長崎原爆の日 平和宣言 核禁条約 早期参加を 首相は消極姿勢、違い鮮明

原爆投下から76年を迎えた長崎の朝。原爆落下中心地碑の前で静かに手を合わせる遺族の女性=9日午前9時、長崎市松山町の爆心地公園

 被爆地長崎は9日、76回目の「原爆の日」を迎え、長崎市松山町の平和公園で「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」が営まれた。田上富久市長は長崎平和宣言で、政府に対し、今年1月に発効した核兵器禁止条約の第1回締約国会議へのオブザーバー参加と、署名・批准を強く要請した。
 菅義偉首相はあいさつで、「唯一の戦争被爆国」として核兵器のない世界の実現を目指す決意を述べたが、同条約には言及しなかった。記者会見では「署名する考えはない」と従来方針を繰り返し、オブザーバー参加も「慎重に見極める必要がある」と消極姿勢。同条約を巡って被爆地との意識の違いが鮮明になった。
 平和宣言では、国が定める被爆地域外で原爆に遭った被爆体験者の救済も要請。中村法道知事も「慰霊の詞(ことば)」で同様に求めた。
 広島原爆の投下直後に降った「黒い雨」を巡る訴訟では、国の上告断念に伴う首相談話で、原告全員を救済し同じような事情にあった人を救済できるよう検討すると表明。長崎の被爆体験者の期待も高まっているが、菅首相は記者会見で、被爆者認定を求める長崎地裁での訴訟を念頭に「訴訟の行方を注視する」と述べるにとどめ、明確な方針は示さなかった。
 平和宣言は、4月に93歳で亡くなった被爆者、小崎登明さんの手記を引用し、核兵器廃絶への願いを紹介。北東アジア非核兵器地帯構想の検討も求めた。
 また、新型コロナウイルス禍に触れ、「当たり前だと思っていた日常が世界規模で失われてしまう」と指摘。核兵器も同様に危機をもたらすとして一人一人が当事者として考え行動する必要があると訴えた。さらに「長崎を最後の被爆地に」との言葉に込められた意味を世界の人々と共有し、核兵器廃絶と恒久平和の実現を目指すことをアピールした。
 被爆者を代表して岡信子さん(92)が「平和への誓い」を読み上げ、被爆しながらも救護に当たった体験を語り、核廃絶と恒久平和を訴えた。
 式典は昨年同様、新型コロナ感染防止のため、大幅に規模を縮小。遺族や被爆者のほか、米国やロシアなど核保有国を含む63カ国の大使らが参列した。7月末までの1年間に死亡した被爆者と被爆体験者計3202人の名を記した原爆死没者名簿3冊を奉安。累計奉安数は18万9163人分となった。

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