アーティストの柳幸典が老舗旅館をリノベーション:京都・すみや亀峰菴レポート

京都・亀岡市の老舗旅館「すみや亀峰菴(きほうあん)」は、京都駅からJR嵯峨野線亀岡駅下車、車で15分程度の場所にある温泉宿。長年にわたり、ジョン・レノンやオノ・ヨーコなどの著名人が宿泊したことでも知られている。

今回のリニューアルでは、「アント・ファーム」や「Wandering Position」などのシリーズで、国境の曖昧さや国のアイデンティティの曖昧さを強調する現代アーティスト、柳幸典を起用。柳は、伝統的な職人たちとともに旅館のロビーを改装し、ギャラリースペースを新設。今回のユニークなの空間のために、日本とアメリカの象徴的な作品を再考し、新しい作品を制作した。設計は、柳とその建築チーム「YANAGI+ART BASE」(協力:広島大学八木研究室)が担当している。

柳幸典と常設作品の《Study for Japanse Art -Hokusai-》。漆喰職人の久住章による黒い壁は、海がイメージされている -
蟻が柳の作品の中を移動する映像 -
《Study for Japanse Art -Hokusai-》のクローズアップ。葛飾北斎の《神奈川沖浪裏》が再現されている -
カフェの裏手には、アンディ・ウォーホルの「Flowers」シリーズを再解釈した、色付きの砂と蟻を使った作品を展示 -
柳は日本の名作を解体するように、アメリカの名作を文字通り、そして比喩的に解体することを試みた -
柳幸典《Study for American Art – Flowers》 -
「百代(ひゃくたい)」と名付けられたロビーは連結された立方体の集合体として構想。和紙は羽多野渉の手によるもの -
ロビーの奥の壁には、柳の《Wandering Position -Formica japonica #1-》が展示。赤いチョークで蟻の道がなぞられている本作は彷徨いや旅がテーマで宿のコンセプトと共鳴している -
陶芸家・石井直人の作品 -
オープニングではチェリストの遠藤真理、バイオリニストの川久保賜紀による演奏が披露された -
陶芸家・石井直人の作品 -
宿泊棟からロビーへと続く廊下の様子。壁面にはアート作品が展示されている -
人生は永遠の旅であるという古典の詩を参考に命名された「百代」の名のロビー(ギャラリー) -
客室は畳、障子、布団という日本の伝統的なスタイル -
一部の部屋は温泉風呂つき -
レストランでは、鮎の塩焼きをはじめとする新鮮な季節の料理や京料理が楽しめる -
旅館から望む春の中庭 -

「第45回ヴェネチア・ビエンナーレ」(1993)のアペルト部門で日本人初の受賞を果たし、犬島アートプロジェクトを構想、そして犬島精錬所美術館を完成させるなど、最先端のアーティストである柳幸典の姿勢は、モダンとトラディショナルの融合を目指す旅館に通じるものがある。今回展示されている柳の新作「Ant Farm」シリーズは、着色された砂で再現した世界の国旗をアリが掘り進むという柳の同様の作品と共通しており、コロナウイルスによる渡航制限や国家間の緊張が高まるなか、私たちの相互のつながりを思い出させてくれる。

旅館では宿泊だけでなく、食事と温泉がセットになった日帰りプランも楽しめる。秋には、柳が中心となって客室の改装も予定されているというこの「すみや亀峰菴」を今後の旅の拠点におすすめしたい。

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