【専門医療機関連携薬局を目指して】「地域薬学ケア認定薬剤師」の暫定認定を受けて得たもの

【2021.05.27配信】改正薬機法により今年8月から特定の機能を有する薬局の認定(地域連携薬局と専門医療機関連携薬局)が始まる。このうち、専門医療機関連携薬局では、「専門性の高い薬剤師の配置」が要件となっており、主にがん領域の知識・経験を有することの裏づけとなる学会認定として「地域薬学ケア認定薬剤師」がある。同資格の暫定認定を受けたキムラ薬局(大分県別府市)の中島美紀氏は、浅草薬剤師会(東京都)の研修会で講演し、「患者さんの治療の位置を知ることで、薬局でフォローすべき点が明確になり、少しでも患者さんの先を見通す役に立つことができるようになった」と語った。

キムラ薬局(大分県別府市)の薬剤師・中島美紀氏が、がん領域に力を入れるきっかけになったのは、「がん医療ネットワークナビゲーター」の存在を、近隣のがん拠点病院の医師から紹介されたことだったという。「がん医療ネットワークナビゲーター」が活躍の場所として挙げていた図説が、厚労省が提示していた地域包括ケアの中の薬剤師の活躍の場所と似ており、「これはいいかも」と感じたという。

「がん医療ネットワークナビゲーター」は日本癌治療学会が展開しているもので、そのうち「ネットワークナビゲーター」は約1時間40小間のEラーニングの受講で取得できる。
中島氏は、「受講料も8000円と低コストながら、濃い内容となっておりがん領域に踏み込むのに、ちょうど良い」と指摘する。

さらにコミュニケーションスキルセミナーを受けると、「シニアナビゲーター」を取得できる。
取得後は、キムラ薬局で開いていた健康サポートルームの「ガーベラ」でも、より良いコミュニケーションが取れるようになったことを実感したという。

「ガーベラ」は待合室から遮られた空間で、ゆっくり資料を探したり、持ち帰ったりすることができる情報提供スペースで、ここでプライバシーに配慮した相談に乗ることもできるという。

こうした取り組みが地域で知られるようになり、がん医療ネットワークナビゲーターへの参画にも声をかけてもらうこととなったという。活動の中では、医師から、「薬局はこんなことができるのか」という驚きの声をもらうことがあったといい、薬局の活動を知ってもらう良い機会にもなったと振り返る。

そのうち、薬機法改正で専門医療機関連携薬局制度が始まることになり、地域で正確な情報を提供していくためにも、認定を取得していこうと思い立ったとしている。

専門医療機関連携薬局が要件として求めている専門性の高い薬剤師の学会認定としては、地域薬学ケア専門薬剤師(日本医療薬学会)と、外来がん治療専門薬剤師(日本臨床腫瘍薬学会)の2つがあるが、中島氏は念のため両方の取得を目指して活動中だ。

「地域薬学ケア専門薬剤師」については暫定認定を受けた。「地域薬学ケア専門薬剤師」は様々な要件の他、5年間の研修が必要なため、最初の誕生は2026年になってしまう。そのため暫定認定は経過措置として設けられており、暫定認定で専門医療機関連携薬局の申請もできる。

中島氏は「外来がん治療専門薬剤師」認定へ向けた「がん診療病院連携研修」も受けたが、ここで最も「勉強になったこと」としたのが、「監査」だ。
化学療法の注射箋の監査は腎機能、血液検査の結果から医師の処方した投与量が適正かを監査するもの。何回投与したか、もしくはコースカウント、レジメンへの理解をすることで、必要な検査の確認を行ったり、「この値だから一段階減量でスタートなんだ」や「この値なら感染症に気をつけなければいけない」など、感覚的に理解していたものが、明確に理解できるようになったという。

そのことにより、「患者さんが先を見通せるようなお役に少しでも立てるようになったのではないかと思う」という。
「患者さんは先を見通せない中で治療に臨んでいる方もいらっしゃり、“今は治療全体のこの位置にいるんですよ”と、患者さん自身に知っていただくことで、少し冷静な目で現在の体調や治療以外のことも考えられるようになるきっかけになると感じます。暗闇の中の懐中電灯ぐらいの役割になれたらと思っている」(中島氏)という。

当然、病院でも治療全体の話はしているが、一度の情報量が多すぎるため、薬局でフォローをしながら投薬のタイミングごとに確認していける意義は大きいとし、特に副作用情報に関しては「患者さんは覚えきれない」(中島氏)ため、薬局からの情報提供の意味が大きいとした。

「がん診療病院連携研修」に「本当に行ってよかった」としみじみ語った中島氏。
学会認定の資格取得の過程によって、「病院でやっていること」と「薬局でできること」、さらには「患者の生活」の各事項が、中島氏の中で一つにつながった感覚があるようだ。

過去には「研修には出ても、薬局で実践できず、進むべき道が見えなかった」という中島氏。
専門医療機関連携薬局の認定はハードルが高いとも指摘されているが、こうした中島氏のコメントからは、特別な薬局でなくても、患者に寄り添う気持ちをきっかけに行動を積み重ねることで、その認定への道は描けることを感じさせる。

学会認定には50症例が必要だが、中島氏は、「病院の研修実績を除いたとしても、薬局でしっかりフォローをしていく実績を重ねていけば5年の間に集まるのではないか」との感触を示していた。

プライバシーの守られた空間で資料を探したり、資料を持ち帰れたりするキムラ薬局にあるスペース「ガーベラ」が紹介された

キムラ薬局(大分県別府市)の薬剤師・中島美紀氏

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