阪神佐藤輝、3人目の“新人本塁打王”はある? OB捕手が分析「驚いたのは1発目」

11号ソロを放った阪神・佐藤輝明【写真:荒川祐史】

右腕だけで運んだ中越え11号に驚愕「あの打ち方で…」

■阪神 10ー7 西武(28日・メットライフ)

こんな新人見たことがない。阪神のドラフト1位ルーキー・佐藤輝明内野手が28日、敵地メットライフドームで行われた西武戦で衝撃の3発。今季13本塁打でセ・リーグトップの巨人・岡本、ヤクルト・村上に並んだ。新人の1試合3本塁打は1958年の長嶋茂雄氏(巨人)以来、実に63年ぶりである。現役時代にヤクルト、日本ハム、阪神、横浜(現DeNA)で捕手として21年間活躍した野球評論家・野口寿浩氏が打棒爆発の背景、史上3人目の“新人本塁打王”の可能性などを探った。

「1番驚いたのは1発目ですよ。普通はあの打ち方で、センターのフェンスを越えていくものではありません」と野口氏はあきれたように言う。2回先頭で第1打席に入った佐藤輝は西武先発の高橋にカウント1-2と追い込まれ、5球目の外角低めのフォークに体を泳がされた。しかし、右腕だけでさばいた打球はバックスクリーンに飛び込こむ11号弾となった。

6回の第3打席ではカウント0-1から、高橋が内角へ投じた144キロ速球がやや甘くなったところを見逃さず、左中間スタンドへ12号ソロを放り込んだ。そして、7-7の9回2死一、三塁の場面で巡ってきた第5打席。最速162キロを誇るギャレットに対し、154キロを計測したストレートを一閃。打った瞬間それとわかる決勝13号3ランが、右中間席の中段で跳ねた。

「もはや佐藤輝を新人だと思ってはいけません。相手打線の鍵を握る主軸打者として対策を徹底しないと抑えられない。そういう意味では、西武バッテリーに甘さもあったと思う」と野口氏は指摘する。

というのは、セ・リーグの投手はいまや、佐藤輝がやや苦手とするインコースに球を集めている。交流戦最初のカードでも27日のロッテ戦で8回にセットアッパーの唐川がインハイにカットボールを集め、空振り三振させたシーンがあった。一方、この日の西武は佐藤輝の第1打席で、5球中4球を外角に配し打たれた。

悠々とダイヤモンドを一周する阪神・佐藤輝明【写真:荒川祐史】

新人本塁打王には1958年に長嶋茂雄、59年に桑田武が輝いている

3回の第2打席では、内角攻めで空振り三振(ウイニングショットは膝元のスライダー)に仕留めたが、「厳しい言い方をすれば、打たれてからやっても遅い」と野口氏。さらに、インコースへ投げればいいというものではなく、甘くなれば第3打席のように佐藤輝のスイングの餌食になるのである。

野口氏は9回の決勝弾でも、西武バッテリーの配球に疑問を呈する。1球目は内角低めのスプリットで空振り。2球目のスプリットが外角低めに外れた後、3球目はほぼ同じコースのスプリットを空振り。カウント1-2と追い込んだ。「3球目までスプリットに全くタイミングが合わず、真っすぐ待ちであることが明らかでした。追い込まれてからはなおさら、あれだけの球速を誇るギャレットに対して変化球を待てるわけがない。そこで内角を狙った真っすぐが甘くなり、打たれた。佐藤輝にとっては思う壺だったでしょう」と分析した。

もちろん、逃さず本塁打にした佐藤輝の精度が何より凄い。仮に野口氏が現役捕手として対戦するとすれば、「内角をぼんぼん突いた上で最後の最後は、内角を続けるか、一転して外角に落ちる球を配するかの判断でしょうね」と思い描く。

シーズンはようやく2か月を経過したばかりだが、佐藤輝が本塁打王を獲得すれば1958年の長嶋茂雄(巨人)、59年の桑田武(大洋=現DeNA)に続いて新人では史上3人目の快挙となる。野口氏は「こればかりはまだ予想がつきませんが、固め打ちができることがわかった以上、資格は十分ある。開幕前から有力候補と見られていた岡本、村上、オースティン(DeNA)ソト(同)らと肩を並べる存在になった。それだけでも凄いです」と見る。どうやら今季は最後の最後まで、サトテルから目を離せそうにない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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