【後発薬の供給不安定化】薬局の経営に影、年間300万円減収の可能性も/東京都薬剤師会が実態調査の最終報告書

【2021.07.13配信】小林化工の不祥事に端を発した後発医薬品の供給不安定化。「モノがない」ことを理由に、薬局では先発医薬品に変えざるを得ない事態も起きている中、7月に新たな後発医薬品の収載を迎えた。後発医薬品の使用率を算出するための「分母」がさらに拡大する中、「分子」は低下する薬局もある。すなわち後発医薬品体制加算が従来通り算定できない場合、薬局経営に影を落とす。年間で300万円以上の減収をもたらす可能性も指摘される。東京都薬剤師会の「後発医薬品に関する流通及び対応状況に関する調査」を詳報する。

東京都薬剤師会は6月11日〜6月30日まで、「後発医薬品に関する流通及び対応状況に関する調査」を実施し、7月9日(金)に最終結果を公表した。

調査の背景として、同会では、「昨年来、複数の医薬品製造販売業者が起こした不祥事案に端を発して現在にいたるまで、後発医薬品市場における製品供給体制が非常に不安定となっております。当該企業群が製造する製品の回収・出荷停止だけに留まらず、その余波を受けて他の後発医薬品メーカー製品が代替需要に対応しきれず、止む無く出荷調整に至る情報も日々公表されております。正に医療用医薬品需要供給体制の非常 事態の状況下にあることは否めません」と現状認識を吐露。

その上で、「全国的に同様の状況下にあっても厚生労働省は後発医薬品促進の新たな目標について、『2023 年 度末までに後発医薬品の数量シェアを、全都道府県で80%以上」とすると公表しております。発注しても納品が滞り、患者に後発医薬品の使用を勧めても不信感を訴えられながら後発医薬品使用促進を図る保険薬局の状況を明らかにして、今後の対応策に活かすことを目的に、今般、会員薬局の管理薬剤師 若しくは開設者を対象として、調査を実施いたしました」とする。

調査内容は、製品回収や承認取消しとなった企業製品の代替対処、新規採用医薬品の注文取引に関する質問に加え、会員が直に意見を記入する方法としている。

当初6月11日(金)〜6月18日(金)正午までの回答期間を設け、回答数1000 件に達した段階(6 月 17 日)で、途中経過の分析・公表を行っていた。しかし、データの信ぴょう性を高めるためにより多くの回答数が望まれたことから、回答期間を6月末まで延長し、このほど、最終集計を行った。

最終的な回答数は、1520件。
以下、結果を詳報する。

「納品滞りで調剤に影響ある」65%に加え、「発注できない場合がある」17%

<設問1>貴局で採用している後発医薬品について、「現在の卸の納入状況」に近い選 択肢を1つ選んでください。
①希望した後発医薬品が発注数通りに納品されている 2%
②希望した発注数通りではないが、調剤業務に影響 が出ない範囲で納入されている 16%
③納品が滞り、調剤業務に影響が出る場合がある 65%
④製品が流通していないため発注ができない場合が多くある 17%

「卸に在庫はあるが、販売実績などで貴局には納品できない」519件の回答

<設問2>
設問1で『3納品が滞り調剤業務に影響が出る場合がある』を選択した985 名に尋ねました。
納品が滞る或いは発注できない製品について卸担当者から説明され た理由について、あてはまるもの全てを選んでください(複数回答)
①卸に在庫はあるが、販売実績などで販売先が指定さ れており貴局には納品できない 519
②発注量の一部は納品できるが、不足分は入荷次第となる 707
③卸に在庫がないので納品できない 783
④発注時に説明がなく、納品日に欠品があることを説明された 347
⑤製造メーカーが得意先への割当て数を決めているの で、一定量の納品しかできない 590
⑥新規採用品の注文を受けたが、出荷調整のため納品できない 652

納品の滞り品目数では「4品目超」64%

<設問3-1>
同じく設問1で『3納品が滞り調剤業務に影響が出る場合がある』を選択した 985 名に尋ねました。
既に発注はしているが、現在納品が滞っている品目数を教えてください
1品目 5%
2品目 12%
3品目 19%
4品目超 64%

納品滞り品目数「20品目」の薬局も

上記設問 3-1 で『4品目超』と答えた方 629 名の品目数を調べました。

後発薬の供給不安定化の対処方法「先発品への変更」817件

<設問3-2>
設問1で『3納品が滞り調剤業務に影響が出る場合がある』を選択した 985 名に尋ねました。
納品が滞っている場合の貴局での対処方法についてあてはまるも の全てを選んでください(複数回答)。

①複数メーカーの後発医薬品を購入して患者毎に使 い分けている 639
②安定的な供給が見込めないので規格を変更して対応している 192
③安定的な供給が見込めないので剤形(普通情 ⇔OD錠)を変更して対応している 398
④後発医薬品の安定的な供給が見込めないので先 発医薬品に変更した(変更する予定) 817
⑤先発医薬品には変更できないので、処方医と協議 して後発医薬品がある同種同効薬に変更した 210
⑥その他の方法で対処している 151

患者の反応「不安を持たれた」472件

<設問3-3 >
設問1で『3納品が滞り調剤業務に影響が出る場合がある』を選択した 985 名に尋ねました。
医薬品の変更に対する患者の反応についてあてはまる選択肢をす べて選んでください。

①対象品目が入手できない旨を説明して患者は納得した 912
②対象品目を入手できない説明をしたが患者は納得せず、他店で調剤 を受けた 89
③変更については納得したが、負担金額が変わることに不満を訴えた 220
④変更については納得したが、製品が変わることに不安を持たれた 472
⑤先発医薬品に変更することに患者は同意した 646
⑥薬局での後発医薬品採用の決定方法について説明を求められた 66
⑦後発医薬品の使用を推進した薬剤師に対する不信感を訴えられた 97
⑧後発医薬品の使用を促進している制度に対する不信感を訴えられた 311
⑨その他 (次の項で内容をご記入ください) 34

前問で『9その他』を選ばれた方の記入欄
・後発医薬品を推奨する国に不信感と後発医薬品に対する不信感が多く見られた(類似回答
他 33 件)
・ 説明して納得された(類似回答他 17 件)
・ 後発医薬品に対し信用が出来ないので、すべての薬の調剤を先発品に変更するように求め
られた(類似回答他 16 件)
・ 入荷を待つのでなんとか都合してほしいと頼まれた(類似回答他 8 件)
・ ヒートや錠剤の大きさ・色が変わることの不安(類似回答他 7 件)
・ 日医工以外ならどこでもいい(類似回答他 7 件)
・ 他メーカーの GE で不眠などの体調不良が発生し急遽先発に切り替えた(類似回答他 3 件)
・ 安全性に疑問を感じていた(類似回答他 1 件)
・ 先発薬変更に同意を得たが金額の変動幅の大きさに不満を強く述べられた(類似回答他1件)
・ 品薄を承知で、その薬剤が門前薬局に優先納入されることから、患者の誘導に利用している
医院がある。
・ 供給不安定については患者には伝えていない。
・ 在庫のある薬局を紹介した
・ 薬局都合では?と疑われた
・ 色々なタイプの患者がいるので、患者の性格に応じて対応せざるを得ない状況です。かなり
苦労しています。

<設問4>では、「4製品が流通していないために発注ができない場合が多くある」との回答者に対しても、納品に滞りのある品目数や対処方法、患者の反応等については、聞いているため、上記の回答それぞれの実数はより多くなっている。

「入手困難な後発薬」10品目以上が33%で最多

<設問5-1>
設問1で『3納品が滞り調剤業務に影響が出る場合がある』985 名・『4製品が流通していないため 発注ができない場合が多くある』を選択した 258 名 計 1,243 名に尋ねました。
現在、入手困難な医療用医薬品(後発医薬品)の品目数を教えてください。
2品目 8%
3品目 12%
4品目 9%
5品目 13%
6品目 7%
7品目 5%
8品目 5%
9品目 2%
10品目以上 33%

入手困難な先発医薬品「1品目」「2品目」「3品目」合計で56%

<設問5-2>
設問1で『3納品が滞り調剤業務に影響が出る場合がある』985 名・『4製品が流通していないため 発注ができない場合が多くある』を選択した 258 名 計 1,243 名に尋ねました。
現在、入手困難な医療用医薬品(先発医薬品)の品目数を教えてください。
0品目 25%
1品目 27%
2品目 18%
3品目 11%
4品目 5%
5品目 6%
6品目 2%
7品目 1%

後発薬の使用率「下がっている」35%

<設問6>〜<設問11>に関しては、不祥事のあった個別企業製品の採用状況と今後の予定を聞いている。

<設問12>2021年5月の後発医薬品使用率(新指標)は、1月と比較して如何でしょうか
①上がっている 13%
②変わらない 52%
③下がっている 35%

こうした結果を受けて、7月9日に会見を行った東京都薬剤師会会長の永田泰造氏は、「皆保険制度の維持のために、われわれは今後も後発医薬品の推進に協力していかなければいけない」と大前提を述べた上で、「ただし、ものがなかったらどうにもならない」と苦しい実情を吐露。
メーカー・卸の尽力や行政の制度変更もあることに理解を示した上で、「理解はしているが、(これまで後発医薬品を推奨し推進してきた)薬剤師と患者さんのそれぞれの立場で不安やストレスがある。そういう意味でも元の状態に戻すには1年、2年かかると思っている。現状示されているもの以上の、納得できる対応を審議会等で議論してもらいたい」と話した。

また東京都薬剤師会副会長の髙橋正夫氏は、「今年7月にも新たに後発医薬品が薬価収載されたが、実際の販売は一部のメーカーだけと聞く。本来は収載されたら滞りなく販売することが前提のはず。後発薬の使用率をはかる分母は確実に増えていくのに、実際の後発品の供給不安定化で分子は低下する」と憤りを隠さなかった。

後発医薬品の供給不安定化が薬局経営にも影を落とす危険性も指摘された。
現在、後発医薬品調剤体制加算は、例えば使用率80%以上に対して22点となっているが、仮に使用率の低下で75%未満となってしまえばこれが算定できないことになり、月間処方箋枚数1000枚程度の薬局であれば、年間で264万円の減収となってしまう。

*****
<編集部コメント>
薬局薬剤師が、なぜ後発医薬品の供給不安定化に対して強い憤りを感じているのか。
それは、いかなる事業においても根幹となる顧客との“信頼”を崩されたからにほかならない。
医療の質を維持しつつ医療費を適正化できる数少ない策として、薬局薬剤師は丁寧に後発医薬品の説明を行い、患者との信頼関係の下で使用を推進してきた。
「後発医薬品への不信」は、「薬剤師への不信」につながりかねないリスクをはらんでいる。
それだけに、この問題は起きている一つひとつの事象以上に薬局にとって重い意味を持つ。

一方で、「納得のできる対応」とはどのようなものなのかを薬局も議論していくべきだろう。
現在は、「具体的にどの程度薬局に支障が起きているのか」の実態把握だけでも大きな意味がある。あるいは、こうした事態の周知自体が意味を持つ。
しかし、対応策の提示も将来的には必要となるだろう。
具体的には、対処方法として調査結果でも回答のあった「同種同効薬への変更」に関する柔軟性を持たせることや、ここにICTの意義を見出し、医師への情報共有を円滑化することなどが考えられるだろう。
もっと先をみれば、ポストコロナ時代を見据えた医薬品の安定化のためにもフォーミュラリの浸透が本格化する可能性があるだろう。
その時に向けて、薬局薬剤師は何をすべきか、準備が必要になっているのではないだろうか。

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