失血死する中国経済~中国経済「死に至る病」(中)|石平 中国経済の成長と繁栄は結局、巨額な借金のうえに成り立っている。中国企業は今後、長期間にわたる「デフォルト倒産大量発生」の時代を迎えることは間違いない。

鉄道会社の負債だけで93兆円

中国の経済問題を取り上げた前回の本欄は、国内の個人消費が徹底的に不足しているなかで、中国経済はいままでずっと輸出と投資の拡大で成長を引っ張ってきていることを解説した。そのなかでもとりわけ、インフラ投資や不動産投資からなる投資部門は、まさに「成長の巨大エンジン」として中国経済を牽引してきている。

インフラ投資の場合、たとえば中国版新幹線の高速鉄道建設はその典型例の一つである。中国で高速鉄道の建設が始まったのは2005年のことであるが、2020年末で営業距離は世界一の3万8000キロに達し、わずか15年で日本の新幹線の10倍以上の鉄道網を作り上げた。

短期間においてそれほどの鉄道を作れば、当然のことながら鉄鋼やセメントなどに対する巨大な需要が生まれ、建設現場では大量の雇用を創出した。それらは国内総生産(GDP)に計上されて、中国の経済成長に大きく貢献したはずである。

問題は、これほどの大規模投資がどのようにして実現できたのかだが、そのやり方は簡単だ。高速鉄道の建設は政府主導のプロジェクトだから、建設資金は国有銀行からいくらでも借金できる。お金をいくらでも借りられるのであれば、高速鉄道はいくらでも作れるわけである。

しかしその結果、高速鉄道を建設し経営する主体の中国国家鉄路集団は、いまや借金まみれに陥っている。2020年になると、その負債総額は5兆5700億元(約93兆円)にも達している。さらに高速鉄道は運営が開始当初から全体的にずっと赤字なので、巨額な負債を永遠に返済できない見通しである。

「デフォルト倒産大量発生」の時代に突入

これは何も高速鉄道に限ったことではない。投資部門における経済成長の「秘法」はどこでも同じだ。国有銀行からお金を湯水のように引っ張り出してそれを採算度外視の建設プロジェクトに注ぎ込めば、経済は自ずと成長できる。だがその結果、高速鉄道が抱えるような負債問題は、いまや全国的な大問題となっている。2019年末の時点では、政府・国有企業・民間企業・個人の負債を合わせた中国国内の負債総額はすでに500兆元に上っているが、それは同じ年の中国のGDPの5倍以上、日本円にして8450兆円以上に相当するという、気が遠くなるほどの天文学的な巨額な数字である。

インフラ投資頼りの中国経済の成長と繁栄は結局、巨額な借金のうえに成り立っていることがこれでよく分かる。しかし、巨額負債のツケは必ずや回ってくる。負債に押しつぶされデフォルト(債務不履行)し、倒産する企業もたくさん出てくる。

実際、2020年の一年間に全国で発生した有名上場企業の倒産再建案件は15件にも達している。さらに、企業が社債を発行して債務不履行となった案件は150件、その金額は1697億元(約2兆7171億円)に上り、19年の1495億元を上回り過去最高額となった。

中国企業は今後、長期間にわたる「デフォルト倒産大量発生」の時代を迎えるであろう。

金融危機発生の可能性が高い

企業の大量倒産は失業者をたくさん生み出して深刻な経済問題・社会問題を作り出す一方、いままでは企業に気前よくお金を貸し出していた金融機関にも大問題をもたらす。企業に貸し出した巨額融資の多くが焦げ付き、不良債権と化すからである。あまりにも多くの不良債権を抱えることになれば、金融機関の大量破綻、すなわち金融危機発生の可能性が高くなってくる。

それが実際に起こると中国経済は悪夢のような結末を迎えるのだが、その一方、自らの破綻を恐れる金融機関は企業への融資を貸し渋る。それはまた、多くの企業を流動資金の不足による生産活動の停滞に追い込み、経済全体の落ち込みと成長の鈍化を招くことになる。しかも、金融機関の貸し渋りによって倒産する企業がさらに増えるのも必至である。

結局のところ、成長維持のための借金に頼った無暗なインフラ投資の拡大が深刻な巨額負債問題を作り出し、中国経済に破滅的な結末をもたらすことになる半面、このような結末を避けるべくして、政府主導あるいは金融機関の貸し渋りが一般的傾向となれば、金融という「経済の血液」を失った「失血死」の結末が、中国経済と中国企業には待ち構えている。

こうしてみると、借金頼りのインフラ投資の拡大は、まさに中国経済にとっての「死に至る病」の一つであることがよく分かるが、実はそれと並んで、将来における中国経済殺しの「下手人」となってくるのはまさに投資のもう一つの重要部門、不動産投資の拡大なのである。次回ではその点を詳しく解説する。(初出:月刊『Hanada』2021年7月号)

石平

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