制度化より多職種協働を 第8部 識者に聞く (2) 東埼玉総合病院医師 中野智紀さん

 埼玉県幸手市の東埼玉総合病院に設置された地域ケア拠点「菜のはな」は、福祉や生活モデルを重視し柔軟にケアの枠組みを変える地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいる。幸手モデルとして注目される仕組みを提唱する医師中野智紀(なかのともき)さん(45)は社会的処方の制度化に疑問を投げ掛ける。

 「社会的処方に取り組んでいる医師はヒューマニストが多く、患者の社会的側面に目を向ける心構えは大切だ。だが医師が主導して解決しようという視点や制度化は時代に逆行している」

■「生きる」支援

 政府が対策を進める孤独・孤立問題で、自民党の特命委員会が社会的処方の活用を提言するなど新たな動きもある。中野さんは制度化により個人が置き去りにされる可能性を指摘する。

 「政策には数多く実践する中でうまくいくケースが出ればいいという側面があり、いいかげんだ。社会的処方することが目的化したら目も当てられない」

 「一番重要なのは生きることへの支援。次が生活問題の解決。問題の数を減らしたり整えたりしながら問題に立ち向かいやすくしても、全ての問題を消せる人はいない。個人の生きる力を支援し、問題を抱えていても生きていけるコミュニティーを築くことが大切だ」

 地域包括ケアで議論されてきた多職種協働の推進に歯止めが掛かる懸念もある。特に医療界が持つ「政治力」によって診療報酬に加算される形を前提とした制度化が推し進められることに危機感を示す。

 「『生きるを支援する』とは、答えがない問いに対してみんなで話し合い悩み続けていくこと。何人も集まることで質の良い答えが出てくる。ようやく対等な立場で話す協働の必要性が浸透してきたのに、医師が一手打つ方向が示された」

 「政策審議の場では医療職が圧倒的に議論に強く、協働の必要性や、福祉や生活モデルの重要性を理論立てて語れる社会福祉領域の識者は少ない。地域包括ケアに関しては現場と政策側の意見が合致し良い方向に来ているところで、積み上げた議論が全てひっくり返る可能性を心配している」

■住民が実践者

 菜のはなは専門職を交えた情報共有の場をいくつも設け、地域活動する住民をゆるく結び付けて下支えする。地域で生まれた発想は協議の場を通じ新たな仕組みの実現につながっている。

 「実践者は菜のはなではなく、あくまでも住民。一番楽しい部分を住民が、行政との調整など裏方を医療者が担う。住民がわれわれの使い方を分かってくれるようになり、これまでの共同体や古い価値観に縛られず自由に活動し始めたことが一番の成果だ」

 【プロフィル】2001年、獨協医科大医学部卒業。同大越谷病院勤務を経て東埼玉総合病院地域糖尿病センター長。北葛北部医師会地域ケア拠点「菜のはな」室長。

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