そもそもアメリカに避難所はある?米東部・NYを襲ったハリケーン・アイダ 災害に対する考え方

By 「ニューヨーク直行便」安部かすみ

地下鉄駅で「昨夜の豪雨により地下鉄本数が少ないため不要不急の外出を控えて」というアナウンス。(c) Kasumi Abe

アメリカ東部エリアは1日夜、ハリケーン・アイダの影響で記録的な豪雨に見舞われ、現在まで48人が死亡し、犠牲者は日増しに数が増えている。

ニューヨーク市内では13人が死亡し、多くはアパートの地下に閉じ込められるなどで溺死したと見られている。

日本からも心配の声が多く届いたが、ブルックリンの筆者が暮らす地区は被害はまったくない。豪雨の翌日、翌々日に、筆者はマンハッタンのミッドタウンとダウンタウンを訪れる機会があったが、相変わらずの人出で、街の様子も普段と特に変わりはなかった。

ただし筆者の友人・知人らは、天井からの雨漏りや地下室の浸水などの被害がいくつかあった。

市内の地下鉄は冠水被害のある一部の駅で復旧作業が進められており、電車の本数や路線の縮小や変更も見られるものの、通常通りに運行しており都市機能にそれほど影響を及ぼさなかったのも不幸中の幸いだ。

さて今回の冠水被害で日本の人から心配が多く寄せられるにあたり、1つ興味深いものがあった。それは「アメリカの避難所ってどうなっているの?」というものだ。

例えば日本は地震や津波、台風などの災害による危険が迫った時のための避難所や避難場所が、自治体により指定され、発表されている。

一方、筆者にとってアメリカの避難所と言えばホームレスシェルターが思いつくくらいで、質問されるまで「災害時にどこかに避難する」と意識したことがなかった。

もちろん災害時のための「備え」は必要だ。

停電になったときのために、どこでも一家に一台、ジェネレーター(発電機)や懐中電灯、ろうそくなどは準備されている。今は太陽光で充電できる小型の充電器があり、筆者は携帯電話用に購入し普段から利用しているが、災害時でなくても便利だ。

オフィスビルでは、定期的なファイアードリル(防災訓練)が義務付けられている。災害時を想定し、あらかじめ避難経路を確認しシミュレーションを行う。

パンデミック前は、一般市民を対象とした救命装置講習なども行われ、もしもの時のためのあらゆる知識が啓蒙されていた。

そして何が起きるかわからないご時世であるから、万が一自宅に戻れず、また携帯が使えない状況を想定して、家族や大切な人とあらかじめ集合場所を確認し合うなど、緊急時のための話し合いをしておくことも大切だ。

そもそもアメリカは国土が広いので、地域によって頻繁に起こる災害は異なる。

西海岸は山火事や地震が、内陸は竜巻が、南部はハリケーンが多い。ニューヨークは比較的自然災害が少ない方だが、たまに豪雨、ハリケーン、熱波、大雪災害がある。また銃の乱射やテロも起こり得る。

参照記事

大災害に対応するFEMA(連邦緊急事態管理庁)という政府機関はある。ニューヨーク州では昨年3月、新型コロナが拡大し、FEMAより多額の災害支援を受けた。

感染爆発対策で今日からロックダウン(外出制限)、ゴーストタウンと化するNY

しかし「避難場所」「避難所」という点ではどうか。

例えば今回の豪雨でも、市内では初の「フラッシュ・フラッド・ワーニング」(鉄砲水警報)が発令され、避難ではなく「シェルター・イン・プレイス」つまり「外に出ず、自宅や安全な場所にとどまる」ことが求められた。

携帯電話には緊急アラートが1日午後7時30分過ぎから午前0時前まで、約1時間おきに計6回も送られた。ここにも「避難勧告がない限りは、不要不急の外出を控えるように」とある。

実はニューヨーク市内では、冷戦時代に核シェルター(Fallout Shelter)が作られ、今でもその場所を示すサインは街中に残されている。しかしそれらは過去の産物であり、もはや「避難所」としての機能を果たしていない。

災害時に「ハリケーンの時はここへ」「テロが起こったらここへ」などと事前に「確定」された避難所はないようだ。災害時の基本的な教えは、とにかく「シェルター・イン・プレイス」だ。(新型コロナの感染爆発時もそうだった)

しかし調べてみると、ハリケーン避難センターは市内に点在しており、実際にその時に稼働するか否かは、市のウェブサイトや311コールでその都度、確認する必要がある。

また、自宅や避難所など安全と思われた場所が危険な場合もある。火災やテロのようなケースだ。その場合は必要に応じて外に出る(逃げる)ことが必要だ。そして災害や地域に応じて、その都度、避難所が設けられることもある。とにかく災害の種類、規模、その時の状況に応じて、緊急警報を確認しながら、とどまるのか避難するのか臨機応変に「自分で判断する」ことがこの国では求められる。

避難については、在ニューヨーク日本国総領事館のウェブサイトにも、市から指示されたとき、危険に直面したとき、市民の安全が著しく脅かされた場合にのみ「最終手段として行われる」とある。 いつ避難するかは、市がメディアやウェブサイトを通して、または直接警告を発して市民に伝えられる。

とにかくアメリカでは災害時、「自宅や安全な場所にとどまる」「避難は最終手段」「公的機関をあてにせず自分の身は自分で守る」という感覚が強いと、今回の災害で改めて思った。

◉今回の被害を受けて、ニューヨーク市は4日午前8時より、各区で支援センターを開設し、被害者を支援している。

【ニューヨーク市発表】 

◉自然災害時の情報:ハリケーン、熱帯暴風雨(トロピカルストーム)、暴風雪など

在ニューヨーク日本国総領事館 (領事メール、TwitterFB含む)

外務省海外安全ホームページ

米国海洋大気庁ハリケーンセンター

米国国立気象局

ウエザーチャンネル

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