コロナ対応を狂わせる「医系技官」のひどすぎる実態|八幡和郎(評論家) コロナ対策でにわかに注目されている厚労省の「医系技官」。しかし、彼らは霞が関の「獅子身中の虫」だった!医療界の内情に詳しい筆者が、その知られざる実態を暴く!

尾身茂会長の上から目線の「ご神託」

新型コロナウイルスの感染が収束しないなか、東京五輪・パラリンピックの開催について、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、6月3日の参院厚生労働委員会で、「なるべく早い時期に、われわれの考えを正式にしかるべきところに表明しようと思っている」と、上から目線の「ご神託」を下そうといわんばかりの発言をした。

「本来はパンデミック(世界的大流行)でやることが普通ではない。それをやろうとしているわけで、やるのなら強い覚悟でやってもらう必要がある」「開催すれば国内の感染や医療の状況に必ず何らかの影響を起こす。感染のリスクや医療逼迫への影響について評価するのはプロフェッショナルとしての責務だ」というのである。

それに対して、脳科学者の茂木健一郎氏は、「尾身さんを始めとする医療の『専門家』は、国民の行動変容(家に帰れ、酒を飲むな、出歩くな、五輪をやるな)を言うだけで、自分たちの行動変容(諸外国ではやっている多数のPCR検査、ボランティアによるワクチン接種、ITを利用した人海戦術からの脱出)をしていない。」となかなかの世論を吐いている。

新型コロナ騒動で、憤懣やるかたないのは、尾身会長を筆頭とする医者たちが、自分たちの仕事のやり方はほとんど変えようともせず、医者人生でいちどしか経験しないような状況にあっても、年末年始も連休もしっかり休み、国民に自分たちがこれまで通りのペースで仕事して受け入れられるだけの患者数に抑えるべく、人々の仕事や生活の活動量を削減しろということしか言わないことだ。

そこには、自分たちも頑張るからという姿勢もなければ、五輪・パラリンピックという崇高な目標と感染拡大防止をどうしたら両立できるか、さらには、相互によい影響を及ぼすウィンウィンの関係にすることはできないかといった配慮など露もない。

蓮舫氏は議員辞職せよ!

私は、東京五輪は、うまく仕込めば、コロナ蔓延防止にむしろ良い影響を与えるようにできるし、絶対に開催すべきだと思う。

だいたい、五輪を開催すれば、日本人は、外出せずにテレビを見る。いつもの年のお盆お休みをここに前倒しする企業も多そうだ。

それは感染防止になるし、テレビ見て楽しめたら、国民の精神衛生上もいい。MLB大谷選手の活躍を見て、多くの人が、昼間、自宅にいることの寂しさを紛らわせているではないか。

五輪を開催すれば感染が拡大するという批判があるが、選手にはワクチンを打ち、PCR検査を入国の時にもその後も毎日でもするのだから、これ以上、安全なことない。国際的にも、ワクチンを打った観光客も歓迎で動いているのだ。

選手や直接の関係者に絞ったら、医療従事者等四百八十万人の優先対象に比べればごく小さい数字なのだから、日本人関係者に早く広くワクチンを打つべきだ。

政府は五輪の前向きな意味や防御態勢が万全なことを積極的にPRせず、叩かれることばかり気にして低姿勢だから悪循環になっている。

さらに、外食産業のテイクアウトに五輪期間限定で補助券を国民に配ったら、ますますいいではないか。

五輪に限らず、外出を減らしたければ、もっと、テレビを面白くして、日頃と違うものを見せて欲しい。映画、演劇、音楽などの放映権を国が補助してどんどん買い上げて放送させたら文化振興にもなって良いと思う。

観客は、状況に応じて人数を制限したり無観客にしたりすればいいが、日本での開催が数十年にいちどで日程をずらすことも難しい五輪で、プロ野球や甲子園大会、あるいは、アイドルのライブより厳しい制限をすることは理屈に合わない。

5月10日の参院予算委の集中審議で、立憲民主党の蓮舫参院議員が菅義偉首相に「指定病院に選手と国民が同時に搬送された場合、どちらを優先して治療するのか?」と菅首相に質問した。

そして、首相の答弁後に「総理、日本国総理大臣として答弁はたった一つですよ。国民が優先される、でしょう。守るべき命は国民じゃないんですか?」と返した。

「病院が自国民を優先にして外国人を後回しにすべき」というのは、前代未聞の人道上とんでもない発言だ。議員辞職すべきである。

選手村への異常なヘイト言論

しかし、こんな重大な人権侵害発言を、マスメディアが攻撃しないのはおかしいし、それを追及しない与党も、処分しない立憲民主党もどうかしている。

医療機関が国籍で差別することは、許されない。もちろん、医療保険制度とか、医療補助については、必ずしもそうでないが、二国間、多国間協定を結んで居住国の制度を利用できるようにすることが望ましい。

また、高額医療を目的とする移住などを防ぐことも、許されるだろう。しかし、どっちにしても、救急や疫病で倒れたときに、内国民優遇などとんでもないことだ。日本人が外国で同じ目にあったらと想像力も働かして欲しい。

選手村への酒持ち込みに反対する異常なヘイト言論も許しがたい。なにも、日本人に対する自宅やホテルでの飲酒を禁じているわけでない。それならどうして選手村で飲酒してはいけないのか。

そういうのは、許容範囲を超えるヘイト言論であろう。「おもてなし」とかいって調子のいいこといっていたのは日本人でなかったのか。五輪を誘致するときは、歯の浮いたような国際人を装っていたこととの落差が大きいのは、あまり良い気持ちのものではない。

霞が関の獅子身中の虫

ところで、今回のコロナ対策は、安倍内閣や菅内閣のイニシアティブで進められていると思っている人が多い。

しかし、その実態は、肝心なところは、尾身会長のような医学界の重鎮、医師会や病院など医療界の総意の反映であって「医系技官」が政府内の代理人になって牛耳っているという仕組みだ。だから、総理の意向といっても、聞き流されている。

コロナ対策でにわかに注目されている厚労省の「医系技官」は、医師資格を持つ官僚だが、これが「霞が関の獅子身中の虫」になっている。コロナ戦争の戦時下なのに、唯我独尊で動きが鈍い医者たちの盾になって、国民を苦しめている。

たとえば、初期にアビガンという治療薬が少なくとも症状緩和に効くというので、当時の安倍首相からもできるだけ承認を急いで欲しいと指示があったが、結局、ポーズだけで、いまだもって承認されていない。

幹部が安倍氏の病状の情報を大学ルートでつかんで、サボタージュしているという噂さえ流れたが、鶴の一声でワクチン承認と接種を進めたトランプ、ジョンソン、ネタニエフといった成功している国の指導者のようには、日本ではさせてもらえないのだ。

「技官」は東京大学などの法学部など出身で公務員試験を通ってきた霞ヶ関の典型的な「官僚」とは、別の人事と論理で動く官僚たちの存在だ。

彼らは、省庁の職員だが、同時に専門家集団によって構成される一種の「マフィア」の一員で、政府や省庁の一員であるよりそちらの立場を優先させがちだ。

いちばんひどいのは法務省で、技官ではないが、検察官が幹部を占めているので、国際的に問題になっている「人質司法」の改革などできるはずがない。

最強の技官は、国土交通省の土木や建築系の技官だ。土木技官はどこの公共工事を優先するか、どういう方法で建設するかなど支配的な力を持っている。

また建築技官は建築基準法などをどうするかとか、どういう住宅設備を認めるかとかに力を振い、それに事務官僚が介入することはほとんど不可能だ。

専門家の意見として妥当なことも多いが、やはり過剰なことも多い。たとえば、住宅に火災報知器や換気扇を各部屋に設置する必要があるのだろうかと疑問に思っている人も多いだろう。

家を建てる場合、総額のなかに隠されているが、いささか過剰な規制のために、コストがかなり上がることも多いのだ。

専門家の判断はよく聞くべきだし尊重もした方がいいが、ほかの専門家の意見も聴くべきだし、最終判断は、国民の負担が過剰にならないように、政治がすべきものだ。

高級官僚は事務系であろうが技術系であろうが、法律や土木など専門分野の知識を問われるほか、一般教養試験も大きな比重を占める。

医療界が言いたい放題の理由

しかし、医系技官は、公務員試験を受けていない。医師資格をもっていたら、あとは面接などを経て希望者はだいたい採用されるのだ。

一般に、医学部では入学早々から職業教育の準備が始まり、他学部の学生ほどには一般教養を熱心に勉強しないから、その彼らに一般教養試験免除というのは、本当によくない。

必ずしも新卒とは限らず、長い期間、医師として働いた人も多い。尾身茂新型コロナウイルス感染症対策分科会長(コロナ分科会長)も十年間ほど現場で働き、自治医大の助手を経て厚労省の医系技官となり、さらにWHOで働いた。

何かと話題になることが多い、大坪寛子厚労省審議官も慈恵医大を卒業して十五年後に厚労省入りしている。

医系技官のトップは、事務次官クラスの医務技監で、現在は、熊本大学出身の福島靖正氏だ。週刊誌で、学生時代にガールフレンドだった宮崎美子の写真を『週刊朝日』に送ってデビューのきっかけをつくった人と話題になったことがある。

課内歓送会で二十三人の大宴会をやった眞鍋馨老人保健課長も東北大学医系技官だ。

あのニュースを聞いたとき、出世の道を諦めざるを得なくなるような軽率な行為をするとは、ずいぶん、度胸のある官僚だと思ったが、いつでもやめて医者になればいい医系技官と聞いて納得がいった。

彼らは、事務系の厚労省の事務次官や総理官邸から睨まれるより、医者仲間の評判の方が気になるのである。厚労省の天下り先にしても、役所の関係者はわずかだから、医者仲間から評価されないと仕事ができない。

医系技官が盾となっているから医療界は言いたい放題だ。

「医療界は、従来の体制のまま無理がない範囲で対応するよう努力するに留める」

「それで感染が拡がりそうなら、経済社会活動をコストや人々の自由を無視して制限しても止めろ」

だから、流行開始から一年たっても病床数は増えず、PCR検査の拡充も不十分、年末年始も連休中も医療機関は例年通り休み、ワクチンの承認は遅れ、接種も海外のように薬剤師などに門戸を開放しないので遅れそうだ。

そういう医療側の怠惰のしわ寄せで、感染者数が欧米の二十分の一なのに、経済社会活動が酷く止められ、結果、欧米並みにGDPは落ち込み、ワクチン接種の進行で回復基調にある欧米を尻目に沈んだまま。また、施設の親に会えないとか帰省できないので泣いている人も多い。

ワクチンを接種したら患者を診ずに帰省した「医療従事者」

さらに、許されないのが、ワクチンの医療従事者等優先接種である。どこの国でも高齢者施設入居者やその関係者を最優先にしているのに後回しにし、お手盛りで自分たちとその関係者を呆れるほど広範囲に最優先にした。

しかも、曖昧な基準で本当に従事者か怪しい家族なども対象にできなくもない余地をつくったので、四百八十万人という非常識な数に拡がった。この「医療従事者」のなかには「ワクチン打ったから」と、患者を診ずに帰省したとかいう人もいる。

ワクチン接種をめぐっては、地方自治体の長や地元有力企業の社長への優先接種が話題になっているが、そんなものは些事で、こっちのほうが深刻だろう。個別に対象が適切だったか事後チェックをすべきだ。

高齢者施設でクラスターが発生し、大量の死者が出ているのは、このようなお手盛りの結果だ。そして、その基準を決めたのは、医師会などの圧力を受けた、医系技官が事務局をつとめ、尾身氏が会長をつとめるコロナ分科会だと先月号でも書いた通りだ。

専門家の意見を寄せ集めても本当の国造りはできない

もうひとつ、何事につけても、前向きの発想ができないのかというと、細かい分野の専門家の決定の寄せ集めで政策体系が組まれるからだ。

専門家の意見と云っても、ガラパゴス的な日本だけ特殊な考え方をしているということも多い。

日本は学会も細分化されているので少人数の仲間内での多数派に過ぎないこともあれば、専門家の判断といっても学術的・技術的な判断でなく、世俗的な利益が絡んでいることも多い。

そして、専門外の観点からの配慮も必要なので、自分たちの専門領域だけの判断を押しつけられても困ることもある。

ならば、専門家の意見といっても、それをとるかどうかは、政治家が最終判断するか、あるいは、他分野の専門家からなる審議会等の意見を聞くべきだ。会社経営ですら、社内だけの判断では不十分だという流れではないか。

ただし、その一方で、専門家が独立した立場から意見をいうのに萎縮するのでは困る。多様な意見が出され、それを意思決定過程でも、その後も、参考にされることで大きな間違いも避けられる。

だから、政治任命が主体の米国はともかく、ヨーロッパ各国では、主要なポストは政治の意向も踏まえて任命されても、政権や省庁幹部と意見が違う官僚も地位を失わないように保証されていたり、政治任命できるポストが限られたりしている。

安倍内閣以来の官邸主導に批判が強いのは、そういう安全装置が用意されなかったからであって、政策の官邸主導そのものがいけないのではないと思う。

また、政治主導の息苦しさがあるのは、与野党交代が少ないからでもある。なぜ、そうかといえば、野党が憲法改正阻止を主たる目標にしているので、過半数でなく、三分の一の議席で満足するからだ。

小選挙区で改善するかと思い、民主党政権が誕生して健全な二大政治勢力の併存の時代になるかと思ったら、非現実的な政策で失敗し、政権に復帰するのが怖くなったからか、また、改憲阻止路線に戻ってしまった。

私は、いい加減、憲法改正をほどほどの内容なら受け入れ、憲法問題が主たる関心でなくなったほうが、野党のためにもいいと思うし、それをお薦めしたい。 強い官邸主導も、政権交代がときどきあるのなら、弊害は少ない。

コロナ対策でも、野党などが細々と文句を付けて足を引っ張るのでなく、大胆に即効性のある政策を政府が打ち出し実行させて、結果が悪ければ政権交代というのでなければ、中国との差がますます大きくなるばかりだ。

東京五輪も、野党は政府のお手並み拝見で、意見はいいつつも、足は引っ張らずに、とりあえずは、任せるべきである。それが国益のためだ。

八幡和郎

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