【徹底分析!】横浜市長選挙2021・候補者のSNS比較分析と活用ポイント:どのようにSNSを活用して有権者にアピールしていたのか(中村佳美)

はじめに

かつてない新型コロナウイルス感染悪化の中で、過去最多の8人が立候補した8月22日に投開票が行われた横浜市長選挙。投票率は、49・05%。前回を11・84ポイント上回りました。

中でも、本命視されていたのは、現職の林文子氏(75)、国家公安委員長を辞して立候補した小此木八郎氏(56)、無所属 新人・元横浜市立大学教授の山中竹春氏(48)の3人でした。結果は、50万6392票で山中氏が初当選。次点の小此木氏と、32万5947票で約18万票の差をつけて当選を果たしました。

当選した山中氏のプロフィールはこちら

山中氏のホームページより

「山村部で生まれ育ち、高校時代はラグビーに全力投球。大学在学中、データと数字を根拠に意思決定する「データサイエンス」の方法に惹かれ、それを世の中に還元していきたいと決意。社会人になってからは主に医療や社会福祉の分野に尽力してきました。2014年から横浜市立大学医学部教授に就任。最近では新型コロナワクチンが変異株(デルタ株等)にも有効であるというデータ解析結果をはじめて示し、全国的に注目されました。」

NHKの開票速報によると、山中候補の勝因は、保守分裂で自民党支持層の票が割れてしまったことに加え、政府の新型コロナ対応への不満が批判票となって集中したことが敗因だと報道されていました。得票結果をみると、小此木氏は、IR誘致計画への反対を全面に打ち出し、地元選出の菅総理大臣や自民党の多くの市議会議員、それに公明党の支援を受けて組織戦を展開しましたが、自民党支持層からはおよそ40%の支持に、また、無党派層からの支持はおよそ10%にとどまっています。 

開票結果(出典:NHK https://www.nhk.or.jp/senkyo2/yokohama/17137/skh49787.html?utm_int=detail_contents_news-link_001)

一方で当選した山中氏は、IRの誘致計画に反対し、新型コロナのデータ分析などにあたってきた経験をアピールし、立憲民主党の支持層からおよそ70%の支持を、無党派層の40%台半ばの支持を集めました。結果として、山中氏が新型コロナウイルス対応で高まる政権批判の受け皿となった様子が読み取れます。

今回の両陣営のキーワードを振り返ると、山中陣営は『コロナの専門家・IR反対』を全面的に打ち出したのに対して、小此木氏は『IR誘致反対』を打ち出して展開していました。

では、今回どのようにして、このコロナ禍の中で、キーワード通りのイメージを打ち出し、知名度では勝る小此木氏に差をつけ、無党派層への支持を広げることができたのでしょうか。筆者は、無党派層へのアピールのために欠かせなかったツールにメディアの活用があったと考えています。ネット選挙が得票数に直接的な影響があったかどうかのエビデンスは脇においておくとしても、今回は、過去最大級のコロナ禍であり、緊急事態宣言下においての選挙でした。有権者にとっては、今まで以上にインターネットでの情報取得が多かった可能性も浮かび上がってきます。

そこで今回の記事では、当選を果たした山中竹春氏の”メディア活用”に焦点をあてて一部他候補者の活用と比較しつつ、質的に考察していきます。

(※ネット選挙の投票数への効果の影響や地上戦でのコロナ対策については触れていません。選挙の得票数への影響には様々な要因があり、あくまで一つの可能性としてご拝読いただければと存じます。また、特定の政党を支持する・各陣営を批判する目的とした記事ではありません。)

山中氏陣営は、実際どのようにSNSを活用していたのか

まずは、当選した山中氏のSNS活用(Facebook・Twitter・Instagram)における特徴的な活用ポイントをまとめて解説していきます。

Facebookの活用におけるポイントについて

 (Facebookページを利用フォロワー707人:いいね595人:8/22時点) 

ポイント①選挙一ヶ月前からFacebookページ運用に着手

これは、Facebookだけに限ったことではありませんが、山中候補のSNS運用は、選挙直前ではなく、一ヶ月以上前から着手して更新を始めていました。一部振り返ってみたいと思います。(facebookでの初投稿は、7月3日)

(左:街頭挨拶の初投稿は、7月6日)(右:街頭スケジュール告知の初投稿は、7月7日)

(左:街宣車を入れての挨拶は7月10日)(右:政策に関するコンテンツの初投稿は7月11日)

(事務所開設に伴う演説会の告知投稿は7月17日)

以上が、選挙前の投稿スケジュールとなっています。山中候補にとっての選挙期間前における一日の投稿量は、2〜3投稿のペースであり、1日の投稿内容は、「〇〇駅で挨拶をしました」(報告型)の投稿、「明日の投稿スケジュールです」次の日の街頭挨拶の告知が中心です。告知に関しては、必ず前日に投稿されていました(画像付き)。

このように選挙前から投稿を積み重ねることによって、8月8日の告示日を迎えるときには、山中氏とはどんな人であり、どんな考えと政策を持って選挙戦に挑むのか、一定の情報シェアを終えている状態で、告示日を迎えることができます。このポイントの前提としては、選挙が始まってから投稿を開始し始めるのと、選挙前から投稿をしているとでは、フォロワー・有権者にとって候補者に対する見え方、印象の伝わり方が変わってきます。例えば、選挙前の期間から告示までの活動を発信し続けていた場合、それを毎日見守っているフォロワーもしくは有権者にとっては、候補者の情報に少しずつ接点を持つ機会ができます。選挙前からこの候補者は、頑張っているという印象を付けやすいことで、候補者の行動への信頼に繋がる可能性もあります。事前の投稿で候補者の情報に触れた有権者にとっては、いよいよ始まるという選挙に対する心構えができ、候補者への熱意を醸成し始めておくことができます。また、コンテンツのアーカイブ量にも差をつけやすいこともポイントです。一方で、選挙始まってから投票のお願いだけをする候補者をみると、どのようなイメージに写るでしょうか。結局、”選挙の時だけお願いするのね・・・”という悪い印象になりかねないのです。

ここで、他候補者も覗いてみたいと思います。

現職の林候補は、Facebookに着手したのは7月30日でした。 (facebookページを利用フォロワー93人:いいね81人:8/23時点) 告示日を迎えるまでは、公務での内容を中心に発信しています。

小此木氏は、国会議員としての最終投稿日は、6月11日でした。そして、プロフィール画像を更新したのは、8月1日です。この期間は、こちらのページでの投稿はありません。(facebookページを利用フォロワー1276人:いいね867人:8/22時点) 

そして、テキストを加えた初投稿は8月3日でした。

その後、告示日を迎えるまで、街頭挨拶に関する報告型の投稿を、一日一回アップしています(例:本日は朝に◯◯駅にて、◯◯議員と、夜には◯◯にて ◯◯議員と一緒に皆様にご挨拶をさせていただきました。たくさんのご声援をいただき、ありがとうございました。)のような投稿です。

ポイント②入力できる情報欄はフル活用する

こちらのポイントは、より細かな活用の点です。Facebookページにおいて基本データの各項目欄に入力を行うと、ページトップ左に表示される仕組みとなっております。(画像黄色い枠です)FacebookはTwitterのようにプロフィール画像横に詳しいプロフィールを入力する場所がありません。Facebookにおいて山中候補はこの基本データの詳細欄を活用して、政策・キャッチフレーズ・他SNSへの誘導のためのURLなど、ページを開いた瞬間に伝えたい情報が、一眼でわかるように活用していました。

基本情報を入力すると聞くと一見当たり前のように感じられる方もいらっしゃるかもしれません。例えば、小此木氏・林氏のFacebookページには、細かなプロフィールが記載されておらず、どのような人物なのか、一眼ではやや伝わりづらい印象になってしまいます。

候補者は、基本的にTwitterをメインで活用することが増えたために、Facebookページにおいては細部までに情報を入力する候補者は少ないと思いますが、実際に各候補のページを見比べてみた際にどうでしょうか。

初めて目にした際に、どちらの方がより具体性があり、候補者のイメージがしやすいでしょうか。訴えたいキーワードをトップにおくことによって、候補者像のイメージを際立たせ惹きつけることに繋がります。このように、情報のわかりやすさを具体的に明記して提供することは、どのメディアにおいてもとても大切なことです。その情報をわかりやすい言葉で伝えようとしている候補者の姿勢こそが、有権者にとっての政治家としての信頼イメージへと直結してくるからです。

ポイント③固定投稿には、候補者の自らの言葉で語っているテンポのいい紹介動画を採用

山中氏の固定投稿には、候補者が自らの言葉で語る動画が固定されていました。動画の構成は、1、候補者が考える市政への課題(自身の子育て経験を通じたストーリー)→2、私が考える横浜市政の足りないところ(専門分野を活かせます)→3、なぜ立候補をするのか(科学的根拠に基づいた要素を増やしたいから)→4、自分が目指す横浜市政とは(カジノ頼みの経済ではだめ)有権者が、最も知りたいであろう部分や要素を語っています。全体で約2分間での構成かつ、正面からの撮影アングルではなく、いろんな角度から撮影されていることによって、視聴者の離脱(飽きさせない)を防ぐ工夫がされていました。また、この投稿をする際のテキストは、二言程度のみ、ビジュアルで訴えることを意識しています。

Facebookページの設計上、文字を書けば書くほどスクロールしなければ添付コンテンツに辿りづらくなってしまうためです。例えば、林候補のFacebookを見てみると、テキスト+WEBサイトへのリンクが表示されています。Facebookは、一定のテキスト量を超えるとテキスト表示が省力され、’もっと見る’というボタンが現れます。

そして、このボタンと押すとドーンとテキスト全文が表示される仕組みとなっています。そういった場合には、見ているユーザーは投稿するテキスト分量が多ければ多いほどスクロールしなければなりません。添付したコンテンツまで辿り着かないまま離脱してしまう可能性があります。

また、小此木氏の固定投稿は、第一声動画が投票日まで投稿されています。こちらの動画は、出陣式の際に応援弁士に駆けつけた国会議員と候補者の第一声が入っているものです。実際の候補者のメッセージは、「IRは反対します」という意気込みを語っている内容となっています。

こちらの動画は、全体で2:20の短めでダイジェスト風にまとめられています。候補者のメッセージは一番最後に編集されており、候補者の考えが知りたい視聴者にとっては、途中で離脱してしまう可能性が高い構成です。ちなみに、候補者の場面でのメッセージは、私は「IR・カジノ反対」で、当選後も態度を豹変させたりしません、という内容です。この動画はページトップに固定されているため、このページに訪れた新規ユーザーはこの動画をクリックする機会が多い中でしょう。初めてこの動画を見た有権者は小此木氏に対して、どのようなイメージを持つでしょうか。”この候補者は、こんなにも偉い議員から応援されている候補者なんだ、じゃあ、私も投票しよう!”という気持ちになるでしょうか。コロナを一刻も早くどうにかしてもらいたい有権者の立場に立って考えた際に、この候補者はどんな実績があり、このコロナ禍でどのような政策を考えているのか、小此木氏じゃないとできない政策は何か、こういった具体的な点を知りたい有権者は多いのではないかと考えます。このように候補者の考えを盛り込んだ、ビジュアルで訴える動画をトップにおいておくことで、有権者の興味関心を惹きつけることに繋がってくるのです。

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