「ナックル姫」より凄い…監督絶賛の魔球 女子高校野球初“留学生”が秘めた可能性

昨年11月から高知中央に野球留学している黄晴(こう・せい)【写真:川村虎大】

昨年11月に高知中央に野球留学した黄晴、独特のフォームからナックルを投じる

史上初めて、阪神甲子園球場で開催される全国高校女子硬式選手権の決勝。その舞台に立つ高知中央に“史上初”の選手がいる。昨秋に台湾から来た2年生の黄晴(こう・せい)投手だ。全日本女子野球連盟によると、女子高校野球での留学生は過去に例がない。未知の挑戦は、自身の覚悟と受け入れた西内友広監督の秘めた野望によって実現した。【川村虎大】

「日本語が不安です。大丈夫でしたか?」。少しはにかみながら、すらすらと言葉が出てくる。昨年11月から高知中央の一員となった右腕は、リリースポイントが高い独特なフォームから縦に鋭く落ちるカーブやナックルを駆使する。今年7月に自転車で転倒した影響で、左足首を手術。現在は復帰に向けて別メニュー調整を続けている。

中学1年から競技を始め、2年生で投手に。気がつけば、野球の魅力にどっぷり浸っていた。台湾の高校には女子硬式野球部がなく、ソフトボールを始める選手がほとんど。それでも……。「日本で野球を続けたいと思いました」。YouTubeで日本の女子プロ野球の存在を知り、平成国際大の女子野球部が台湾遠征した際には対戦も経験。徐々に憧れを持つようになった。

日本に行きたいという気持ちを両親に伝えると、「いっていいよ」と背中を押してくれた。ただ、過去に女子プロ野球へ行く台湾人選手はいても、留学する高校生はいなかった。決断できずにいたところ、高知中央から「野球留学をしないか」という話をもらった。

声をかけた西内監督は、同校の男子野球部の指導をしていた際も台湾からの留学生を積極的に受け入れていた。教え子の留学生のひとりから「日本に野球留学したい女子中学生がいる」と聞き、即行動に移した。女子野球発展への思いも込めていた。

「日本だけが勝っていたのでは、女子野球は発展しないんですよ」

WBSC女子ワールドカップで2008年大会から6連覇を達成している日本。ただ、女子球界全体が発展するためには、ライバル国の出現が不可欠になる。そんな未来を見据えた“一手”が、留学生だと考えた。

「台湾代表になって日本を抑えるくらいに」受け入れた高知中央・西内監督の狙い

国際試合を見ていても、外国人選手の素質の高さに驚かされる。「ただ投げる、打つ動作は全然上。ただ、練習環境やトレーニングをしていないから、日本が勝っていますけど」。環境が伴えば、脅威になるのでは――。そう思い立ち、出会ったのが黄だった。

「改めて素質は違うなと思いました。独特なんですよ。縦回転が大きいドロップ(カーブ)に、ナックルボールも投げるんですよ。ナックルなんて投げるのを見たことないから、半信半疑だったんですけど、見て驚きました。吉田えり投手よりすごいんじゃないですか」

かつて話題を呼んだ「ナックル姫」を引き合いに“魔球”の威力に目を見張る。留学してまだ1週間ほどの昨年11月初旬、広島・東広島市で行われた第6回女子硬式西日本大会の折尾愛真高(福岡)戦で先発。「まさか投げないだろうって感じだったので」と黄は驚いたが、5回2失点の好投を演じてみせた。

「将来的には台湾代表になって日本を抑えるくらいの投球を見せて欲しいんですよね」。西内監督はそう期待するからこそ、練習にも熱が入る。異国の地で17歳は懸命に食らいつくが、つい本音も漏れる。「厳しいとは聞いていたけど、思った以上に厳しかった」。親元を離れ、もうすぐ1年。リハビリ中の今は投げることもできないが、テレビに映る母国の大先輩が勇気をくれた。

黄が中学生の時、隣のグラウンドで練習していたのが当時ラミゴ・モンキーズ(現楽天モンキーズ)に所属していた王柏融外野手(現日本ハム)だった。実は台湾南部の町・屏東の、同じ中学校の出身。「意外と小さかった」と目撃した当時を振り返るが「慣れない環境にも関わらず、活躍していて凄い」とNPBで奮闘する姿に見入る。

目標は日本の大学、クラブチームで野球を続けること。そして、台湾代表のエースになること。甲子園での決勝の舞台には立つことができなくても、その先には夢が広がっている。「日本語をもっと勉強して、大学に行って、その後は西武ライオンズ・レディースや阪神タイガースWomenなど強いチームで野球をしたい。そして台湾代表に入って日本の選手たちと戦いたいです」。ワールドカップ6連覇中の日本に、台湾のエースが立ちはだかる日が来るかもしれない。(川村虎大 / Kodai Kawamura)

© 株式会社Creative2