ロックスターの登場、そしてロックバンドブームへ
1970年代末までは、まだどちらかというと、レコード会社のカタログ的存在でしかなかった日本のロックやポップスが、80年代初頭に佐野元春や尾崎豊、大沢誉志幸や吉川晃司たちロックスターの登場で、多くの若者たちに支持されるようになった。そのまま80年代中盤にはボウイやユニコーン、バービー・ボーイズなどのロックバンドブームを生み出し、それが発展してイカ天へとつながっていったわけなのだ。
今から思えば信じられないほど、まだまだCDが順調に売れていた時代。レコード会社だけでなく、あらゆる業種が潤っていた。右肩上がりの1980年代は、とにかくバブリーな時代。そのおかげでか、今となってはなかなか開かれることのないようなイベントも頻繁に開催されていた。思えば、ほんとに夢のような時代だったね。
伊藤銀次プロデュースのライヴイベント、汐留PITで開催
審査員として、たまたま出演したテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』が大人気となったせいか、僕のところにもそんなイベントのプロデュースの依頼が来るようになった。その中で特に記憶に残っている画期的なライヴイベントが、1989年4月27日に汐留PITで開かれた『BRITISH COVER NIGHT』なのである。
今はもうなくなってしまった汐留PITは、JRがバブル時に売却した汐留貨物駅の跡地に、情報誌ぴあが期間限定で作ったライヴスペース。閉館するまでに、ここでは数々の著名なロックアーティストたちがコンサートを開いた。
ある意味象徴的な “80年代ロックのメッカ” とも言える汐留ピットで、なにか素敵なロックイベントをプロデュースしてほしい… という依頼が僕のところにやってきたのは、それはそれはとてもうれしいことだった。
それぞれ好きなイギリスのアーティストの曲をカバー… というアイディア
1980年代に入って始まった “ブリティッシュ・インベイジョン” は90年代が近づいてくるにつれて落ち着きを見せてきたが、ザ・スミスやニュー・オーダーといった後継者たちの相次ぐ登場で、相変わらずおもしろくて、1986年にポリスター・レコードから東芝EMIに移籍した頃の僕はもうすっかりイギリス寄りのサウンドに傾倒してしまい、ついには1988年から3年続けて、ロンドンでレコーディングまでしたほどだった。
そんな頃だったから、このイベントの依頼があった時に真っ先に思いついたのは、出演者全員が自分の曲をいっさい歌わずに、それぞれ好きなイギリスのアーティストの曲をカバーする… という、自分でも「いいのかな…」と思えるくらいの、とってもマニアックなアイディアだった。タイトルはまさに文字通り「BRITISH COVER NIGHT」!!
どのアーティストも二つ返事!実現した「BRITISH COVER NIGHT」
マネージャーを通して主催者に打診してみたところ、なんとOKが!! そこで、以前から交流のある音楽仲間の中で、なんらかのイギリスのロックに影響を受けていそうなアーティストや、これをきっかけに、音楽空間を共有したかったアーティストに声をかけることにした。
うれしいことに、どのアーティストも二つ返事で参加を承諾してくれ、そして実現した画期的なイベント「BRITISH COVER NIGHT」。まずはとにかくその出演者たちと演奏曲目をご覧いただこう!!
■ かまやつひろし ブーン・ブーン(Boom Boom) / アニマルズ 愛しておくれ(Gimme Some Lovin’) / スペンサー・デイヴィス・グループ ■ 高野寛 ラジオスターの悲劇(Video Killed the Radio Star)/ バグルス ストロベリー・フィールズ・フォーエバー / ビートルズ ■ マーシー(アースシェーカー) ブラウン・シュガー / ローリング・ストーンズ シー・ミー・フィール・ミー / ザ・フー ■ 笹野みちる(東京少年) ノー・リプライ / ビートルズ デイ・アフター・デイ / バッドフィンガー ■ ピチカートV 5-4-3-2-1 / マンフレッド・マン シーズ・ノット・ゼア / ゾンビーズ ■ 小林克也 スモーク・オン・ザ・ウォーター / ディープ・パープル ■ 山口富士夫 プレゼンス・オブ・ザ・ロード / ブラインド・フェイス ワイルド・シング / ザ・トロッグス ■ 高橋研 ホワイト・ハニー / グラハム・パーカー&ザ・ルーモア ユー・リアリー・ガット・ミー / キンクス ■ 戸川京子 アズ・ティアーズ・ゴー・バイ(涙あふれて) / マリアンヌ・フェイスフル ■ 伊藤銀次 アイム・ノット・イン・ラヴ / 10cc ハッシュ / ディープ・パープル
―― どうだろう? イギリスロック音楽ファンならよだれが出てくるセットリストじゃないだろうか?
… と、盛り上がってきたところで、その内容については次回のココロなのだっ!!
カタリベ: 伊藤銀次
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