NASA小惑星探査機「サイキ」2022年8月の打ち上げまで1年を切る

【▲ NASAジェット推進研究所のクリーンルームで組み立て作業が行われている小惑星探査機「Psyche(サイキ)」(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

アリゾナ州立大学が主導するアメリカ航空宇宙局・ジェット推進研究所(NASA/JPL)の小惑星探査機「Psyche(サイキ)」は、2022年8月に予定されている打ち上げまで1年を切りました。現在JPLのクリーンルームでは、探査機の最終的な組み立て作業が進められています。

■金属が豊富な小惑星プシケを探査するミッション

サイキは火星と木星の間に広がる小惑星帯を公転する小惑星「プシケ」(16 Psyche)の周回探査を目的としています。1852年に発見された平均直径226kmのプシケはそのほとんどが金属でできていると考えられており、鉄やニッケルといった金属を豊富に含む「M型小惑星」に分類されています。

プシケの正体については、もともと内部が溶融して鉄(コア、核)と岩石(マントル)に分化した後の惑星のコアであり、他の天体と衝突して外側が失われた結果、金属質のコアがむき出しになったのではないかと予想されてきました。そのいっぽうで、従来の予想よりもプシケの空隙率(土壌や岩石などに含まれる隙間の体積割合)は高く、コアそのままの姿ではなく瓦礫が集まってできたラブルパイル天体に近いのではないかとする研究成果も2021年に発表されています。

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【▲ 小惑星プシケを描いた想像図(金属と岩が大まかに分かれていると想定)(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/Peter Rubin)】

過去に探査機が接近して観測した小惑星や彗星は主に岩石や氷でできていたため、サイキは金属質の小惑星を間近で観測する初のミッションとなります。地球のコアを直接調べることはできませんが、太陽系初期の惑星のコアだったかもしれないプシケの観測を通して、地球のような惑星の形成についての貴重な情報が得られると期待されています。

■2026年にプシケ到着、2年近く観測を行う予定

サイキの打ち上げにはスペースXの「ファルコン・ヘビー」ロケットが用いられます。2022年8月の打ち上げ後は軌道を調整するための火星スイングバイを2023年に実施し、プシケには2026年に到着。探査期間は21か月間の予定で、磁力計、マルチスペクトルイメージャー、ガンマ線・中性子線分光器を用いてプシケの観測を行います。

また、サイキではレーザー光通信技術を用いた深宇宙光通信(DSOC:Deep Space Optical Communications)の技術実証も行われます。DSOCは通信速度の向上を目的に開発されたもので、将来のミッションでは動画のライブストリーミングが実施される可能性もあるといいます。

【▲ 小惑星探査機「Psyche(サイキ)」を描いた想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU/Peter Rubin)】

太陽電気推進(SEP:Solar Electric Propulsion)を採用した探査機の本体はマクサー・テクノロジーズが製造を担当し、2021年3月にJPLへ納入されました。JPLによると、現在の時点では磁力計とDSOCの機器が取り付けを終えており、今後数か月の間にマルチスペクトルイメージャーと分光器が加わります。その後は環境試験を経てフロリダのケネディ宇宙センターへと輸送され、サイキは打ち上げの時を待つことになります。

サイキのプロジェクトマネージャーを務めるJPLのHenry Stone氏は「出荷まで1年足らず、それまでに探査機の組み立てと試験を終えなければなりません。皆にとって爽快かつストレスの多い作業ですが、このチームには成し遂げられる能力があると確信しています。ゴー、サイキ!」とコメントしています。

※探査機およびミッションの名称には「Psyche」の英語読みを用いています

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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL / アリゾナ州立大学
文/松村武宏

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