自治体から日々公表される新型コロナウイルス新規感染者の情報について、長崎県南島原市の女性から感染予防に生かすため「(感染者が住む)地区まで教えてほしい」との声が、長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト」のLINE(ライン)に寄せられた。「市内在住」だけでは範囲が広すぎ、どんな対策を取ればいいか分からないという。そもそも公表にはどのような狙いや基準があるのか。長崎県内の自治体に取材した。
■うわさ誘う?
「コロナ感染者が○人出ました」。女性が情報を得るのは、同市内で感染者が確認された際に流れる防災無線放送だ。「せめて(市内8町の)町名だけでも分かればそこに住んでいる人は特に注意できるし、他地区の人もその町のスーパーなどに行くときにより気を付けると思うのですが…」
特定地域への差別につながる恐れもある-と記者の懸念を伝えると、女性は「1年前と違い『好きで感染しているわけじゃない』と理解も広がっている。誹謗(ひぼう)中傷は起きにくいのでは」と返答。知人にも同じ意見の人は多いと言い、むしろ情報が少ない方が誤った「げなげな話」(うわさ話)を誘うのではないかと考えている。
■市「情報ない」
感染者に対する疫学調査は保健所が所管している。市保健所がある長崎、佐世保を除き、南島原など県内19市町は県保健所が管轄しており、市町が把握できる情報は基本的に県がホームページなどで公表する範囲に限られる。
南島原市は取材に対し「県が『市』までしか公表しない。市は住所などの細かい情報を持っておらず発表のしようがない」と回答。担当者はさらに「仮に居住地区を公表しても予防につながるのか疑問。当然、仕事や買い物で他地区に移動しているケースもあり、市内全体で気を付けなければ」と続けた。
■支援したいけど
一方で同市は昨年度、市内の感染者やその家族の生活支援ができないか検討するため、県に感染者の住所などを問い合わせた。しかし、個人情報保護などを理由に明かされなかった。
東彼波佐見町は、町内の感染者や濃厚接触者向けの買い物支援など独自施策を設けている。だが現状は「感染者側から町役場に連絡してもらうほかない」。保健所を通じて感染者に施策を伝え、支援につながった例はあるという。
同町には小規模自治体ならではの悩みも。コロナ感染に関する情報の広がり方が速く、町民を通じて役場が詳細を把握することすらある。ただ情報には“尾ひれ”が付く場合もあり、町は「根拠のない情報や間違った情報なら必要に応じて訂正する必要がある」。
離島の対馬市は、公表範囲について「旧町名まで(詳しい情報を)明らかにすると人口が少ない地区では特定の恐れもある。発表は今の形がベストでは」とする。
■精神的に参る
公表方針について、県医療政策課は「患者は感染したことだけで精神的に参っている。患者のプライバシー保護が最優先」と強調。「差別や偏見が生じないよう個人情報の保護に留意しなければならない」とした厚生労働省の基本方針に沿い、予防の観点から「感染する可能性が高い行動などを示すことで、住んでいる場所に関係なく気を付けてもらいたい」と理解を求める。
長崎、佐世保両市も県の公表方針に準じた対応を取っている。
(三代直矢、熊本陽平、六倉大輔、手島聡志)