最強の楽曲「華麗なる賭け」田原俊彦の魅力を引き出したゴージャスな世界  2021年8月18日 田原俊彦「オリジナル・シングル・コレクション 1980-2021」リリース!

後追い世代が感じる田原俊彦の魅力

90年代に生まれた私は、いわゆる後追い世代の歌謡曲ファンである。煌めく80年代歌謡曲の世界をリアルタイムで体験できなかったのは残念だが、後追い世代でよかったと強く思うことがある。それは、トシちゃんこと田原俊彦の魅力を素直に受け止められたことだ。

田原俊彦は、あまりに眩しいアイドルだ。抜群のスタイルとキュートなルックス、華麗なダンス。男の子らしい無作法はご愛嬌。こんな男の子が「きらめく高原で僕は今君だけのプリンスになると決めたのさ」と歌ってくれるのだから。

まるで女の子に愛されるために生まれたような男の子。田原俊彦は当時のジャニーズ事務所という広大な花畑の中でもとりわけ目立つ真っ赤な薔薇の花だったのだろう。しかし、真っ赤な薔薇を好きだと言うにはトシちゃんのような素直さと無防備さが必要だ。マイナー志向な所がある私は、仮に80年代に中学生の女の子だったとして、あまりにも王道を行くトシちゃんを好きだとは絶対に言えなかったと思うのだ。自意識が邪魔して、彼のステップに惹かれていることも笑顔にきゅんとしていることも気付かなかったかも。君に薔薇薔薇…という感じである。

超人的なダンステクニックと無邪気で清潔な表情が素敵な田原俊彦

幸いなことに、ひねくれ者の私は中学生の頃 “クラスの誰も聴いていないジャンル” として歌謡曲への興味を深め、トシちゃんを見つけた。あれだけメジャーな王子様を、自分だけの秘密の花園に咲いた薔薇として素直に美しいと思ったのだ。私は、自意識を守りながらも、トシちゃんの弾けるような笑顔を愛で、ダンスの上手さに驚嘆し、色々な曲を好きになっていった。

トシちゃんの素敵なところは、まず超人的なダンステクニック。人間は歌いながらこんな動きをすることが出来るのかと目を見張るほどで、トシちゃんが「お師匠さん」だと言うマイケル・ジャクソンを思わせる。それと無邪気で清潔な表情である。駆け引きとは無縁のひたむきさで熱い恋の歌を歌わせると、80年代男性アイドルの中でトシちゃんの右に出る者はいないのではないか。

そんな彼の真っ直ぐな美しさが余す所なく現れている楽曲が、1985年8月にリリースされた「華麗なる賭け」だ。発表当時、トシちゃんは25歳。キュートな面影は残しつつ、成熟した男らしさも漂わせている。

ゴージャスでハリウッド風、「華麗なる賭け」のきらびやかな世界

 唇にくわえた妖しいダイヤモンド
 シャンパンに沈めては
 恋のルーレット回したね

と、抑えた声で歌い始めるトシちゃんは、もはや高原のプリンスではない。この歌の主人公には、王子様ではなく世界を股にかけた泥棒か賭博師が似合う。

タイトルの元になっている映画『華麗なる賭け』(1968年)で、スティーヴ・マックイーン演じる主人公の職業が大富豪の泥棒だったことを思わせる。歌詞の世界はきらびやかで、シャンパン、ルーレット、銀のヒール、砕かれたサングラスとまさに「Gourgeous」で「Hollywood」風の小道具に彩られている。しかし歌の主人公はマックイーンのような余裕綽々の泥棒ではないようで、それがとてもトシちゃんに似合うのだ。

 甘える素振りだけ上手になってくよ
 抱きしめて
 限りなく心まで溶かしてくれ

なんと。この泥棒は人に甘えて心の隙間に入り込み、盗みを働くのを生業としながら、そんな自分に疑問を感じているようだ。子供のような笑顔を持つ25歳のトシちゃんになんと似つかわしいキャラクターだろう。

吉本由美×久保田利伸「華麗なる賭け」は最強の楽曲

そして、白眉なのは以下の歌詞だ。

 世界中のGood Luck あなたに捧げて
 100万ドル 傷ついてもいいさ
 世界中のGorgeous あなたに飾って
 今夜派手にふたり Hollywood Life

主人公は、愛する女性に対して「100万ドル 傷ついてもいい」と覚悟しているのだ。たとえ大富豪でも、「世界中のGood Luck」が自分の意のままになる自信があっても、斜に構えるでもなく、策略で相手を籠絡するのでもなく、ひたむきに真正面からぶつかって、たとえ傷ついても後悔しないと言える、狡さや弱さとは無縁な姿勢。トシちゃんの魅力を引き出す素晴らしい主人公像だ。

それにしても、真っ直ぐな少年の心のまま成長し傷を引き受ける強さも持つ主人公と、彼を翻弄し「夢なら永遠にだまし続けてくれ」と言わしめ「肩すかし微笑ん」でいる女性のストーリーが本当に映画のようで、作詞家の吉本由美さんはどんな人なのかな、と調べてみたらトシちゃんのひとつ歳上の当時26歳の女性で、ドキドキしてしまった。

洒落た題材で歌手の魅力を引き出す歌詞と久保田利伸のロマンティックな曲、その世界観をダンスで完璧に表現するトシちゃん。「華麗なる賭け」は最強の楽曲なのではないかと思う。

自分を高めることに取り組んできた田原俊彦の努力

この後、トシちゃんはコンサートツアーやディナーショーを全国各地で行う等の努力を重ね、再びマスコミの注目を集めるようになった。

そして今年の8月18日には、初のオリジナル音源によるベストアルバム『オリジナル・シングル・コレクション 1980-2021』が発売され、記者会見では60歳という年齢が信じられない、華麗な足上げを披露していた。

還暦を迎えて再び最盛期を迎えたトシちゃんは、まさに「世界中のGood Luck」を手にした存在なのかもしれない。きっと、真っ直ぐにひたむきに、自分を高めることに取り組んできた努力の賜物なのであろう。

自分が後追い世代であることの喜びを再び噛み締める。こんなに素敵なトシちゃんの魅力に気づくまでに回り道をしないでよかった。

カタリベ: 郷ルネ

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