記者会見を開き、レースに向けてROOKIE Racingのチームオーナーで、ドライバーであるモリゾウ、GRカンパニーの佐藤恒治プレジデント、そしてチームメンバーが出席した。

 トヨタ・カローラ・スポーツに市販のGRヤリスのエンジンを流用した水素エンジンを搭載し、四駆で走るORC ROOKIE Corolla H2 concept。もちろん世界初の挑戦であり非常に注目度は高く、今回のNAPAC富士SUPER TEC 24時間レースには、これまでのスーパー耐久史上最も多いメディアが訪れている。そんな注目のレースを前に、井口卓人/佐々木雅弘/松井孝允/石浦宏明/小林可夢偉というドライバーたち、片岡龍也監督とともに、モリゾウ、GRカンパニーの佐藤恒治プレジデントが出席し記者会見が行われた。

 モリゾウは、トヨタ自動車豊田章男社長として、そして日本自動車工業会の会長としての顔を覗かせながら、今回の参戦の意義について「今回水素エンジンでレースを走らせていただきますが、ゴールはあくまで『カーボンニュートラル』ということです。カーボンニュートラルについては、総理大臣から発表されて以降、自工会会長の私から『順番を間違えないでくれ』ということを言い、あくまでもカーボンニュートラルの選択肢を増やして欲しいと言ってきました」と語った。

「すべてが電動化されていくと、『この日本では100万人の雇用が失われますよ』と言ってきました。そのなかで、モータースポーツの場で選択肢のひとつを実証実験できる場が訪れたと思っています」

 モリゾウは、今回のORC ROOKIE Corolla H2 conceptの参戦については、カーボンニュートラルに向けた取り組みとして「急に出てきたものではない」という。これまでWRC世界ラリー選手権でコクピット周辺の強度化に取り組めたこと、またデンソーがインジェクター技術を培ってきたこと、GRヤリスのエンジンが高温・高圧の水素エンジンに対応できるものだったということなど、今まで培ってきたものがすべて結実して今回の参戦に繋がったと語った。

 また2020年からROOKIE Racingが本格的にスーパー耐久に参戦し、GRヤリスを鍛えてきたこと、さらに「昨日、スーパー耐久の理念を振り返って読んだところ、まさしくモータースポーツを起点としてもっと良いクルマづくりに活用して欲しいと書いてありました。その理念はROOKIE Racing、TOYOTA GAZOO Racingにまさに合致しています」と、こういった実験的車両が参戦できる土壌としてST-Qクラスができたことなど、今までの「日本の自動車工業が培ってきたもの」が繋がったとアピールした。

水素エンジンでのORC ROOKIE Corolla H2 conceptの参戦に向けてコメントするモリゾウ。
ORC ROOKIE Corolla H2 conceptとORC ROOKIE Racing GR SUPRA
記者会見には非常に多くのメディアが集まった。

■水素社会、カーボンニュートラル実現に向けた第一歩

 さらにモリゾウは「カーボンニュートラルは作る、運ぶ、使う。我々自動車メーカーは使うという立場です。今回、作るという部分では福島県浪江町の水素ステーションから水素を運んでもらっています」と浪江町への感謝も示した。なおピットでは、浪江町のミネラルウォーターがピット内におかれ、ミライから給電された電気でピット内の電力をまかなっている。

 なお、気になるレースに向けては、「実力としては24時間しっかりレースを戦える状態になっています」というのはGRカンパニーの佐藤プレジデント。テストからは、佐々木雅弘を中心にセットアップも進められており、乗りやすい状態ができあがっている。

「燃焼条件をどうするか考えてきましたが、こういう布陣なので、守りに入るレースをさせてくれるチームではありません。前回耐久試験をやったときから、使える回転数を引き上げて今回臨んでいます。このスピード感は、ROOKIE Racingが『モータースポーツでクルマを鍛えていこう』とするからこそ生まれるスピード感ではないかと思います」

 いよいよ迎える決勝レースだが、モリゾウはドライバーとして、チームオーナーとして、そしてトヨタ自動車社長として、「作る側、運ぶ側としては、イワタニさんや大陽日酸さんに協力していただいているおかげで、水素エンジンが走ることができる。今回はクルマ、ドライバ−に注目していただくことはもちろんなんですが、それ以外にもそれを支えていただくパートナーの皆さん、水素社会を実現させようとする仲間たちがいます。その仲間たちは、(日本の移動を支える)550万人の仲間のひとりになると思います」と語った。

「この水素エンジンを走らせるには、ここで応援していただける皆さんのみならず、本当に多くの皆さんが関わっています。それも24時間レースに出ると決めてからではなく、それまでコツコツと研究を続けてくれたエンジニア、会社で『このプロジェクトはドロップされるのではないか』と不安を抱えながら、カーボンニュートラルの技術を磨いてきた皆さんの力が結集してのレースになると思います」

「また自工会会長として、550万人が働く自動車業界の牽引役として、力不足ではありますがまとめてきました。そういう力がいま、ものすごく発揮されると思いますし、何が何でも走りきりたい。しかしレースはレースですし、天候がどうなるかも、何が起きるかもわかりません」

「すべてを見せてまいりますので、水素社会、カーボンニュートラル実現に向け、スーパー耐久、富士SUPER TEC 24時間レースの場を借りて世界初の試みに臨んでいくので、ぜひ皆さんも心ひとつに応援いただきたいと思います」

 この富士SUPER TEC 24時間レースは、まさにカーボンニュートラルへ向けた、歴史的な一歩のレースとなる。結果如何に関わらず、その挑戦は今後の自動車の歴史に刻まれるはずだ。

ROOKIE Racingのピット裏にはミライが置かれ、テント等の給電を行う。
浪江町のミネラルウォーター『NAMIE WATER』
記者会見に出席したROOKIE Racingの監督、ドライバーたち

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