「気候非常事態」危機感共有を 長崎県内の高校・大学生ら きょう県議会に請願書 シンブンってものが、ありまして。令和のワカモノたち

ビデオ会議システム「Zoom」の画面で請願書案を見ながら、修正内容を話し合うFFF長崎のメンバー

 熱波や豪雨などの異常気象につながる地球温暖化への危機感を社会で共有しようと、長崎県内の高校生や大学生らが15日、長崎県に「気候非常事態宣言」を出すよう求める請願書を県議会へ提出する。国連の科学者組織も気象危機への強い警告を発し、世界規模で「待ったなし」の対策が迫られる中、ここ長崎から行動を起こす若者の声に耳を傾けた。

■縁遠い「政治に」訴え

 7日午後10時。請願提出を目指す若者グループ「フライデーズ・フォー・フューチャー(FFF)長崎」のメンバーが、オンライン会議画面に次々と姿を見せた。提出を1週間後に控え議論は大詰めに入った。

 「内容を変えたくて」。長崎大大学院2年の柳原沙紀さん(23)が切り出した。提出の“下地作り”として5月から県議会の会派や議長、県担当課などを訪ね歩いたが、自分たちの言葉が「大人」に響かないと焦っていた。

 FFFは気候変動対策が進まない現状に抗議する、若者たちの世界的な草の根運動だ。「長崎版」は県立諫早高2年の岩瀬愛佳さん(17)が代表となり、昨春設立した。勉強会や街頭活動に取り組んだが、訴えは広がりに欠けた。多くの人を巻き込むために目を付けたのが、これまで縁遠い感じがした「政治」だった。

 実際、滋賀県議会は若者団体などによる同種の請願を採択しており、岩瀬さんらは、この請願提出に加わった大学生らの協力も得て準備を進めてきた。

■「大人」の言葉や振る舞いを観察

 「気候非常事態宣言」によって県民、行政、議会が一丸となり、環境に配慮した経済や教育を充実させる-。そんな趣旨を県議や県職員らに説明した。賛同の一方で、「思いは受け止める」「宣言に意味はあるのか」「機が熟していない」などと反応はさまざま。「(請願内容が)ダメな理由は言わず、笑ってはぐらかす」ような人もいた。

 記者はオンライン会議を取材しながら、若者たちが冷静に「大人」の言葉や振る舞いを観察していることに驚いた。そして、意見の違いを嘆くだけでなく、むしろ「どうすれば伝わるのか」と考え抜く姿があった。請願書に、ある表現が盛り込まれた。

 「いま地球で火事が起きているとしたら、県の対策は消火活動。宣言は『いま気候は非常事態である』と県民に広く知らせるため、火災報知機を鳴らすことに当たります」

 いつの間にか日付は変わっていた。「できたね」。無邪気に喜ぶ姿を画面越しに見ながら、記者は奇妙なばつの悪さを感じていた。取材を始めた時、何となく「若者」対「大人」の対立構図を思い描いた。でも、彼女、彼らは世代や考えの違いを乗り越えて、課題を共有したいと願っていた。(三代直矢・29歳)

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■「若いのに偉い」に違和感

 「若いのに偉いね」
 長崎県に気候非常事態宣言を求める請願の県議会提出に向けて準備を進めるFFF長崎のメンバーで、東彼東彼杵町のアルバイト、岡本湧月さん(16)は活動中、大人から何度も掛けられた“褒め言葉”に違和感があった。「それってどうなんだろう」

 正直、記者も取材しながら喉元まで出かかっていた言葉ではある。もしかしたら無意識に使ったかも。驚いて真意を尋ねると岡本さんは続けた。「確かに『若い』っていい面もある。こうしてメディアの方々も話を聞いてくれる。でも若いから『なめられてるなあ』って思うことだって何回もあった」。仲間の県立波佐見高2年の林田芽依さん(16)と県立諫早高2年の大原伶菜さん(16)も隣で「うんうん」とうなずいた。

 3人は町立東彼杵中時代の同級生。FFF長崎に合流する前の昨年9月、町議会に同様の請願を提出した。しかし、「趣旨は理解するが、宣言するまでには至らない」という「趣旨採択」に終わった。彼女たちにとって、県議会への請願提出が再挑戦だ。

 中学校の授業で地球温暖化について学び、気候変動問題に関心を持つようになった。高校生の署名運動がきっかけで自治体が「気候非常事態宣言」をした事例を知り、校内で署名運動を始めたが「もっと中学生らしい活動を」と学校側に止められた。「社会問題に関心を持ち、積極的に行動しよう」と教えられてきたので戸惑った。

 卒業後も活動を続け、1年前、町に宣言を求める請願書を町議会に提出。岡本さんは請願人代表として議会で趣旨を説明した。だが、ある議員は「平時にあえて危機感を与える必要はない」、別の議員は「農業振興や企業誘致がしにくくなる」と難色を示し、趣旨採択にとどまった。

 どの大人も「若いのに偉い」と褒めてくれた。でもその後には必ず「難しいことは大人に任せて」「そこまでしなくていい」と議論から締め出す言葉が続いた。結果に意気消沈していた時、活動を会員制交流サイト(SNS)で知ったFFF長崎から連絡があり、昨年末までに合流した。

■気候変動、世代超えた世界の課題に

 世界でも、この1年でさまざまな動きがあった。菅義偉首相は温室効果ガスの削減目標を掲げ、衆参両院も気候非常事態宣言を決議した。米大統領主催の気候変動サミットもあった。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は最新の報告書で、異常気象などの頻発を強く警告した。

 気候変動は既に、一部の若者たちを「偉い」と称賛するだけでは済まない、世代を超えた世界規模の課題になっている。大人が掛けるべき言葉は何だろう。記者の思案を見透かしたように、3人は笑って口をそろえた。「『一緒に頑張ろう』って言ってほしい」(六倉大輔・36歳)

県に気候非常事態宣言を求める請願の県議会への提出を目指すFFF長崎の東彼杵町のメンバー=東彼杵町(撮影のた め、マスクを外しています)

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