ローリング・ストーンズ「刺青の男」80年代にアップデートされた偉大なるスクラップ  40年前の今日 — 1980年8月24日、ローリング・ストーンズのアルバム「刺青の男」がリリース

ローリング・ストーンズ“最新の全米No.1アルバム”「刺青の男」

初めてリアルタイムで聴くオリジナルアルバムは、そのアーティストとの以降の向き合い方を決めてしまうのかもしれない。ストーンズの場合、僕が初めて聴いたのは40年前の今日世に出た『刺青の男』だった。

It was 40 years ago today
ザ・ローリング・ストーンズの1年2か月振りのオリジナルアルバム『刺青の男(TATTOO YOU)』は1981年8月24日にリリースされた。

先行シングルの「スタート・ミー・アップ」がアメリカBillboardで最高2位、イギリスでも7位を記録し、アルバムもイギリスでは2位止まりだったものの、Billboardでは実に9週連続で1位を記録、未だにアメリカでは最新のストーンズNo.1アルバムである。チャートアクション的にも、名曲「スタート・ミー・アップ」を輩出したという意味においても、正に80年代を代表するストーンズのアルバムと呼んで差し支えあるまい。

僕も「スタート・ミー・アップ」と2曲めの「ハング・ファイアー」に魅かれ、翌年このアルバムをレコードレンタルして聴いた。しかし残念ながらLPを購入するまでには至らなかった。通して聴くにはちょっと流れが悪い「しんどい一枚だな」と感じてしまったのだ。

まだまだ自分のロック的素養が足りないのだろうとも当時思ったが、今回この原稿を書くにあたって改めて調べてみて、このアルバムがいまひとつまとまりを欠いていた理由が分かった。キース・リチャーズ曰く、このアルバムは “古いスクラップの寄せ集め” だったのだ。

新曲は2曲、残り9曲は70年代のアウトテイク

リリース当時はクレジットも無かったので全く明らかになっていなかったのだが、このアルバムは全11曲の内、新曲2曲(#6,9)を除く9曲が1973年から1980年までのアウトテイクから仕上げられた曲であった。不朽の名曲「スタート・ミー・アップ」も1977年の『女たち』のセッションでの音源から作られた、れっきとした “スクラップ” だったのだ。

中には1974年末に脱退したミック・テイラーのギターが入った曲まで2曲(#8,11)あり、無断で使用されたとテイラーは提訴しそうになったとか。テイラーが抜けた後の次のギタリスト候補が参加した曲(#7)も収められていて、これだけメンバーも異なり時期も分散していてはアルバムとしての統一感はなかなか求め難いだろう。ミック・ジャガーも、

「すごくいい出来だとは思うんだが、俺がいつも求めている “統一性” ってものがないんだよ」

… と語っていると知って、率直な話、自分の高校生の時の拙い印象も強ち誤っていなかったかと、漸く胸を撫で下ろした。

“スクラップ” からのアルバム作りを急いだのは、ミックとキースが不仲だったから曲が出来なかった、ツアーに向けてアルバムを急ぎ作らなくてはならなかった、といった理由が語られている。

ロックは音数ではない!間(ま)のある音こそストーンズの身上

ジョン・レノンの逝去後ビートルズに本格的に向き合った高校生の僕にとって、『刺青の男』の音は、ビートルズで言うと初期のサウンドに近いと感じられた。音数も多くなく、生楽器が殆ど。そして「スタート・ミー・アップ」に代表される様に、間(ま)も多かった。あまりよくない言葉を敢えて使ってしまうと、すき間が多くて古風な音だった。

しかしこの間(ま)のある音、そして間合いこそがストーンズの身上のひとつであることは、その後彼らの歴史を遡っていくことで分かっていった。代表曲の1曲、1971年の「ブラウン・シュガー」と「スタート・ミー・アップ」は、その間合いにおいて確かに繋がっていた。

となると当時統一感に欠けると感じていたこの『刺青の男』も、ストーンズの曲の間(ま)と間合いは何たるかを学ぶ上では、ファーストコンタクトとしては存外悪くなかったのかもしれず、ロックは音数ではないということも僕はストーンズから学んだのかもしれない。

80年代にアップデートされた“スクラップ”

とは言え『刺青の男』は決して後ろ向きなアルバムではなかった。

ミキシングはブルース・スプリングスティーンやブライアン・アダムスを手がけた80年代の雄、ボブ・クリアマウンテンが担当。「スタート・ミー・アップ」の冒頭での印象的な一音に代表されるチャーリー・ワッツのスネアドラムの音に特に80年代的な加工を行うなど、70年代に作られた曲を次々と80年代にアップデートしていった。

そしてゲストミュージシャンも旧知の鍵盤奏者の3人、イアン・スチュワート、ニッキー・ホプキンス、ビリー・プレストンに加え、ザ・フーのピート・タウンゼントがコーラスで参加(#3)。そして特筆すべきはジャズ・サックスの巨匠ソニー・ロリンズが3曲(#3,6,11)で吹いていることだ。このミクスチャーは80年代ならではなのかもしれない。

更に1981年はMTVが開局した年。これに合わせるべく、メンバーのフレームイン、アウトの仕方、サイズが強いインパクトを残す「スタート・ミー・アップ」を始めとして、力の入ったMVが次々と作られた。

“スクラップ” だからと力を抜くことなく、いや、寧ろしっかりとアップデートされて世に出たのが『刺青の男』だったのである。

この原稿を書き終わったタイミングで、10月22日に『刺青の男』の40周年盤がリリースされるという報が飛び込んできた。“スクラップ” 集は遂に豪華盤が出るまでになったのである。80年代のストーンズのアルバムで豪華盤が出る唯一のアルバムとなるのかもしれない。

カタリベ: 宮木宣嗣

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