【新型コロナ】「感染妊婦」救う神奈川の専門医 昨春から稼働、適切な搬送先確保へ保健所に助言

災害時小児周産期リエゾンの役割を担う倉澤医師=26日、横浜市金沢区の横浜市立大福浦キャンパス

 千葉県で新型コロナウイルスに感染した妊婦が入院できずに自宅で早産して新生児が亡くなった問題は、出産を控える当事者らに衝撃を与えた。

 新規感染者が増え続ける神奈川県内では、同様のケースを防ごうと専門医が「リエゾン(連絡係)」として搬送先の確保に汗を流す。二足のわらじで母と子の命を支える医師は「患者を取りこぼさないよう、なんとか踏みとどまっている」と明かした。

 「感染した妊婦が増え続けている。歯止めがかからないと厳しくなる」。県産婦人科医会災害対策委員長で、横浜市立大付属病院(同市金沢区)周産期医療センターの倉澤健太郎医師(48)は、自身の集計データに目を通し、眉間にしわを寄せた。

 第5波の到来で県内の「陽性妊婦」も増加の一途をたどる。3、4月は月20~30人だったが、7月は約130人に急増。8月も上旬の10日間だけで98人に上った。このうち入院患者も1月の10人程度から7月には約40人に跳ね上がった。

 県は基幹病院などを感染した妊婦や新生児の受け入れ先とし、計383床を確保した。ただ、多くは一般病床との「兼用」で専用病床は17床にとどまる。

 通常時でも地域の産婦人科などで分娩(ぶんべん)予定の妊婦が転院を余儀なくされることがある。受け皿が限られる中、搬送調整の力量が求められるが、コロナ禍で現場はさらに混迷。搬送先の確保が難航した場合、通常は医療機関に精通した「県救急医療中央情報センター」が手配に回るが、感染者の調整は感染症法に基づき保健所が担うため、周産期医療の知識が十分浸透していない点が課題だった。

 そこで、保健所などに出産までの切迫具合を含め手配のアドバイスを送るのが「災害時小児周産期リエゾン」だ。東日本大震災など災害時に妊産婦への対応が遅れたことを教訓に設置。国の事業で、各都道府県が養成研修を行い委嘱する。

 県内では全国に先駆けて昨春から稼働。患者の血中酸素飽和度に加え、腹部の張りなど妊婦特有の確認をして症状の度合いを確かめ、適切な搬送先を提案する。現在では計26人のリエゾンを配置し24時間体制で対応。時に自ら患者を受け入れることも。他県の同業者からは「参考にしたい」との問い合わせが相次ぐ。

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