京都・亀岡市の老舗旅館「すみや亀峰菴(きほうあん)」は、京都駅からJR嵯峨野線亀岡駅下車、車で15分程度の場所にある温泉宿。長年にわたり、ジョン・レノンやオノ・ヨーコなどの著名人が宿泊したことでも知られている。
今回のリニューアルでは、「アント・ファーム」や「Wandering Position」などのシリーズで、国境の曖昧さや国のアイデンティティの曖昧さを強調する現代アーティスト、柳幸典を起用。柳は、伝統的な職人たちとともに旅館のロビーを改装し、ギャラリースペースを新設。今回のユニークなの空間のために、日本とアメリカの象徴的な作品を再考し、新しい作品を制作した。設計は、柳とその建築チーム「YANAGI+ART BASE」(協力:広島大学八木研究室)が担当している。
「第45回ヴェネチア・ビエンナーレ」(1993)のアペルト部門で日本人初の受賞を果たし、犬島アートプロジェクトを構想、そして犬島精錬所美術館を完成させるなど、最先端のアーティストである柳幸典の姿勢は、モダンとトラディショナルの融合を目指す旅館に通じるものがある。今回展示されている柳の新作「Ant Farm」シリーズは、着色された砂で再現した世界の国旗をアリが掘り進むという柳の同様の作品と共通しており、コロナウイルスによる渡航制限や国家間の緊張が高まるなか、私たちの相互のつながりを思い出させてくれる。
旅館では宿泊だけでなく、食事と温泉がセットになった日帰りプランも楽しめる。秋には、柳が中心となって客室の改装も予定されているというこの「すみや亀峰菴」を今後の旅の拠点におすすめしたい。