神奈川西部の記録的大雨、難しい避難のタイミング見極め 警戒情報は相次ぐも…雨量増加は深夜・早朝に

記録的大雨で川のようになった湯河原町内の県道(同町提供)

 6月末から7月上旬にかけて停滞した梅雨前線で、総雨量が850ミリ超となった箱根町を中心に、神奈川県西部では小田原市や湯河原町などで500ミリを超える記録的な大雨となった。大雨関連の警戒レベル(5段階)で、レベル4に相当する「土砂災害警戒情報」が21市町に発表され、「氾濫危険水位」を超えた河川(芦ノ湖含む)は計20に上った。平塚市が全国で初めて発令した警戒レベル5の「緊急安全確保」など、リスクの高まりを知らせる情報は次々と出たが、深夜や早朝に雨量のかさんだ地域が多く、避難行動のタイミングを見極める難しさがあらためて浮かんだ。

■警戒情報第1号は午前1時

 「降り続く大雨のため、土砂災害警戒区域等では命に危険が及ぶ土砂災害がいつ発生してもおかしくない非常に危険な状況です」

 今回の大雨で土砂災害警戒情報の第1号が出されたのは3日午前1時15分。対象は横浜市北部と南部、平塚市、小田原市、秦野市、大磯町、二宮町、中井町、大井町だった。

 地域によっては、スマートフォンなどの緊急速報メールで通知された。大雨警報の発表時点よりも土砂災害のリスクが高まっていたことから、地元市町村が発表する避難指示などの情報に注意するよう呼び掛けるためだ。

 その後、警戒情報の対象地域は徐々に拡大。同日午前7時42分の第7号で三浦市が加わり、計21市町となった。気象庁ウェブサイトの「キキクル」(危険度分布)では、土砂災害の恐れが高い状況を示す紫色のエリアが地図上に広がっていた。

■相次いだ河川氾濫、「緊急安全確保」

 一方でこの間、河川の水位も上昇していた。平塚市は午前7時4分、市西部を流れる金目川水系で洪水による浸水被害が発生している可能性があるとして、警戒レベル5の情報「緊急安全確保」を発令。5月に施行された改正災害対策基本法で導入された同情報を実際に運用した全国初のケースで、少しでも安全な場所へ直ちに移動するよう重ねて促した。

 県の集計では、河内川、鈴川、板戸川、座禅川も含めた平塚市内の5河川で「氾濫危険水位」を超える状態となり、河内川では氾濫が発生した。

 氾濫危険水位は、県などが管理する「水位周知河川」に定められた4段階の水位のうち最も高い水位だ。県内では計20河川で同水位を超え、寒川町の小出川でも氾濫があった。小田原市の森戸川では、転落したとみられる女性(71)が行方不明となった。

 箱根町の芦ノ湖は3日午前2時10分から5日午前1時20分まで氾濫危険水位を超過。水位周知河川とは別の洪水予報という注意喚起の仕組みが導入されている酒匂川も水位が上がり、3日午前8時20分に警戒レベル2に相当する氾濫注意情報が出されるなど、雨量の多かった県西部を中心に危険度が高まった。

■長雨でかさんだ雨量…「まだ大丈夫と」

 今回の大雨は、降り始めの6月30日から7月4日までの長雨となり、結果的に雨量がかさんだ。箱根町の雨量が1日余りで千ミリを超え、警戒レベル5相当の大雨特別警報が神奈川県に初めて発表された2019年10月の台風19号の時と異なる降り方だったことから、住民らが危機感を抱きにくかった可能性もある。

 一時は氾濫危険水位に達した新崎川(湯河原町)の近くに住む女性(75)は「上流から石が流れてきて怖かった。避難指示が出ているのは知っていたが、まだ大丈夫と思った」と振り返る。

 期間中の雨量は箱根町で最多の856.0ミリに達した。県の雨量計でも連続雨量が最も多かった地点は浅間山(箱根町小涌谷)の788ミリ。500ミリを超えた地点は同町と湯河原町、小田原市に集中していた。

 一方で、土砂災害や洪水の危険度が高まった7月3日未明には1時間に約50ミリの非常に激しい雨が観測されたものの、1時間に100ミリ以上の猛烈な雨が対象の「記録的短時間大雨情報」は出されていない。また、線状降水帯の発生を知らせる「顕著な大雨に関する気象情報」も、四つある要件(雨域の形状や累積雨量など)の全てを満たさなかったため、発表に至らなかった。災害を招く危険な雨には多様なパターンがあることを示す形となった。

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