北海道上富良野町ロケツーリズムで地域活性「泥流地帯」映像化目指す人材募集も

北海道・上富良野町は、十勝岳連峰の威容と色あざやかな畑がパッチワークのように連なる美しい風景が広がり、映画やCMの舞台として人気の地だが、約100年前の十勝岳大正噴火で大量の泥流が流れ込んだ大災害の歴史を持つ。三浦綾子の小説「泥流地帯」は、町の復興の歴史を伝える作品として愛されており、企業版ふるさと納税を活用した映像化プロジェクトが進められている。地方移住をテーマにしたメディアを展開する堀口正裕プロデューサーと映画ソムリエの東沙友美さんと同地をめぐり、上富良野の魅力と映像制作通じた地域活性の可能性を探った。

■大災害から復興した豊かな大地

上富良野町は、北海道のど真ん中、上川地方に位置する。旭川空港から車で約30分、人口は約1万人、農業が盛んなの町だ。じゃがいもや小麦、大豆をはじめ、サッポロビールの指定農場があるなど国内でも唯一のホップとビール大麦の産地としても知られる。十勝岳や富良野岳など標高2000メートル級の山々に囲まれた盆地の起伏がある地に、さまざまな作物が栽培される畑がパッチワークのように並び、夏には美しいラベンダーが咲き誇る風景は、隣町の美瑛町と並んで多くの観光客に愛されている。

この美しい風景には、大災害からの復興の歴史がある。1926(大正15)年5月、十勝岳の噴火で山に積もった雪が融け、すさまじい泥流となって麓の町を襲い、死者・行方不明者144人、田園地帯約800ヘクタールが飲み込まれるという悲惨な災害が発生。1897(明治30)年から開拓者たちが原野を切り開いた地を、岩や木を巻き込みながら、硫黄が混じった強酸性の泥流が大量に覆い、農業は不可能とさえいわれた。だが、町民たちは瓦礫を除き、泥流の上に山を削って新しい土を乗せるという途方もない作業を重ね、再び作物が実る土地を再生。これが「2度目の開拓」と呼ばれている。

■「2度の開拓」の映像化目指す

泥流災害からの復興に挑んだ若者たちの姿を、「氷点」などの三浦綾子が描いた小説が「泥流地帯」だ。旭川を拠点としていた三浦は、実在の被災者の聞き取りをするなど丹念に取材し、1976年から北海道新聞で連載小説として発表した。正続の二部作として刊行され、100万部を超える名作だが、「氷点」や「塩狩峠」など三浦の主な作品が映画やドラマになっている中、いまだ映像化されていない。

小説「泥流地帯」の記念碑を前に(左から)井上馨さん、東沙友美さん、堀口正裕プロデューサー

「2度の開拓」という町の誇りを世界へ発信したいと2018年、当時の向山富夫町長が企業版ふるさと納税を活用した映像化プロジェクトをスタートさせた。それに合わせ、映画やドラマ、CMなどのロケを誘致して、町の魅力を発信して観光誘客を図る「ロケツーリズム」にも取り組んでいる。富良野といえば、ドラマ「北の国から」の舞台として、日本におけるロケツーリズムの先進地としても知られ、上富良野にも「北の国から 95’秘密」で、田中邦衛演じる黒板五郎と、宮沢りえ演じる小沼シュウが一緒に入った「吹上露天の湯」が一躍有名になった。2020年に公開された菅田将暉×小松菜奈W主演の映画「糸」でも主要なロケ地となり、町役場が重要なシーンの舞台となって、「なりきり写真」のスポットが人気となるなど。いまでも聖地としてファンが訪れている。

■ロケ誘致に注力

上富良野町役場に設置されていた映画「糸」の記念写真ボードで撮影する井上馨さんと東沙友美さん

町では2021年3月から「ロケサポートかみふらの」を開設し、地域おこし協力隊の井上馨さんがロケ誘致のための情報発信や、映像制作者の支援、エキストラなど撮影協力のボランティアの募集、「泥流地帯」プロジェクトの推進にも取り組んでいる。コロナ禍の中も大作のドラマなどさまざまな映像作品のロケ誘致に成功しているが、井上さんは東京から協力隊として赴任して3年となる来年5月までの任期のため、「泥流地帯」の映像化プロジェクトの本格化を前に、現在後任を募集している。

今回、協力隊募集企画の一環で、ロケツーリズムと映像制作によるまちおこしに取り組む上富良野をTURNSの堀口プロデューサーと映画ソムリエの東さんが取材に訪れた。2人は、小説「泥流地帯」の文学碑や泥流で山頂から流されてきた巨岩、泥流被害や開拓の歴史を語る郷土館などの「泥流地帯」関連のスポットを見学。また、映画「糸」の舞台となった美しいラベンダーが広がる日の出公園や、ドラマ「優しい時間」に登場する「ジェットコースターの路(みち)」などのロケ地を巡った。斉藤繁町長とも対談し、「泥流地帯」やまちづくりについての思いを聞いた。

■専門家も感動

上富良野の町づくりについて語り合う東沙友美さんと堀口正裕プロデューサー

全国の地域活性化に詳しい堀口さんは「『糸』を見て涙が止まらなかったが、ロケ地を訪れてさらなる感動がありました。ロケ地となったグラウンドで子供たちが映画を撮ったことを語ってくれ、町の人たちが一緒に作っていることを誇りに思っていることを感じました。地域おこし協力隊の井上さんが町の人たちと一緒に活動している姿を見て、上富良野の人々のすばらしさを実感。私も映画の成功に協力したいと思いました」と語る。

上富良野の美しい風景や名物の「豚サガリ」の焼肉の味、町の人々のやさしさを知り、「リラックスして、デトックスできて、上富良野が大好きになった」という東さんは「『泥流地帯』の歴史を知り、胸が苦しくなる思いをしました。それだけに映像化プロジェクトに成功してほしいと心から思いました。地域おこし協力隊として映画づくりなどにかかわることができるのはうらやましい。自分も参加したいぐらいです」と笑顔を見せた。

上富良野町では、ロケサポート業務を担う地域おこし協力隊を募集している。

募集の詳細はこちら

https://turns.jp/50406

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