避難施設頭打ちに 増加数1年で28カ所

 東日本大震災を教訓に県内沿岸の15市町が確保を急ぎ、2年前には千カ所を突破した津波ビルや避難地の増加数がこの1年間では28カ所にとどまっていたことが、神奈川新聞社の調査で分かった。県は今月改定する地震防災戦略で避難施設のさらなる確保を津波減災の重点目標に位置付けるが、沿岸市町からは「これ以上増やすのは困難」との声が上がる。観光客が増える夏場や最大級の津波を考慮した避難対策が今後の課題となる。

 2月末現在の指定数を集計したところ、沿岸部のマンションや公共施設などから選ぶ避難ビルは941カ所、高台の公園や広場などを指定する避難地は128カ所で、合わせて1069カ所となった。避難ビルは震災以前と比べ9倍に増えたが、この1年間では27カ所の微増。避難地の増加は1カ所のみだった。

 増加分の大半は、震災前から指定を進め市町別で県内最多の213カ所を確保した藤沢市と、横浜市に次ぐ173カ所の茅ケ崎市が占める。

 「海水浴客の多い時期や東京オリンピックを考えると、まだ不足している」とする藤沢市は、今後も新築マンションを中心に指定への協力を呼び掛ける考え。茅ケ崎市は順調に増えてきたが、「建物の老朽化などを理由に所有者が辞退を申し出たケースもある」とし、新たな問題に直面してもいる。

 相模湾沿岸の各地には、震源の近い関東大震災型の巨大地震が起きると5分前後で6〜8メートルの最大波が押し寄せる。避難の時間が限られるだけに、浸水域でも津波をしのげる避難ビルが人命を守る上で大きな役割を果たす。

 だが、逗子市はこの1年間では上積みがなく、「候補となる物件はあまり残っていない」と小規模な自治体に共通する課題を指摘。もともと沿岸部に高い建物が少ない二宮町や真鶴町は横ばいが続いている。1カ所増の鎌倉市も「指定への協力が得られないことがある」と対応の難しさを要因に挙げている。

 湯河原町もそうした地域の一つだったが、今月末に商業施設など6カ所が加わる予定。新年度には、老朽化した消防団詰め所を取り壊し、避難タワーも整備する。横浜市も約2億5千万円を投じ、湾や川に囲まれた金沢区の公園に海抜6メートルの高さを稼げる避難施設を今月中に完成させる予定だ。

 既に避難対象地区の全住民が逃げ込めるビルを確保した川崎市や平塚市では、ビルの偏在が課題。「多くの住民が短時間で避難できるようにするには、さらに増やす必要がある」(川崎市)と検討を重ねている。

 こうした取り組みとは一線を画す横須賀市は「指定したビルではなく、海沿いの高台に駆け上がる」ことを避難行動の基本に据え、市民に定着を図っている。危機管理課の担当者は「避難場所を指定すると、津波発生時に避難者が殺到して入りきれなかったり、施設の営業時間外で施錠されていたりする懸念がある」と指摘。津波ハザードマップでは高台を茶色で示し、各自で避難すべき地点を見極めるよう促している。

© 株式会社神奈川新聞社