新垣結衣&星野源、祝「逃げ恥婚」記念! 好調TBS火曜10時枠ドラマの検証

今回は、人気のドラマ枠を検証してみる新企画。第1弾の今回は、TBS系火曜10時のいわゆる「火曜ドラマ」枠に注目。関東約66万台超のレグザ視聴データを基に、過去に放送されたドラマ群の傾向とその人気の秘密を掘り下げる。

タイムシフト視聴が盛んになり、時間枠の概念は必要なくなったという意見もあるが、これはあまりに視野が狭い。むしろタイムシフトが主流になり、番組のブランディングが差し迫った課題である今こそ、タイムテーブルがテレビ局最大の武器だと考えるべきである。そして現在ブランディングに最も成功しているドラマ枠がこの「火曜ドラマ」枠だ。

TBS火曜10時にドラマ枠が設けられたのはそれほど昔のことではなく、当時は他局にもドラマ枠があって最初から注目されていたわけではない。転機となったのは、2016年1月クールの深田恭子ディーン・フジオカ出演「ダメな私に恋してください」である。ということで「ダメ恋」以降の火曜ドラマの一覧が以下である。

こうして見ると一目瞭然であるが、全作品が女性主演作品だ。脚本についても、単独執筆に限ると75%のドラマを女性の脚本家が手がけている。また「ダメな私に恋してください」から「私の家政夫ナギサさん」までの18作に限ると、「カルテット」(坂元裕二のオリジナル)、「監獄のお姫さま」(宮藤官九郎のオリジナル)、「わたし、定時で帰ります。」(朱野帰子の小説が原作)を除く15作がコミック原作であり、その大半が女性コミック誌連載のラブストーリーである(「おカネの切れ目が恋のはじまり」以降はオリジナル作品が続く)。

「火曜ドラマ」の作品群は、こうした徹底した女性目線を貫きつつ、仕事に対する不安や疑問、恋に対する憧れやコンプレックスなど、20~30代の女性が敏感に反応するテーマを描き続けて時間枠のブランディングに成功してきた。そうした時間枠の特色を決定づけた作品が、16年10月にスタートした「逃げるは恥だが役に立つ」である。

上記の表はクール毎のドラマ分析で使っている録画視聴ポイント(ポイントは1位を100とした場合の割合)による、過去5年間の全連続ドラマ放送回別ランキングであるが、「半沢直樹(第2シーズン)」 「アンナチュラル」「99.9-刑事専門弁護士-SEASONⅡ」(すべてTBS)など並み居る強敵を抑えて「逃げ恥」が上位を席巻している。しかも大差をつけての圧勝。世帯視聴率では最終回が20%に乗せはしたものの、「半沢直樹」や「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日)など「逃げ恥」以上に高い視聴率を取った番組はいくつもあったが、少なくともレグザの録画視聴では他を寄せつけない圧倒的な支持を得ていたことが分かる。エンディングの「恋ダンス」関連動画の大ブームやSNSでの拡散など、「逃げ恥」の成功がその後のテレビドラマに与えた影響は計り知れない。

ひょんなことから始まった共同生活がやがて本当の恋愛に変わっていくという、ある意味王道のラブコメディーではあるのだが、“就職としての契約結婚”というそもそもの設定や2人を取り巻くキャラの立った登場人物たちが持つ多様性、悩み、コンプレックスといった描写が、とにかく現在的であり、まさに今という時代が等身大で描かれていた。そういうラブストーリーは今までなかったのである。いろいろな意味で、21世紀を代表するドラマの一つだと言っていい。

もちろん新垣結衣演じる森山みくりと星野源演じる津崎平匡が不器用に距離を縮めていく、そのかわいさにキュンキュン胸をときめかせていたという人が多かったのは間違いない。だからこそのずば抜けた録画視聴のポイントでもある。一躍“ムズキュン”ブームが巻き起こり、「火曜ドラマ」のラブコメ路線を決定づけた。20年には新型コロナウイルス禍で「ムズキュン特別編」が放送され人気が再燃。21年1月には続編となる「~ガンバレ人類!新春スペシャル!!」が放送され、変わらない仲むつまじさでファンを安心させた(でも、まさか本当に結婚するとは思わないものなぁ。源さん、ガッキー、おめでとうございます! お幸せに!)

以降「火曜ドラマ」はF1(20~34歳女性)・F2(35~49歳女性)ターゲットに向けたドラマ作りを徹底し、主に働く女性の恋や仕事の悩みを丁寧に取り上げた。血のつながらない家族の絆を描く「義母と娘のブルース」や、オフィスでの働き方改革をメインテーマに据えた「わたし、定時に帰ります。」など、常に現在進行形のテーマに取り込んでいるのも大きな特徴である。

そしてコロナ禍の20年夏、“おじキュン”ドラマとして大きな支持を得たのが「私の家政夫ナギサさん」である。16年以降の火曜ドラマ枠録画視聴ポイント平均値ランキングでも、「逃げ恥」に次いで2位につけている。仕事には熱心だが家事は苦手な主人公が、家事代行サービスでやって来たスーパー家政夫・ナギサさんにひかれていくという物語。男性の家事代行という時点ですでに現在的である。そして、主人公をはじめとした登場人物たちの心の揺れやとまどいにも非常に共感が持てた。3位以降同じようなポイントの作品が続く中、頭一つ抜け出しての2位となるだけのことはある(1位の「逃げ恥」とはだいぶ差がついているけれど)。

そしてもう一つ「火曜ドラマ」枠を語るのに欠かせないのが20年1月の「恋はつづくよどこまでも」である。最終回継続率(=最終回の録画視聴ポイントを初回ポイントで割った値)のランキングでは「逃げ恥」に次ぐ第2位を獲得した。当初の期待値はあまり高くなく、初回のポイントは21作品中11位にとどまったが、最終回では「逃げ恥」「ナギサさん」「義母と娘のブルース」に次ぐ第4位まで上がってきた。過剰な少女漫画的展開にひるみながらも、佐藤健のドSツンデレぶりと上白石萌音の健気さに知らず知らずハマっていく快感。「火曜ドラマ」枠が、働く女性のリアリティーとは別に新たな鉱脈を掘り当てた作品と言える。

とにかく若い女性主人公のラブコメディーという路線を守り続け、月9が手放した恋愛ドラマを新たな形で再生させた功績は大きい。“今”という時代を描くことでブランディングにも成功し、「火曜ドラマ」枠でどんなドラマが放送されるかが注目されるようになっている。

前述した通り、現在放送中の「着飾る恋には理由があって」を含めて、ここ数作はコミック原作の枷(かせ)を外れて、オリジナル作での模索を続けていたが、7月の二階堂ふみ主演の「プロミス・シンデレラ」ではコミック原作に回帰するようだ。当然ながらこのドラマ枠が好調をキープできるかどうかは、個々の作品の出来にかかっている。今後の作品もぜひ期待して見守りたい。

文/武内朗
提供/TVS REGZA株式会社

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