「無事でいてほしい」「まさか土砂災害が起きるとは」。13日未明、長崎県有数の湯の町、雲仙市小浜町の雲仙温泉街を襲った土砂災害。自然が牙をむき、のどかな観光地の光景は一変した。巻き込まれた女性1人の死亡が確認され、残る家族2人の安否は不明のまま、この日の捜索は打ち切られた。関係者は言葉を失い、2人の無事を祈った。
無残に瓦がほとんどはがれた家屋の屋根、木々を根っこから押し流した土砂が道路をふさぐ。見上げる高さに積もった土砂の山を消防署員らが登って、安否不明者の捜索に加わった。
午前8時40分ごろ、道路下手の青雲荘に着いた。広場まで土砂が押し寄せ、足を踏み入れると膝下までずっぽりと埋まり、進むことをあきらめた。土砂が電柱ものみ込んだため一帯は停電し、薄暗い青雲荘のロビーでは、従業員が約80人の宿泊客のチェックアウトや帰り道の案内に追われていた。フロントで取材協力を依頼し、5階客室の鍵を借り、暗い非常階段を登った。
「土砂崩れというより山崩れ」。起点は確認できないが、民家のかなり後方から土砂が流れてきたように見えた。部屋のベランダから見渡すと、押し流された木々や土砂が眼下の広場まで埋め尽くしていた。崩れた家屋では、消防署員らが土砂を取り払い、安否不明の家族の捜索を続けていた。雨がひどくなると、捜索の様子がかすんで見えづらくなった。
青雲荘の総支配人(60)によると、前夜から施設内に泥水が流れ込み、外にはき出している最中、ひどい雨と雷も鳴り響き、「ごぉーん」と家屋が壊れるような鈍い音が響いて停電になったという。
崩れた家の近くに住む男性(79)は、トイレに起きた時に大きな音がして停電になったという。その後、午前5時ごろ消防団に促されて、妻(77)と一緒に青雲荘の広間に避難した。男性は避難するまで土砂崩れとは気付いていなかった。午前11時ごろ、「雷の音だと思っていた。まさか土砂崩れだったとは。家族が助かるといいが」と心配そうに、降り続く雨を眺めた。
捜索が続いた現場付近は、雨と濃い霧で白くかすみ、時折風が強く吹き付けて木々を揺らした。周辺の道路には規制線が張られ、土砂や切り株を荷台に乗せたトラックや消防車両などが慌ただしく行き交った。