ジェンダー問題 どう思う? 「好きになる自由を」「自分らしくいるために」 長崎県立大3年 梅木結衣さん(21) 長崎市の会社員 荒木彩矢香さん(23)

シンブンってものが、ありまして。

 男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」が長年、世界最低レベルにとどまる日本。若者世代は、どんな問題意識を持っているのか。長崎県内でジェンダー問題に取り組む2人を訪ねた。(六倉大輔、嘉村友里恵)


 「みんな、お疲れー」。6月下旬、長崎県立大3年の梅木結衣さん(21)は長崎市内の自宅で、パソコン画面の仲間たちに手を振った。梅木さんが参加する「Youth Gender Studies」は、居住地、年齢、立場が異なる女性10人がSNS(会員交流サイト)でつながるグループ。義務教育課程へのジェンダー教育導入を目指し、SNSでのメッセージ発信やオンライン署名に取り組む。新型コロナ禍の影響で、メンバーと直接会ったことはないが、定期的にオンラインで意見交換する。

「Youth Gender Studies」のメンバーと活動についてオンラインで話し合う梅木さん=長崎市内

 この日も、積極的に発言していた梅木さんだが「他のメンバーと比べると、考えや思いが強いわけじゃない」と語る。元々はSNSで発信力や影響力のある女性に憧れていた。「感性を憧れられるような女性。『イットガール』っていうんですけどね。でも自分には、そんな感性も、知識も、あと勇気もなかった」。自分で学び、発信できるテーマとして選んだのがジェンダー問題。意外とカジュアルな動機だったので、記者は少し驚いた。

 活動の原点として忘れずにいる出来事はある。高校時代、友人から性的少数者(LGBT)であることをLINEで明かされた。LGBTの存在も、言葉も、知っていたが「自分の周りにもいると分かってなかった」。「ゲイみたい」「レズなん?」。教室でそんな冗談が飛び交っても受け流していた。「誰かを好きになったとき、気付かれないように抱え込むのは、つらいだろうな」。当事者の気持ちを想像すると、自然と涙があふれた。

 「私たちの世代にもまだまだ偏見はたくさんある」と言う。例えば、こんなことがあった。「性の多様性を受け入れよう」。グループのSNSで発信した一見ポジティブなメッセージ。だが、LGBT当事者から「『受け入れよう』が引っ掛かる。誰かが受け入れても、いなくても、私たちは『いる』から」と指摘された。活動で気付きを得て、日々考えを更新している。

 「記者さんも今、『カミングアウト』って言いましたよね」といきなり切り出された。LGBT当事者が性自認や性的指向を告白するという文脈で確かに口にしたばかりだ。「その表現も隠すのが前提のように受け取れるから、気になる人もいる」。なるほど。

 「人を好きになる自由を、誰も阻害しない世界になるといい」と願う。社会を急に変えるのは難しい。でも自分が変わることはできる。自らの偏見や間違いに気づいたとき、素直に変われる人でいたい、と記者も思う。

# 嫌だと言っていい


 もう1人の主人公は、長崎大公認サークル「Partner’s Shoes」を立ち上げた長崎市の会社員、荒木彩矢香さん(23)。明るくはつらつとした梅木結衣さんとはある意味で対照的な、控えめな雰囲気の若者だった。

 だが行動力はすごい。大学4年生だった昨年夏、たった1人でサークルをつくった。ツイッターなどで仲間を増やし、身体や性に関する学生向けの雑誌制作に協力。大学の性的少数者(LGBT)への対応ガイドラインの意見書も取りまとめた。大学を卒業した今は社会人の有志で活動し、性や身体に関する情報をまとめたパンフレットを県内の高校に配布しようと動いている。

サークルのメンバーとの会話を楽しむ荒木さん(右から2人目)=長崎市、長崎大文教キャンパス

 わずか1年でこれほど精力的な活動。もともと行動力があるタイプだったのかと聞くと「どちらかと言えば消極的。何かを始めるだなんてしたことがなかった」とはにかんだ。

 諫早市出身。子どものころから周囲の言うことを素直に聞いて育った。やめたかった習い事も、量が多くて負担だった高校の課題も、言われた通りに取り組んだ。同じだ-と思わずペンが止まった。記者も似たような高校生だった。大人が勧める勉強法や受験校に従い、進路を選んだことに今も小さなしこりがある。

 荒木さんの転機は大学3年の春。親の勧めで通っていた公務員試験の講座がつらくなり、思い切ってやめた。空いた時間に始めたのが性教育やジェンダーに関するオンラインイベントへの参加だった。妊娠、育児で女性が直面するさまざまな生きづらさを新聞やニュースで見聞きし、何となく気になっていた。

 自分の身体は大切で、嫌なことには「嫌だ」と言っていいということ。男女別の制服や出席番号に疑問さえ感じていなかったこと。参加するうちにさまざまな「当たり前」にとらわれ、疑問すら感じていなかった自分に気づいた。周囲に合わせて生きてきた自分自身が抱える息苦しさとも重なるように思えた。

 もっと身近に、意見を言い合える場所がほしい。そんな思いでサークルを立ち上げた。友達との会話では「考えすぎ」と言われそうな小さな疑問も、メンバーは一緒に考えてくれた。サークルは、ありのままの自分を肯定する居場所になった。

 社会人になり、さらに大事な場所になった。「女性は結婚したら姓が変わるから」「結婚後はパートナーを支えなきゃね」。職場の何げない会話で「当たり前」に触れたときも「とらわれなくていい。私はこうだ」と前を向けるようになった。

 「昔は『真面目だね』と言われて嫌だったけど、最近は『ユニークだね』に変わって」。取材の終盤、荒木さんは声を弾ませた。ジェンダーについて考え、行動してきた時間が「『自分らしくいる』ことをかなえてくれた」。

 記者はどうだろう。30代になって急に増えた友人たちの結婚や出産。笑顔で祝いながら、独身の自分が「当たり前」から外れたように思え、落ち込んだりもする。まずは自分らしく-。彼女の柔らかな笑顔にそっと背中を押された気がした。

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