教育DXで、学生主体の学びへの転換を加速

2021年3月、追手門学院大学は文部科学省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」※1(取組①※2)に『統合プラットフォーム構築とAI-ティーチングアシスタントの導入による学修者本位の教育の実現 ~ OIDAI WIL Plus MATCHによる教育の高度化 ~』が選定されました。関西の中規模私立大学としては唯一の採択で、その実績と先進性が高く評価されたことがうかがえます。OIDAI WIL Plus MATCH とは何か。 2019年の茨木総持寺キャンパス開設や、近年の教育改革、教育DXの展開、今後の展望について、学長の真銅 正宏先生にお聞きしました。

※1大学・高等専門学校においてデジタル技術を積極的に取り入れ、「学修者本位の教育の実現」、「学びの質の向上」に資するための取組における環境を整備し、ポストコロナ時代の高等教育における教育手法の具体化を図り、その成果の普及を図ることを目的に、2021年に公募。

※2「学修者本位の教育の実現」。取組例として、「遠隔授業による成績管理を発展させ、学修管理システム(LMS)を導入して全カリキュラムにおいて学生の習熟度等を把握。蓄積された学生の学修ログをAIで解析し、学生、個人に最適化された教育(習熟度別学修や履修指導等)を実現」があげられている。

新キャンパス開設とBYOD

OIDAI WILとは、本学院の「⾏動して学び、学びながら⾏動する WIL(Work-Is-Learning)」という座学中心の教育手法を脱する新教育の、大学における学修スタイルです。また、OIDAI MATCH(Maximized TeaCHing)とは、ICT 等を活⽤し教育内容にマッチした最適な⼿法で教育効果の最⼤化を実現することを目指す教育の考え方です。これらをつうじて、学修者本位の教育の実現と学びの質の向上を図り、「生涯にわたって学び続ける人材」を育成します。これは、教育DXによる学生にとっての個別最適化された学びの実現と、学びの質保証を目指すための仕組と言い換えることもできます。

・OIDAI WIL OIDAI MATCH

https://www.otemon.ac.jp/guide/neweducation.html

2019年4月、本学は念願の新キャンパスを、大阪府茨木市のJR総持寺駅近くに開設しました。アカデミックアークと名付けた逆三角錐の形をした5階建ての大学棟は外観そのものがユニークです。内部も吹き抜け構造で中央部に図書館を配置し、それを取り囲むように教室が並んでいます。壁が全面ホワイトボードで、机やイスもすべて可動式の教室です。さらに開設に合わせてBYOD(Bring Your Own Device:自分自身のパソコンを持参して使用する)を導入し、学生に主体的な学びを促すための仕組みづくりも行いました。

[caption id="attachment_107965" align="aligncenter" width="650"]

茨木総持寺キャンパス[/caption]

学生たちは使い慣れた自前のPCを保持し、登校時や課外活動はもちろん、自宅でもそれを使って必要な作業をします。大学のPCを使用するのとは異なり、データ管理なども自分で行う必要があります。社会人になってから、ICT環境に即応し、データの管理にも今から慣れておく。ここへ踏み切ったのは、生涯にわたっての学修者主体の学びに最低限必要なことだと考えたからです。

図らずもこうした取り組みが、コロナ禍で余儀なくされたオンライン授業へのスムーズな移行を可能にしました。多くの大学が2020年の春学期の授業開始を遅らせる中、本学は例年どおり4月9日からオンラインによる授業を始めることができました。

学歴主義は18歳の大学入学段階の評価を最優先し、22歳での出口実績は軽視される傾向が長く続いてきましたが、昨今では、卒業時のより実際的な力が問われるようになっており、大学入学後の学びを止めないことはこれまで以上に大事なものとなってきています。大学の4年間、しっかりと学ぶことで、入学段階の差はいくらでも縮められるし、逆転もできる。しかも、人生100年時代と言われるこれからの社会では、卒業後も学び続ける姿勢を身につけてもらうことはさらに大切なのです。

2020年当初の私たちの「学びを止めない」の合言葉には、このような思いが込められており、だからこそ、コロナ禍で1日も遅れることなく授業を開始できたことは大変喜ばしいことだったのです。学生からも「他大学の学生は1ヶ月も遅れてスタートしているが、自分たちはすぐに学び始めることができたので学力に自信がもてた」などのコメントが寄せられました。また、先輩が新入生に対してオンラインによる相談会を早々に実施してくれるなど、思わぬ状況で予期せぬ成果も確認できました。

オンライン化のソフト面の課題とも言われる教員の授業準備も滞りなく行われました。すでにLMS(Learning Management System)を導入して資料配布を削減していたためです。授業以外についても、電子決裁やリモートワーク、オンライン会議のシステムを整備済でした。今では常任理事会のオンライン化も実現しています。またICTの活用が、教育の質を高めるだけではなく教員の負担を減らせることを、FD(Faculty Development)を通じて伝えてきました。オンデマンド授業は資料の印刷の手間が省けるだけではなく、講義資料の蓄積が次年度の授業に生かせるというメリットもあるわけです。事務の効率化も進み、現在では学生の定型的な質問にはチャットボット(人工知能を活用した自動会話プログラム)が答えるなど、大学職員が新しい取組や本来の業務に集中してもらえる体制もさらに進展しつつあります。

学生主体の学びを加速させる

学生は本来、一人ひとり興味の対象や得意なものが違うにもかかわらず、個々に合わせたカリキュラム作成にまでは至っていません。しかし教育のICT化、教育DXは、その個別最適化された学びの実現へ向けての大きな前進になるはずです。

本学では2018年から、学生の成績だけでなく、目指す資格、留学やフィールドワーク体験、ボランティアへの参加やクラブ・サークル活動などを一元管理する「追大e-NAVI」通称オイナビの運用を開始しました。これは、学生本人が日頃の学修や課外活動をデータとして記録し、実績を可視化することにより、自分自身の成長への理解を深めるのに役立ちます。また、教職員も幅広く閲覧できるものとしたことで、学生本人が気づいていなかった強みや弱点、思わぬ得意分野や興味の発見などにも役立ちます。教職員、学生それぞれが、主観的な分析に頼らず、客観性を持って教育、学修の質の向上を目指せるのです。

これを支えているのがアカデミックアドバイザー制度です。大学では一般的に、3〜4年生にはゼミの教員が少人数に対してきめ細かいフォローができますが、1〜2年生にはどうしても手薄になりがちです。そこで導入されたのが、学生20人に対して教員一人を配置するこの制度です。アカデミックアドバイザーが職員とともに「追大e-NAVI」を活用することで、よりきめ細かな指導が可能となりました。

現在、システムのさらなる改良に取り組んでいますが、最新の技術では、例えば授業中のグループ討議における個々の学生の発言について、その回数や量、グループ全体への影響力なども測られるようになります。これにより、本人の満足度に加えて、客観的な参加度、貢献度も測られるわけです。今後データが蓄積されていけば、いずれはAIによるアドバイス、AI-ティーチングアシスタントの実現も可能になるのではないかと期待しています。これは、文系中心で、TAを担える大学院生が少ない本学にとっては、大きな戦力になるとも期待しています。

「追大e-NAVI」についても、当初は個人情報管理のセキュリティについて懸念するなどの意見もありましたが、「一人ひとりの学生を見守るため」にはどうしても必要と説明し実現してきました。近年の教育改革のもう一方の柱である学修スタイル「OIDAIWIL」は、授業や学内外で実施される様々な活動をWILプログラムとして登録もしくは認定し、学生に主体的な学びの自覚を促すものです。現在44科目325クラスが開講されています。学生同士が共同で作業し、共同して発信する授業や、グループワークやインターンシップ、フィールドワークなどが中心です。企業との連携も多く、社員を招いて発表を聞いてもらうようなものもあります。ただ現状のコロナ禍の中で、学外での活動や、対面での作業に制限がかかっており、完全な運営には、今少し時間が必要です。

大学間競争を生き抜く定員1.5倍構想他

少子化の進行に歯止めがかからない中ですが、本学ではより多くの学生に学びの選択肢を与えたいと考え、今後10年で学生を1.5倍にするという野心的な計画を温めています。実現すれば、学院経営の安定化の大きな力となるとも考えるからです。これまでも本学では、多くの大学が学生募集に苦戦する中、9年連続で志願者を増やしてきました。これに加え、これまで本学を選ぶことの少なかった理系志望者や女子学生などにも学ぶ学問領域が新たに提供できれば、大規模大学化もさほど困難ではないと考えています。併設する二つの高校の生徒の中には理系志望者もいますので、より求められる学部構成の検討を重ねていきたいと考えています。

キャンパスのキャパシティについては、DX化の一層の進展でより柔軟に対応できるようになると考えています。授業ごとに、オンラインに適しているか対面に適しているか、あるいは対面とオンラインのハイブリッドがいいのかをきちんと見極め、それぞれの授業内容にふさわしい形態を確立していく。そのことでキャンパスの有効活用も可能になる。これは授業の質をさらに高めることにもつながり一石二鳥です。これまで、教室の収容定員の都合で「受けたいのに受けられない」授業もあったわけですし、それが続くことで、学生のモチベーションが低下する危険性もあります。「ポストコロナ」の時代には、リアルとオンライン、あるいはそのハイブリッド等、個々の学生のニーズに沿って、学びたいことが存分に学べる様な仕組作りを最優先にすべきだと考えます。

2022年4月に文学部と国際学部を設置

このような展望の下に、2022年4月に国際教養学部を改組して文学部と国際学部を開設します。文学部については、「なぜ今、文学部?」という声が聞こえてきそうですが、新しいことをするにも、古いことを学ぶことが大事だというのは、どんな時代においても変わりません。振り返れば、本学は1966年、文学部と経済学部の2学部でスタートしました。加えて文学という学問体系が、長い伝統の中で完成されたものであるということも重要です。大学での学びを、具体的な「分野の中身を学ぶ」ことから、「ある学問体系を学ぶ」ことととらえなおせば、私自身の経験からも、文学研究は長い伝統に裏打ちされた恰好の方法です。完成度の高い学問体系と格闘することは、長い人生の中で別の学問を修める際にも、また様々な課題の克服にも、必ず役に立つものと信じています。

国際学部については、すでに国際教養学部があり、その中には、今回の文学部の核になる国際日本学科もあるわけですが、今回はそれを全面改組し、まったく新しい学部を目指します。グローバル人材の育成という目的は変わりませんが、アプローチは大きく変えます。英語が話せることはグローバル人材の一スキルにすぎず、大事なことは、それをどのような形で既存の学問分野と結び付け、社会に有用な形で再定義できるかです。ポストコロナを視野に、本物に触れられるような質の高い学びを得られる留学先との関係構築にも努力を惜しみません。彼らがそこで自国の文化を思う存分語り、SDGsなど、世界の課題について語りあえる日が来るのを今から楽しみにしています。新たな2学部が、相乗効果を発揮し、次の時代を牽引する学部になることを期待しています。

受験生へのメッセージ

変化の激しい時代において、大学時代に学んだことだけで、その後の人生をよりよく生きることは難しくなっています。このような状況で大切なことは、「内容を学ぶ」だけではなく「方法を学ぶ」ことです。経営や文学について学ぶだけでなく、そこで学んだ方法を他の分野の学び、あるいは少し飛躍するようですが、将来の仕事の中で出会う新しい課題の解決にも生かせるように学ぶのです。図書館の使い方に例えれば、図書館を単に本を読むための場所で終わらせるのではなく、様々な本の検索や資料の活用を覚える場とする。後者を続けていれば、探すべき本(情報)が見つからなくても困ることはありません。再度ふさわしい本(情報)を検索して見つければいいからです。

加えて、これからは文系でもデータ・サイエンスについての素養も必要です。自身の専門性とITを掛け合わせることが必要なケースも出てくるでしょう。大学の教育もそれに合わせ、不断の改革が必要です。変化の激しい時代、予測不能な社会に備え、生涯にわたって学び続ける皆さんを、先進のICT教育、教育DXでサポートしたいと考えています。

追手門学院大学 学長

真銅 正宏先生

1988年3月 神戸大学大学院 文学研究科 国文学専攻修士課程修了

1992年3月 神戸大学大学院 文化学研究科 文化構造専攻博士課程単位取得後退学、

2016年9月 神戸大学 博士(文学)

2020年4月 追手門学院大学 学長就任、現在に至る。

© 大学ジャーナルオンライン