【新型コロナ】療養者対応で分かれる二大都市 大阪府「できるだけ施設療養」東京都「自宅を病床に」 

 29日の全国における新型コロナウイルスの新規感染者は10693人となり、コロナ禍となって初めて1万人の大台を超えた。その中でも、地域への波及という意味で注目されるのが日本の二大都市圏、東京都と大阪府の状況と自治体の対応だ。今のところ、今後圧倒的に数が増加する無症状・軽症の感染者に対する対応が見事なまでに分かれており、対策の成否いかんでは、医療崩壊の度合いや死亡率まで分かれる可能性がある。

大阪府吉村知事「できるだけ施設で療養していただく」

 大阪府における29日の新規感染者は932人で1000人に迫る勢いとなっているが、28日に会見した吉村洋文大阪府知事は、各医療機関に重症・中等症患者の病床確保の要請を法律に基づいて行うと同時に、入院の必要がない感染者に対しては、できるだけ府が用意した施設で療養してもらうよう取り組んでいることを説明した。これは第4波の際、重症者病棟の病床使用率が長期間100%を超え、完全に医療崩壊を招いてしまったことの反省だ。具体的には重症者用病床を現在までに587床に増床、軽症・中等症病床は2510床まで積み増し、さらに「第5波」に備えて計500床を確保する方針だという。

 これらよりさらに数が多くなる入院の必要がない無症状者・軽症者に対応する宿泊療養施設に関しては、現在3986室を確保しているところ、さらに6000室まで増やす計画で、積極的に施設での療養をすすめる体制をとっている。各施設には看護師が常駐し、酸素投与の機材も配備。すべての施設ではないが拠点施設には医師が配置され、必要な時はオンライン診療を行いケアするという。

 ただ、こうした準備は第4波時も同様にしていたものの、保健所や担当部局の業務ひっ迫などで施設に患者を収容する手続きが遅れ、使用率は高まらなかった。そこで今回は施設の空室状況、搬送用タクシーの空車状況などを一元管理できるシステムを開発しすでに稼働させており、現在では最短で感染判明当日の施設入所が可能になるとしている。

 今後の感染爆発にもこうした体制で耐えられるかは不透明だが、少なくともこれまでの反省を踏まえて取り組んでいるとは言えるだろう。

東京都小池知事「一人暮らしの方々には自宅を病床に」

 東京都における29日の新型コロナウイルスの新規感染者は3865人で過去最多を3日連続で更新し、感染状況などを評価する都のモニタリング会議では、専門家から「これまでに経験のない爆発的な感染拡大」とのコメントが出され、最大級の警告がなされた。今後も、少なくとも1週間前後は新規感染者の増加傾向が続くと考えられ、現在45.5%となっている病床使用率も急激に悪化することは明白だ。現在、29日時点ですでに入院患者が3039人となっており、都では病床を確保するため最大限準備できる6406床の確実な確保に向け取り組むという。 

 ここまでは今後の感染爆発に備えた順調な準備に見えるが、入院の必要がない無症状者・軽症者に対する対応は、大阪府との違いが鮮明になっている。例えば、宿泊療養施設としてホテルを中心に都内14施設5703室を確保しているが、都のモニタリング会議で東京都医師会副会長の猪口正孝医師が発言したところによれば、現在の受け入れ可能数は2720室だ。毎日数千人の感染者が出ることを想定すれば、非常に心もとない体制にみえる。

 その理由は、東京都の方針にある。28日、囲み取材に応じた小池百合子東京都知事は、「基本的には自宅、ホテルなどの宿泊療養施設、そして病院の3つの柱」と答え、そもそも自宅療養も有力な対策の一つと捉えていることを示した。さらに、「特に1人暮らしの方々などは、自宅も、ある種、病床のような形でやっていただくことが病床の確保にもつながるし、その方の健康の維持にもつながる」と述べ、むしろ自宅療養を積極的に活用する方針であることを明かした。

 とすれば、東京都に関しては自宅療養で感染者を安全に見守るための具体的な体制が組まれていることになるが、実際調べてみると、正直言って心もとないとしか評価できない。実は昨年から東京都が設置したiCDC(東京感染症対策センター)が「自宅療養者フォローアップセンター」を開設し、LINEアプリなどを使って健康観察や、必要な食料品・パルスオキシメーターの配送などを行なっているが、すでにそのセンターについて説明している都のホームページには

「令和3年7月下旬以降、自宅療養される方の増加に伴いまして、保健所や自宅療養者フォローアップセンターからの連絡について、数日お待ち頂く場合がございますので予めご了承願います」

と掲示されており、現時点で業務がひっ迫していることがうかがえる。またさきほどの猪口正孝医師が29日のモニタリング会議で公表した資料によれば、28日時点で調整中の感染者が13000人を越えている(既報)。

 またこのフォローアップセンターの体制には、医師や看護師などが含まれていない。つまり容体急変時などに必要な医療的対応が含まれていないことを意味する。都では4月にこの課題に対応するため、東京都医師会と協力し、地域の医師等が電話・オンライン、往診による診療を実施する体制を整えたと発表しているが、「東京都医師会や夜間休日に往診を実施している事業者と連携」したと表明しているだけで、具体的に都内全域で何人までの自宅療養者に対応できるか説明がない。なお、ここで説明されている事業者は、往診に特化した医療ベンチャーである「ファストドクター」が都から委託を受けていることを明らかにしている。

 いずれにしろ、自宅療養者がどこに何人いるか把握し、管理するのは保健所とフォローアップセンターとなるわけで、現時点で既に「目詰まり」が起きていることから考えれば、自宅療養を柱の一つにする都の戦略が、早くも剣ヶ峰を迎えているのは確かだ。これからさらに感染爆発を迎えるのが確実な情勢のなか、果たして都民を守れるのか。非常に厳しいたたかいが待ち受けていることだけは間違いない。

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